恋愛リアリティーショー出演者の“心のケア”は十分? 誹謗中傷と隣り合わせのSNS
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 23日、フジテレビの恋愛リアリティー番組『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの木村花さん(22)が自宅に遺書を残し、亡くなったことが衝撃を広げている。

・【映像】SNSの誹謗中傷に"指殺人"の指摘も リアリティーショーの課題

 2016年に18歳でプロデビューした木村さん。将来のプロレス界を背負う逸材として期待されていた。プロレスをもっと知ってもらいたい、そんな思いから出演した「テラスハウス」だったが、番組内で同居する男性との間でトラブルが発生。激怒する木村さんの様子が放送されると、SNS上に誹謗中傷が1日100件というペースで寄せられるようになっていった。

■制作サイドによる出演者のケアが不可欠?「リアリティーショー」を取り巻く環境

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 大の『テラスハウス』ファンだという東大大学院生で芸人の大島育宙氏は、今回の問題が起きた背景について「大きく言って3つのことが重なっていたと思う」と説明する。

 「まず、2010年代後半に入ってからネットの言論空間が非常に悪化しているということ。SNSが“このアカウントで芸能人に悪口を言っている俺”のような自意識を生んでしまっていると思うし、TikTok等のコメント欄を見てみると、年齢層が低ければ低いほど罵詈雑言が酷いことがわかる。スマホネイティブ世代であるにも関わらず、教育がすごく遅れていると思う。次に、『テラスハウス』ではVTRを見ながらタレントたちが毒舌っぽいことを言い、それをチュートリアルの徳井義実さんがカバーすることで面白さが成り立っていた部分があるが、徳井さんがいなくなってしまっていたことで、すごくバランスが悪くなっていたことが言われていた。さらに番組制作サイドへの批判に対しテラスハウスの元住人たちが“自分が叩かれた時にはスタッフさんがケアをしてくれた”といった発信を始めているが、最近は新型コロナウイルスによってシーズン途中で撮影が中断してしまっているため、周りにスタッフや他の住人がいない状態が続いていた。そういう中で2カ月前の“揉め事”のシーンがオンエアされてしまった」。

 ABEMAは制作している「恋愛リアリティーショー」について「ドラマのような台本はない」とする一方、若い出演者が多いことから、番組ごとに策定したコンセプトや独自のルールを理解してもらい、本人の意向も踏まえた上で出演してもらっている。また、SNS上の誹謗中傷などについては、スタッフに相談しやすい環境作りに努力しているとしている。

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 大島氏は「『今日、好きになりました。』シリーズでMCを務めているNONSTYLEの井上さんは、炎上しかけたカップルについて自身のSNSとYouTubeで擁護する発信をした。現実と彼女たちの人生は君たちとは違うところにあるということを、若い子たちにも分かるように説明した。一方、テラスハウスは“日常”という体を押し出していて、ほかのリアリティーショーのようなルールがある番組とは異なっているため、エクスキューズを非常にしにくい世界観になっている。だからこそ、MCやスタジオメンバーの方たちは、井上さんのようにSNSを使ってエクスキューズをしていくということが必要だった。誹謗中傷が激化しているということはだいぶ前から分かっていたはずだし、せっかく“スタジオ”という構造があるのだから、そこでメンバーが“誹謗中傷は止めて下さい”とナチュラルに呼び掛けることもできたと思う」と指摘した。

 その上で、「リアリティーショーそのものが悪いという意見もあるが、それならバラエティ番組は全てダメだという話になってしまう。“はじめてのおつかい”や“DASH村”、かつて猿岩石がやっていた企画なども、いわばリアリティーショーだ。それを面白がる、面白がらないはそれぞれの自由であって、誹謗中傷をすることが悪いということを打ち出していかないと、議論がずれていってしまうと思う」と話した。

 エンタメ業界に詳しい佐藤大和弁護士は「私自身もリアリティーショーに関連する相談を受けたことがあるが、出演者本人にSNS上で謝罪文を出させるのではなく、番組を作っている大人たち、テレビ局が番組内や公式SNSでしっかりと発信するなどの配慮が必要になってくると思う」と話す。

