遅咲きの43歳、黒部三奈がタイトルに王手 青木真也が指摘する素質を補う「思考する力」
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 35歳でプロデビューした遅咲きの43歳、黒部三奈選手が、修斗の女子スーパーアトム級王座決定トーナメントのタイトルに手をかけた。女性アスリートで40歳を超えてトップ戦線で現役生活を送れる選手は極々少数です。コンタクトスポーツの究極である総合格闘技特有の体力的な要因もあるし、女性の社会的な要因もあるだろうが、男子選手よりも女子選手の方が、現役を続ける難易度が圧倒的に高いのは事実です。

【映像】視聴者騒然、黒部の「パウンドTKO」

 それも相手とは年齢差17歳。26歳の元柔道トップ選手を相手に競り勝ってしまうのだから、スポーツ界の常識で説明するには無理があるのではないかとさえ思うほどです。

 僕には黒部選手が何か才能に恵まれた選手には見えません。身体的素質があるわけでも、何かのバックボーンがあるわけでもない。体育会系なわけでもなく、日本大学芸術学部美術学科出身のデザイナーが30歳を過ぎて、運動不足を動機に始めた普通にいる女性なわけです。

 試合スタイルもテクニックで斬り落とすファイトスタイルではなく、相手も自分も苦しいタフゲームを仕掛けて、相手に競り勝ち根負けさせる非効率に見えるけれど、彼女にとっては効率的なファイトスタイルです。同じファイターとして、黒部選手のファイトスタイルは試合自体が苦しく、それを可能にする練習の準備もまた苦しいのは容易に想像がつきます。彼女の試合、練習の苦しさを自分ができるかと聞かれたら、首を傾げてしまうのが正直なところです。それほどに苦しいことです。

 一緒にABEMAで解説をしていた同世代45歳の宇野薫選手も黒部選手への尊敬の気持ちを口にしていたし、ファイターの中では黒部選手の格闘技への姿勢に敬意を表する選手が多いです。それも35歳を過ぎた世代で選手であればあるほど、黒部選手の凄さを口にします。

 黒部選手の練習や試合のハードワークを可能にするのは思考する力だと思います。ただハードな試合や練習をするのは誰にでもできることですが、そこに思考を持ち込んで、意味を見出すところまで思考を積み上げることができる選手は希少です。思考すること。弱者が勝者になるための唯一の方法だと思っています。メインで勝利した岡田選手も同じくですが、競技への愛と質量、思考する力が強いからこそ、素質に恵まれなかろうと強さを手にすることができるのでしょう

 キャリアの集大成としてONEへの参戦。修斗のベルトに手をかける黒部選手。自分の目標を整理して、思考することで、必要な道が見えて、没入することを可能にしています。人は過去や未来を考えて、不安や恐怖を感じます。過去や未来を考えないことは人間である以上は避けては通れません。思考することで今にフォーカスする強さ。まさに「今 ここ 自分」だ。彼女の強さを改めて感じました。

 次は7月に王座をかけての試合。武運を祈ります。

文/青木真也

(C)SUSUMU NAGAO/SUSTAIN

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修斗 2020 - 5.31 プロフェッショナル修斗 - 第4試合 女子初代スーパーアトム級王座決定T準決勝 大島 沙緒里 vs 黒部 三奈
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