週明け解禁される企業の新卒採用面接。将来は課長や部長など、いわゆる管理職を目指すのかと思いきや、近年は若手の出世に対する意欲の低さがクローズアップされるようになっている。
背景の一つにあるのが、ワークライフバランスだ。共働きの家庭が当たり前になっている今、家族の時間など、プライベートを優先に考える人も少なくない。また、勤務先の仕事だけにとどまらず、副業など、活躍の場を広げたいと考えている人も現れている。
また、組織開発コンサルタントで高橋克徳・株式会社ジェイフィール代表は「成長経済の終焉:見返りを期待できない」「ネット社会の進展:フラットに繋がりたい」「教育の変化:ありのままでいい」という3点を挙げる。「会社での出世、つまり大きな仕事ができてお金がもらえて、ということが働く目的や自尊心につながっていたと思う。そこが多様になってきているのではないか」。
テレビ朝日の平石直之アナウンサーは「甲子園であれば強いかどうかではっきりわかるが、出世は人間関係や巡り合わせにもよるし、どこまでいっても達成されない部分がある。その意味では、自分の中での基準を設け、会社との関係をシビアに見ないといけないと思っている。一方で、評価されているかどうかはすごく大事だと思う。やはり評価されていなければ、上の人や会社が変わるのを待つのか、あるいは自分から所属する会社を変えるのか、という選択肢になるし、そのためにも、他の世界でどれくらい通用するかで見ていかないといけないと思う。私場合は専門職なので、そこに特化してやっていけばいいことにはなるが、様々な部署を異動する、いわゆるジェネラリストの場合、社外でどれだけ通用するかという難しさがあるという気もする」と指摘。
慶応大特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「そもそも、社内でランクが上がっていくことだけが出世ではないと思う。甲子園を目指すとか、強豪校でなくても楽しめるというものが仕事にもなければいけないし、会社が人生の全てではないという世の中になってきたのに、会社の昇給にこだわらない人=やる気のない人と見なすのは古い考え方ではないか」と指摘する。「例えば平石さんなら、キャリアアップよりも、視野や領域を広げられているかで評価する、キャリアストレッチという流れの方がしっくりくるのではないか。ベテランのアナウンサーがインターネットテレビに来るというのは、古い考え方で言えばキャリアアップではないのかもしれないが、アナウンサーという仕事の可能性を広げる意味では、キャリアストレッチになる」。
また、達成感の得られる現場が好きで、離れたくないから、という人もいる。お笑いコンビ・EXITの兼近大樹は「営業職で入ったのなら、営業職のプロになった方がいいに決まっているのに、なぜいきなり営業ができなくなって、管理職になることが出世なのか」と疑問を呈する。
東洋経済編集長の山田俊浩氏は「日本の場合、基本的に終身雇用で、現場で上手くやれたりリーダーシップを発揮していたりする人が係長、課長、部長…と上がっていく。責任を負わされ、残業も増えるが、その割に給料がそれほど多くもらえるわけではない。誇り、やりがい、あるいは愛社精神で乗り越えろというところがある。そうであれば、社内の競争に名乗りを上げず、変に出世しないことによってポジションを守ったほうが良い、という考え方も当然出てくるはずだ。加えて、“トヨタに勤めている”“テレビ朝日に勤めている”という具合に、就職ではなく“就社”という感覚が強いので、やはりその中であえて辛い思いをする管理職にならなくても、“この会社に勤めている”というブランドさえあればいいという感覚がある。最近の若い人たちはものすごく保守的で、こうしたブランドに対する依存度が高く、メガバンクや商社など、オールドな企業の人気も高くなっている」と話す。
「本来であれば、“こういう500人のチームで率いている”ということが尊敬されるポイントなはずで、アメリカの場合も、“このジョブ、ポストに就けばこれだけのお金を払うぞ”ということになっている。だからプロの管理職が存在し、それに見合うだけの高い収入も得られる。その代わり、うまく成績を挙げられなければ首を切られることになる」。
神戸大学教授の尾崎弘之氏は「バブルが崩壊するまでは、組織内で出世できなかったら、セカンドチャンスはない時代だった。しかし転職が当たり前になり、学生でもベンチャーを立ち上げるような時代、出世という言葉の持つ意味が古臭いものになり、キャリアアップという言葉に置き換わってきていると思う。実際、出世はしたくなくてもキャリアアップに興味があるという若者は多いのではないか。また、三菱商事に入った人が“やりがいがない。歯車になりたくない。すぐ責任ある仕事をやりたい”と、2、3年でベンチャーに転職することもあるので、若者の感覚は二極化していると思う」と話す。
その上で「私は1980年代に会社に入り、それから6回転職しているが、当時は珍しかったししかし今は戦っている場所にチャンスがなくても、他に行けばチャンスがある。これはすごく大きいと思う。そのために、移っても通用できる人間になるための研鑽を積むということが必要になってくる。それは社内の評価というよりも、営業に強い人、マーケティングに強い人、財務に強い人、という市場で評価されるものを見に付けていかなければならない。また、自分の守備範囲を広げ、裁量を増やそうと思ったら、社内にいても、社外に出ても評価され、出世して管理職になるしかない。それはどんな組織でも一緒だ」とした。