“アメリカでは絶対NGな表現”NHKが削除した黒人アニメ動画、米国在住の町山智浩氏や番組出演経験のあるパックンはどう見た?
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 人種差別に抗議する活動を巡って、NHKの国際ニュース番組『これでわかった!世界のいま』がTwitterに投稿したアニメ動画に批判が集まり、謝罪に追い込まれた。

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 問題となったのは、警察官による殺人事件や人種差別の歴史について26分間にわたって扱ったコーナー(7日放送分)から切り出された1分20秒ほどのVTRで、白いタンクトップを着た筋肉質の黒人男性のイラストが、抗議デモ拡大の理由について「俺たちが怒るその背景には俺たち黒人と白人の貧富の格差があるんだ」と説明したものだった。しかし「NHKの認識ズレてない?こんな動画広めていいの?」「偏見を助長する動画だろ…」といった批判が殺到。さらに駐日アメリカ臨時代理大使が「動画作成の際、さらに深い考察と注意が払われなかったことを残念に思う。採用されたアニメは侮辱的」と抗議のツイートを行った。

 NHKではすぐに動画を削除。「問題の実態を正確に表していないなどというご批判をいただき、掲載を取りやめました。(中略)掲載にあたっての配慮が欠け、不快な思いをされた方にお詫びいたします」との謝罪文を掲載した。

■米国在住の町山智浩氏「日本に住んでいる方とは感じ方が違う」

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 テレビ朝日平石直之アナウンサーは「実は私は何が問題とされたのかが分からなかった。センスのある絵だとは思わなかったし、黒人たちの怒りの背景に経済格差があることを紹介しているが、事件や歴史についての説明はない。その意味ではバランスを欠いているとも思った。しかし、アナウンサーとして入社し研修を受け、差別問題は傷つけた方に問題があって、“知らなかった”では許されないものだと教え込まれてきたし、色々な取材もしてきた。にも関わらず、問題点がはっきりとは分からなかった。情けないし、怖いなと思った。こうして司会をやっていていいのかという問題にもなると思った。NHKによる啓発系の番組でこういうことが起こってしまったことも含めて、大変な認識のずれがあると感じた」と明かした。

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 映画評論家でコラムニストの町山智浩氏は「日本に住んでいる方とは感じ方が違うのだと思う。デモの原因は経済格差だという方向で描くために、貧しい雰囲気の人にしたかったのだろうが、まずアメリカではあの服装がダメだ。アメリカでは“タンクトップ”とは言わず、“wife beater”、つまり映画に出てくるような“妻を殴るような男”というステレオタイプを印象づけてしまうものになっていた。そして、そもそも貧しい人たちがお金持ちに対して怒って起こしたデモではないということだ。最大の原因は、警察官による黒人ないしは有色人種に対する暴力行為、殺害行為の連続と、それでも警察官が起訴されないという問題だ。それがNHKのアニメの中では全く描かれていなかった」と指摘する。

 「抗議デモは今も拡大しているが、すでに暴動、略奪、破壊は行われていない。NIKEやAmazon、Twitter、Appleなどの大企業、ジョージ・クルーニーやNBA選手のステフィン・カリーなども抗議運動に加わっている。しかいNHKの報道のし方は暴動だけだ。“Defund the Police”、つまり警察機構そのものの問題として、警察を一度解体して再建するという方向に議論が向かっている。7年前にはニュージャージーのカムデン市警はそれによって改善された。今回の事件の発端になったミネアポリス警察もそうなる予定だ。そういうことが日本に伝わっていないことが問題だ」。

■番組出演経験のあるパックン「非常に責任感の強い番組だ」

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 一方で、お笑い芸人のパックンは「僕はこの番組に何度も登場させてもらっていて、非常にお世話になっているので、味方の弁護だと感じる人もいるかもしれない。しかしスタッフさんも作家さんも思慮深い人たちだし、ファクトチェックも慎重にやっている。外国の文化を子どもに紹介するという面と報道の面の両方があって、非常に責任感の強い番組だ」とした上で、次のような見方を示す。

