日本が去年7月から実施している韓国への半導体材料などの輸出規制について、韓国政府は日本側が撤回しないことを理由にWTO=世界貿易機関への提訴手続きを再開すると発表した。
輸出管理強化について、日本側は技術流出など安全保障上必要な措置だとしてきたが、韓国側はいわゆる徴用工問題で韓国最高裁が日本企業に対し賠償命令を下した報復であり、不当な措置だと主張。韓国国内では日本製品の不買運動や反日デモが頻発、韓国政府は去年9月、日本側の措置を不当だとしてWTOに提訴した。さらに貿易とは直接関係のない日米韓の軍事情報を共有する協定GSOMIAの破棄までちらつかせて撤回を要求。しかしアメリカの仲介などにより、WTOへの提訴もGSOMIAの破棄も取りやめ、協議を継続することになっていた。
韓国産業通商資源省の担当者は2日の会見で「韓国政府は去年11月22日に暫定停止した日本の3つの品目の輸出制限措置に対するWTOへの提訴手続きの再開を決めた」と発表。これに対し茂木外務大臣は「韓国側が一方的にかかる発表を行ったことは遺憾であると考えている」、菅官房長官は「昨年7月に発表した輸出管理の運用見直しはWTO協定とも整合でき、こうした日本の立場を今後ともしっかりと説明していく方針だ」と述べている。
今回の提訴の前提として、韓国側は日本に対し「両国間の政策対話」「軍事転用可能な物資輸出を管理する“キャッチオール規制”の整備」「輸出管理体制・人員の脆弱性改善」といった対応をしてきたと主張している。
これについて恵泉女学園大学の李泳采教授は「この6カ月の間、韓国側はWTOの提訴を中止し、日本側の要求に応じて約3年以上にわたって行われていなかった日韓の実務者協議を再開した。さらに輸出管理の不備についても法改正し、担当する組織を改編して人員を増やした。こうした点について、日本側は4月のオンラインの会議で“高く評価する”としていた。しかし5月31日までに、それ相応の返事をしてくれなかった。来月には日本による輸出管理措置が始まって1年になる。もう少し日本側からの積極的な対応があると思ったのにそうではなかったので、WTOへの提訴を再開するということだ。もちろん、提訴したからといってすぐに再開できるわけではない。やはり日本の答えを引き出すための手段ということではないか」と話す。
「日本政府は徴用工問題の判決に対する報復措置だとは言っていないが、やはり韓国国内では報復措置だと受け止められ、去年には不買運動まで起きている。だから韓国は日本が要求する管理の不備について対応したし、お互いコロナ禍で苦しいので、企業関係が活発になるよう、期限を5月末までにした。ただ、経済的な報復措置の延長ではあまり期待ができないので、WTOで解決して、日本との関係を改善したいという意思の表明だと思う」。
一方、元経産官僚の宇佐美典也氏は「3つの項目を満たせば元に戻すというのは、韓国側の一方的な主張だ。日本としては、そういう問題があると指摘しただけであって、クリアすれば戻すとは一度も言っていない。いきなり5月末までと言ってきたのも、ちょっと無礼だと思う。おそらくG7などを見据えて、オチをつけるために動きだしたということだろう」と指摘する。
その上で、「今の日韓関係は、実務的に見ればそんなに悪くはない。基本的に日韓の官僚には信頼関係があるので、必要な協力は行われている。コロナの問題でも、アフリカに駐在している日本人と韓国人の帰国にあたって両国の官僚が協力した。韓国の官僚は日本の制度をすごく勉強していて、下手したら日本の研究者よりも詳しいくらいだ。おそらく今回も、無理筋だということが分かった上であえてやっているので、まともに付き合う必要はないのではないか。産業界も同様で、企業人同士の信頼は損なわれていない。BtoCのところでは問題があったとしても、日韓はBtoBがメイン。無理して強硬な動きをとったところで、両国間で大きく物事が動くとは思えない。やはり韓国側は日本と韓国だけで解決しようとは思っていない。アメリカから“日本と仲直りしなさい”というような主張を引き出すために、ケンカをしておこうみたいなことだと思う」と分析した。
また、韓国政府は先月11日に「3品目については米中欧の製品を使ったり、外資系企業の誘致、韓国企業の生産拡大など様々な対策により実質的に供給の安定化を達成した」と発表している。
これについても宇佐美氏は「サムスンとSKハイニックスの工場が中国にあって、その地域に韓国からフッ化水素が大量に輸出されていたことが統計的にも確認できる。当時、韓国に高純度のフッ化水素を作る技術がなかったということは彼らも認めているので、これは間違いなく日本からのもので、そういうルール違反を韓国がしたのは確かだ。そして、3品目を安定供給できるという話だが、韓国が3品目を自国で作ることは絶対にできない。特にEUVレジストは日本やベルギーなど、先端素材を作っている国ですら安定生産ができていないもの。そういう嘘をついてはいけないと思う。今でも日本は個別に許可を出してフッ化水素を韓国に輸出しているので、この“安定供給”にはそれが含まれているのではないか」とした。
慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「朝日新聞系は取り上げたがるが、WTOへの提訴は毎年いろんな国がやっていること。今までも韓国は政治的な理由でこういうパフォーマンスをしてきた。本気なら、いきなり提訴せずとも外交のパイプはいくらでもあるはずだし、いままでの措置に戻してほしいのなら、ちゃんと横流してないといったことを証明すべきだ。日本と韓国は、お互いに貿易額が第三位の国。こんな痴話喧嘩みたいなことを政治利用されていることがバカバカしい。官僚同士もそうだろうが、僕が役員をやっている会社も韓国の会社とパートナーシップを結んでいるし、民間同士も“馬鹿なことをやっているな”と言う感じがある。日本のメディアは大きく取り上げすぎるところが問題だ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
▶映像:日韓対立が再燃か 韓国がWTO提訴の手続き再開へ
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