■止まらない誹謗中傷は「有名税」なのか?法制度・プラットフォームの課題も

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 木村さんの死が伝えられると、多くの著名人が誹謗中傷に対する疑問の声をツイッターに投稿している。しかし、それは「自己責任論」や「有名税論」であって、メディアに露出した結果だとする意見も根強い。

 大島氏は「一度のメディア出演などで有名税などと言われるのは本当に現実にそぐわない。アスリートや芸人、モデルなどには、ほぼ当てはまらないといっていいくらい。誹謗中傷する側の責任を矮小化する、意味のない議論だ」と反論。お笑い芸人のカンニング竹山は「僕はおじさんで人生経験もあるし、メンタルも普通よりも強い方だと思うが、それでも寄せられた誹謗中傷をずっと見ていると傷つくし、落ち込む時もある。しかし、街を歩いている時は誰も言ってこない。それは書き込んでいる本人が誹謗中傷をするのは悪いことだと分かっているからだと思う。だから難しく考えてもしょうがないし、“再教育”と言い方も変な話だ。そして今回の問題では、次に木村さんを誹謗中傷した人を探し始めるバカが出てくると思う。しかし、SNSは裏垢だろうが匿名だろうが、誰がやったかバレる。お金と時間がかかるから本気でやらないだけだ。そのことをもうちょっとアナウンスしていかないとまずいと思うし、法整備もしないといけない」と憤る。

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 編集者・ライターの速水健朗氏も「誹謗中傷を止めさせるのは難しいし、一部の人たちがやっているという見方も変えなければいけないと思っている。脳科学者の中野信子さんが『シャーデンフロイデ』という言葉で説明しているが、成功者を引きずり下ろす行為には非常な快楽が伴い、誰もが楽しめてしまうと言われている。ネットスラングで言うところの“メシウマ”状態だ。特に芸能人の不倫やミュージシャンの薬物事件などの場合、自分を圧倒的な正義の側に置くことができるし、面と向かって言うわけではないので、罪悪感も薄い。そして、個人ではやらなくても、集団になった瞬間に“これはやっていいことだ。自分たちは正しい側にいるんだ”と錯覚してしまう傾向もあるし、メディアもそういう状況を作っているのだと思う。この問題については、そういうメカニズム、大前提から議論しなければならないと思う」とした。

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 ジャーナリストの堀潤氏は「NGワードを設定し、撥ねつけるという仕組みを取っているプラットフォームもある。しかしSNS、特にツイッターに関してはそういった機能がないので、そこは改善の余地があるのではないか。僕も知人が攻撃に晒されている時には通報機能を使うこともあるが、結果が出るのが遅すぎる。“死ね”といった言葉はSNSには必要ないので、プラットフォーマーには対応してもらいたい」とコメント。

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 佐藤弁護士は「“不祥事を起こした芸能人を叩いてもいいのか”と視聴者に思わせてしまうようなワイドショーが増えている。それが誹謗中傷にもつながっているということは、メディアに出ている方は全員改めて意識すべきだと思っている」とした上で、「各国と比べ、日本は人の名誉・心に対する保護は著しく遅れていると思う。個別の誹謗中傷問題に関しては、IPアドレスや住所を開示させたり、損害賠償請求をしたりすることもできるが、費用として数十万円がかかってしまう。刑法の名誉毀損罪や侮辱罪に当たることがあるし、生命・身体に危害を加えるコメントは脅迫罪に問われる場合もあるが、損害賠償額としては数十万円で終わってしまうケースが非常に多い。集団による誹謗中傷も含め、法制度としてはまだまだ不十分な部分が大きいと思う。その意味では厳罰化や実名化などが必要だと思う。一方で、そもそも誹謗中傷と意見の違いは何なのか、ということも含めた“SNS教育”をすべきだと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

▶映像:SNSの誹謗中傷に"指殺人"の指摘も リアリティーショーの課題

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