 「町山さんの仰る通りだと思う部分も多いが、番組全体としてはバランスが取れた見解だったと思う。例えば警察に射殺された黒人の人数が白人の2.5倍に達していることも伝えていたし、番組の中では貧富の差だけが原因だとも言ってない。また、アニメの内容も怒っている絵ではあるが、何かを燃やしたり、略奪しているようには描いていない。僕は白人なので黒人の代弁はできないが、問題は日本の若者に“黒人は怖い”というイメージを与えてしまうことだと思う。タンクトップについても、イラストレーターもディレクターもプロデューサーも、今ここにいる人も、wife beaterという背景を知っていた日本人はいないのではないか。報道に出てくるような、上半身裸で怒っている姿は描けないので着せたということではないか」。

 その上で「それでも今回の動画は確かに無神経だったし、NHKも謝って掲載を取りやめた。これからは頑張って直すと思うと思うので、この怒りはアメリカの警察や司法制度、社会の基礎になっている、いけない部分に向けてもいいんじゃないかなと思う」とした。

■乙武氏「日本でも見た目だけで家が借りられず、職質を受ける」

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 実際に動画を見たという作家の乙武洋匡氏は「番組全体の中で見たときの印象と、そこから切り出されて投稿された動画だけを見た印象はだいぶ違うが、それでも正直“ちょっとNHKどうしちゃったの”と思ったし、NHKとしても完結した一つの作品として見られてしまうことに配慮する必要があったと思う」と話す。

 「僕が自分のYouTubeチャンネルでBlack Lives Matterの問題を取り上げた時、日本にはさも人種差別がありませんというようなコメントが多く寄せられて、悲しくなってしまった。ガーナ出身のミュージシャンでハーフの矢野デイビットさんによれば、日本国籍だし、6歳から日本で暮らしているので日本語もペラペラなのに、見た目だけで不動産業者の半分は“いや、ちょっと外国人の方は”“白人だったらいいけど黒人は”と言われて断られるそうだ。街を歩いていて、200mで4回も職質をされたこともあるそうだ。僕らが歩いていて、そんなに職質されるだろうか。これらを差別と呼ばず、なんと呼ぶんだ。“アメリカって人種差別がひどいんだね”と対岸の火事のように語るのはやめなければならない」。

■ドワンゴ社長・夏野剛氏「教育現場でも差別問題をもっと扱うべき」

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 幼少期にイタリアに住んだ経験のある元計算官僚の宇佐美典也氏は「その地区で唯一のアジア人だったので、毎日リンチを受けて、今も夢に出てくるくらいだ。一方で、子どもの頃に読んでいた『ちびくろサンボ』は、ある時を境に撤去されてしまったが、何が悪かったのか理由がわからなかった。教育の中で差別がダメだと教えることは大事だが、身の回りで起きている具体的なことを教えず、ふわっと社会がどうだとか、言葉狩りのようなことをしても、何が問題か分からないと思う」と指摘した。

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 アメリカへの留学経験もある慶應大学特別招聘教授の夏野剛氏は「ちび・くろは日本では差別用語だし、サンボも海外では差別用語だということだ」と説明、今回の動画について「僕は完全にNGだと思った。悪気がないのだろうが、ティピカル(典型的)に描くというのは、アメリカではすごくいけないことだ。だって人は皆ティピカルではないんだから。どんな肌の色をしていても、どんなところに属していても多様性があるんだよというのがアメリカ社会、世界中の基本原則だ。それをNHKはやってしまったということだ。そして、NHKの職員にどのくらい外国人がいるのだろうか。いるんだったら、国際問題を扱う時にはそういう人たちに意見を聞いて作って欲しい」と話す。

 そして「僕がアメリカの大学院で最初に教えられたのは、チーティング(不正行為)がいかにダメかということと、ディスクリミネーション(差別)がいかにダメかということだった。メディアも人種問題に関してはものすごくシビアで、経営の責任にもなるので必ずサードオピニオンを取るし、入社時には研修を行う。日本でもメディアの方は部落問題や障害者の問題について勉強と思うが、日本企業は中途が少なく、最初に研修をしたきりになりがちなので、セクハラやパワハラの問題も含め、年を取ったベテラン社員ほど“まあいいじゃねえか”となってしまう。日本にも差別はいっぱいあるのに、オンライン授業になると詰め込みになりがちで、こういう差別問題をやらなくなってしまうかもしれない。うちの子ども最近テストばっかりだが、そんなことをやっている場合じゃないだろうと思う。アメリカではこういうことがあるんだという話をすることこそが生きた教育だと思う」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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