「警戒を続けよう。そしてウイルスを制御し、命を守るのだ」(ジョンソン首相)。
累計の感染者数は世界4位となる22万7741人、死者数も世界2位の3万2769人に達しているイギリス。「十分な重症者のケアや専門家治療を提供可能」「死亡率が持続的に減少している」「感染率が持続的に相当数減少している」「検査・防護具を必要な人に十分供給できる」「緩和措置が第二波につながらない確信がある」という5つの解除基準や、11日に政府が発表した50ページにも及ぶ“復興計画”に基づき、今週から段階的なロックダウン解除をスタートさせている。
今週は“第一段階解除”にあたり、13日からは「1日1回」としていた運動の制限を撤廃、在宅勤務のできない職業については職場復帰も認めているが、地下鉄などの公共交通機関の利用は控え、徒歩や自転車での通勤を求めている。今後、学校の再開は早くて6月1日、レストランやパブなどの営業も最速で7月からを想定している。
13日の『ABEMA Prime』に出演した小野昌弘・インペリアルカレッジロンドン准教授(免疫学)は「流行の広がり具合を示す実行再生産数(Rt)に基づいて決めるようにしているようだが、ご存知のとおり、イギリスでは今も一日あたり数千人の新規感染者が出ているし、数百人の死者も出ている状態だ。この点は私も含め、多くの人が不思議に思っているし、野党・労働党は批判している。メディアの論調も完全に割れている。しかし今回のことは新しい事態で、どうすればいいのかは誰にも分からない。経済面での心配もあるので、封鎖解除にあたって具体的に何をするのか、そのプランを出すのが必要な時期だ。野戦病院も完全には埋まらなかったらしいし、第二波のための医療体制もできあがっている。トライアルをしてみて、再び感染が広がるようであれば封鎖の度合いを強める。ジョンソン首相のアナウンスメントも、そういう意味だと思っている」と話す。
「イギリスでは、まず政府がプランを出し、それを受けて企業や大学などが細かく対策を決め始める。ただ、“さあ、働いて”と政府が言っても、まだ準備ができていないし、再び状況が変わるかもしれない。個人的にはもう少し感染者数が少なくなって、詳細を詰めてからでもいいのではないかと思う。自営業者は利益の8割が政府から補償されているし、そうでなくても“働けない”と申請すれば政府から補償金が支払われるので、全労働者の3割が申請している状態だ。私が勤める大学でも、まずは学内でルールを決めたいということで、“まだ出勤するな”と言っている。私はコロナの対応であまりにも忙しく、街の雰囲気を見ることはできていないが、報道やTwitterで見る限り、前よりは人が出ている感じだ。それでもみんなが出勤し始めているというわけではないと思う」。
また、小野氏が「皆が困っている」と話すのが、通勤方法の問題だ。イギリス政府の復興戦略を見てみると、「公共交通機関は可能な限り利用しない」ということの他、「舗装路の幅の拡張工事」「都心部では一部車道への乗り入れ禁止(バス以外)」「車道を閉鎖し、歩行者・自転車専用道路にする」と、交通に関する記述があり、日本とは異なる事情があることがわかる。
「“ソーシャル・ディスタンス”で2mの間隔を開けないといけないと言われているが、山手線の方が快適なのではないかというくらい、イギリスの地下鉄は狭く、非常に混む。そこで“第一段階”では徒歩や自転車を推奨しているのだと思うが、ロンドンは広いし、車の真横を疾走しないといけないので、日本にいるような感覚で自転車に乗ることはできない。私自身、自転車は使っていないし、誰でも自転車通勤ができるという雰囲気ではないので、現場は混乱状態だと思う。これからそれぞれの場所で整理し直して、妥当なルールを決めていくのだと思う」。
一方、日本の専門家会議が検討している緊急事態宣言解除の目安「直近1週間の感染者数が人口10万人あたり0.5人以下」だ。これを人口約1400万人の東京に当てはめると、70人未満になることが解除基準となる。
小野氏は「まず、地域によって自粛が解除されるかどうかが異なるわけだが、そうした都道府県の間の行き来はどうなるのか、という疑問を抱いた。そして、おそらく都道府県によって医療機関にかかっている負担に違いがあるはずだ。その評価が分からなければ、“0.5人”と言われても伝わらないと思う」と指摘した。
また、小野氏は日本に向けて「新型コロナの集中治療に特化した国営病院を主要都市に設置」「広く専門家を登用し、データ収集・統計解析による科学的出口戦略立案チームの発足」「これまでの政策の効果分析と国内外の現状分析を客観的・批判的に行う体制」といった提言している。
「先例がない中、どの国も自国の事情を背景にして対応なければならないが、他国の状況を見て自国の分析し、最適化された方法を探すことはできる。その意味でも、イギリスのやってきたこととその結果を分析するのが有用ではないか。日本にとっても、その中から有用な部分があるかどうかを検討すればいいと思う。まず、皆さんが納得して行動してくれるためにも、やはり調査結果のデータが見える形、フィードバックができる形での戦略をとってほしい。そして大事なのは、状況が変動しても病院が対応できるよう、1年、2年先にわたって機能に余裕も持たせることだ。そして、休業への補償など、皆さんの行動を実質的にサポートする仕組みだ。その間にも、様々なシステムは進化していく。イギリスでも野戦病院が各地に出来上がっていったので、“第二波が来ても大丈夫だ”という安心感が生まれた。上手くいかなかったことに対して“ダメだった”と言うよりも、新しい戦略を立てることに使えばいい」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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