運転手は全員60歳以上の住民有志…“陸の孤島”に暮らす人々を支え続ける公共交通機関
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 秋田県横手市の狙半内(さるはんない)地区。人口400人の半分が65歳以上の高齢者だ。電車もバスも通っておらず、買い物ができるお店もない。たった一つの公共交通が、ミニバンだ。運転手は、3年前に自治体から受託した町の人たちだ。市街地まで20km以上、1日4往復・週4日の定期便で、料金は200円~700円だ。過疎地域では、お金を受け取って住民を送迎することが法律で認められているのだ。

・【映像】住民自らが運転手になり住民を有料で送迎(ナレーター:大原櫻子)

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 雪道を走り、お年寄りたちがたどり着いたのは公民館。参加者の一人、高橋フミさん(72)が「ミニのデイサービス」と呼ぶ寄り合いだ。「施設さ行かねぇで、こういうところさ集まって、言いたいこと言って、お茶っこ飲んで。参加したらよって言われて参加したば、面白うしてやめられない」。一人暮らしの高橋さんにとっては、ここが数少ない楽しみ、元気の源なのだ。

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 家にこもりがちだったという佐々木穂子さん(当時82)は、このミニバンのおかげで外に出かけるようになったと話す。「うちの人たちが休みの時に連れてってけろって言って連れていってもらうだけ。自分(の足)で遊んで歩くってことは、大した良いことだと思うっすよ。週2回、温泉さ行くっすよ…」。佐々木さんは、このインタビューの2カ月後に亡くなった。

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 通院のついでにスーパーに立ち寄った高橋ヨシ子さん(79)。「スーパーには1カ月に1回しか来ねぇからな」。子どもに勧められて飼い始めた猫と暮らす。「寂しいなんてことはねぇな。慣れたんでねぇの?父さん亡くなってから7年もなれば。ミニバンも来るからよ、助かっている」。

■「75歳くらいまでは頑張ってくれ、って言われているが…」

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 50年前はタバコ栽培や養蚕が盛んだった狙半内地区。しかし、次第に人がいなくなり、路線バスは採算が合わず12年前に廃線。その後、自治体がお金を出してバスは何とか維持されたものの、走るのは週に3日。週の半分以上は「陸の孤島」だった。

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 何とかしようと動いたのが、住民の有志たち。お年寄りの家の雪かきも手伝うボランティア集団だ。そして2012年に始めたのが、自分たちの車での無料送迎。しかし、長くは続かなかった。現在も運転手を務める奥山良治さん(69)は「まず“白タク行為”じゃないかってことで色んなウワサも立てられるし。不安だらけで、このままやっていいのかなということもありました」と振り返る。

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 自治体の委託を受け始めたものの、予約制であること、乗車時には名前を書かなければいけないことが壁になった。「学校の勉強もロクにしないで家の手伝いをしていた時代だったから、自分の名前を書くのもやっとだという人もいて。誰も乗らない時も多かったんですよ。その時は本当に疲れましたね。何のために我々はやっているんだろうなと。1カ月に1~3名ぐらいしか乗らない状況もあって、それは一番辛かったですね」そこで予約制や名前の記入を無くしたところ、400人の町で月に平均140人が乗るようになった「何とか成功させようという気持ちは強かった。やりかけて失敗すれば困るのは住民だから。続けることによって、色んな方々の応援だとか助けがあって。それでここまできたと」。

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 生まれも育ちも狙半内の奥山さん。中学を卒業すると、隣町の酒店で働くかたわら、家の仕事を手伝った。23歳の時、思いきってサラリーマンに転身した。「学歴もないから、会社は難しいことばっかりで。無我夢中に独学で勉強して。会社時代は“目標、目標“だから、いつも戦いながらやってきたということもあったし、人間的に苦しい立場、ということもあった。定年になったら、また地域に戻ってみんなと楽しくやりたいというのが強かった」。

 現在、1日に走る距離は200kmで、報酬は6000円。決して楽な仕事ではない。しかも、8人いる運転手は全員が60歳以上だ。「75歳くらいまでは頑張ってくれ、って言われているが、生きているかどうかも分からないし、どういう状況になっているか先は見えないし。靴下を履く時、片足立ちでこう履くんだけど、その時にふらつきだしたら、もう辞めようかなと」。

■「狙半内に高校生が私1人。子どもの中で最年長なんですよ」

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 1年前、お父さんのふるさと狙半内に引っ越してきた高校生・奥山栞奈さんも、ミニバンを利用する。「狙半内に高校生が私1人。子どもの中で最年長なんですよ。子どもの数も少ないから思うように遊べないし。東京に1回住んでみたいです。どういうアレなのか。色々お店があるんで。憧れがありますね。うちのおばあちゃん、今認知症なんで、うちのことあまり覚えていなくて、耳も遠いんですよ。家庭のことを考えると、介護士もいいのかなと思っていて。温泉はあるんですけど、スーパーも近くにないし、コンビニも近くにないし、私がもし狙半内に戻ってきたら、そういう所を作ってみようかなという気持ちもある。少しでも楽にさせてあげたいみたいな」。

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 雨の中、ミニバンを待つ高橋志津子さん(90)。夫を病気で亡くして32年。今は息子夫婦と3人暮らしだ。車に揺られ30分。美容室に月に一度通うのが楽しみだ。最近の嬉しかったことは、ひ孫から年賀状が届いたこと。「前向きに生きているわけでねぇどもすよ、うちにいれば、ふさぎ込むわけでもねぇどもすよ、大衆さ(人がいる所に)行けば、まず話できるから。一つでも何か覚えてこようと思うから、どこさ行ったって楽しいっす」。

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 白澤瑠莉子さん(37)は、隣町のカフェで働きながらもうすぐ運転手としてデビューする予定だ。「この地域には何が足りないんだろうって思って、私たちの代が何をしていくべきなのか…。ワクワクします。どういう出会いが待っているのか」。奥山さんが「今運転しているのは、こういう60歳、65歳とかじゃないですか。若い方がいるんだ、じゃあ我々も入って良いんだ、という風になると、後継者がどんどんつながっていく。それも楽しみっていうか。そのうち我々も“乗せてくださいって”。な」と話すと、白澤さんも「そのうちに!」と笑顔で返す。

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 季節はめぐる。この道は、どこまで続くのだろうか。答えは出ないかもしれないが、今日も車は走り続ける。(秋田朝日放送制作 テレメンタリー『んだども おらほのまちだもの』より

んだども おらほのまちだもの
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