プロレスリング・ノアが、無観客試合で2度目のGHCヘビー級選手権を実施する。前回は後楽園ホールでの潮崎豪vs藤田和之。今回は潮崎vs齋藤彰俊だ。
潮崎は「三沢光晴最後のタッグパートナー」。齋藤は「三沢光晴最後の対戦相手」。三沢さんの最後の試合で同じリングに立っていた2人が、ベルトをかけて闘う。しかも6月14日に。三沢さんの命日の翌日であり、潮崎がGHCヘビー級王座を初戴冠した日でもある。まさに運命の決戦だ。
【中継映像】潮崎豪vs齋藤彰俊「NOAH ”GOFORWARD Day1”」
この中継で解説を担当する小橋建太に話を聞くと、やはり両者への思い入れは強いようだった。特に潮崎は、若手時代に小橋の付き人を務めている。
「豪は今38歳ですか。あいつが36くらいの時に言ったことがあって。“お前もう自分が年だと思ってるだろ。でもそうじゃない”と。自分が絶対王者と言われるようになったのは36の時ですから。年だから後輩に譲ってとか思ってたらダメ、お前が行け、お前がノアの中心を走って引っ張れと。去年は清宮(海斗)がチャンピオンで引っ張っていましたけど、お前はそれでいいのかと。お前が引っ張るんだ、清宮の壁になれと言ってきました。実際、いま頑張ってやってますね。それは嬉しいですよ。今ノアは無観客試合をやってます。無観客でも映像で試合を見てもらえる。それはピンチをチャンスに変えること。潮崎は盲腸で欠場して、今回が復帰戦ですか。それも“ピンチをチャンスに”です。ピンチだからこそ、それをチャンスに変えることができる」
挑戦者の齋藤についても、小橋の思いは熱かった。
「齋藤選手は僕がチャンピオンの時に挑戦してきたことがあります。パワーがあって体が重い。持ち上げずらいし馬力がある。受けも強いです。(ナショナル王座に挑戦する井上)雅央もですけど、この世代は中高年というか高齢者予備軍。これから人口に占める割合が多くなってくる世代です。その彼らがプロレスを通じて示さなきゃいけないものもある。このチャンスを掴んでほしい。ABEMAは若い視聴者が多いそうなので、若い人たちに“凄いな”と思わせるような試合をしてほしいですね。ただ単に歳食ってるだけじゃないな、長くやってるだけじゃないなと」
小橋が期待しているのは、彼らが“運命”“宿命”から離れて試合をし、実力を出し切ることだ。
「潮崎豪と齋藤彰俊のGHC戦は2度目だと思います。それ以外にスペシャルシングルマッチを何回かやってますよね。三沢さんと最後に組んだ男と最後に闘った男ということで。その事実は事実として、これはあまり見たくないカードでもあるんです。齋藤選手は重い十字架を背負ってきた。僕は齋藤彰俊の実力を知ってます。だからこそ、こういう意味合いで組む試合ではないと思う。もう十字架は充分に背負ってきたんだから、そういうのを外した、純粋なぶつかり合いを見てみたいというのが正直な気持ちです」
それだけ齋藤の実力を評価しているのだ。ノアは今年からサイバーエージェントグループに入り、ABEMAで中継されるようになった。多くの視聴者はスマホで試合を見ている。そんな光景を三沢さんが見たらどう思うだろうかと聞かれると、小橋は答えた。
「一言いうでしょうね。“時代だな”と。三沢さんもスマホで試合を見てたと思います。その時に合ったものにシフトチェンジしていけばいいという考え方で。でも、自分たちがやるプロレスは変わらない。そういう信念をもってやればいいんです。僕自身、他団体に行っても“小橋建太は小橋建太の試合をするだけだ”と思ってやってきました。スマホで見ようが何で見ようが視聴者の自由。でもそこで見られるものは本物であってほしい。渋谷で歩きながらスマホで試合を見てた人が立ち止まって、座って見るようになったら、これはプロレスの勝ちですよ」
時代は変わる、プロレスのあり方も変わっていく。その中で変わらないものは何か、変えてはいけないものは何か。潮崎豪vs齋藤彰俊のGHCヘビー級選手権の中に、それがあるのではないか。
文/橋本宗洋