“登録者=被雇用者ではない”キッズラインの男性シッター停止、背景にマッチングサービス特有の問題点も?
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 「性犯罪が男性により発生する傾向が高いことを指摘されたことなどを鑑み男性サポーターのサポート(家事代行を除く)を一時停止することといたしました」。

・【映像】なぜ男性シッターだけ停止? キッズライン騒動から考える保育と性暴力 マッチングサイトの利便性とリスク

 男性ベビーシッターが派遣先の男の子にわいせつな行為をした疑いで逮捕されたことを受けたマッチングサービス「キッズライン」の対応が波紋を呼んでいる。12日には過去にキッズラインに登録していた別の男性が新たに逮捕されたが、果たして男性シッターの一律締め出しは子どもを守るための適切な措置と言えるのだろうか。

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 キッズラインに取材を申し込んだところ、「本件に関しまして被害に遭われた方、容疑者のシッターへご依頼をいただいた皆様へ心よりお詫び申し上げます。今回の事件の容疑者のシッターをご家庭に訪問させてしまったこと、また未然に防げなかったことについてお詫び申し上げます。現状の弊社の仕組みのままでは直ちに同様の事件をなくすことは難しく、お子様の安全を最優先する判断を取ることといたしました。このため、同様の事件の再発を防ぐためにまず男性シッターの登録利用は一時停止し、その他の安全対策も検討、導入してまいります。小児性愛であることや、それに基づく性犯罪発生の可能性は一般的な保育の適正に関する審査の過程で見抜くことは極めて困難であることを痛感しました。弊社としては、行政の犯罪者データベースの利用許可の推進、登録の際に精神状態をチェックするテスト等の導入、サポート時の監視カメラやボイスレコーダーの使用の推奨と3つの取り組みを進め、それにより男性サポーターも親も安心して利用できることを目指しています」との解答があった。

 『ABEMA Prime』では、今回の措置によって登録が解除された男性シッター、そして性的な問題行動に詳しい原田隆之・筑波大学教授に話を聞いた。

■「“男性だからお願いしたい”という家庭もあった…」間違った認識が広まることを危惧

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 11年にわたり公立保育園に勤務した経験を持ち、今年4月にキッズラインに登録したという前田紘孝さんはその登録や研修制度について「昨年11月に事件が起きたことは知っていたが、特に厳しい面接だとは思わなかったし、これでは誰でも入れてしまう、緩いなと感じたのが正直なところだ。また、私が登録したのはコロナの時期とも重なっていたので、本来であれば行われていた実地研修がZoomでの研修という形になり、7人のシッター対して1人のトレーナーさんが付いた」と説明。今回の事件とその対応に「非常に腹立たしく思うのと同時に、親御さんや被害に遭われたお子さんの気持ちを考えると、何とも言えない気持ちになる。ただ、男性保育士=性犯罪者というわけではないし、“男性だからお願いしたい”とか、“男性の保育士さんだと安心して娘がなつく”と言ってくださる家庭もあったので、間違った認識が広まってしまうことを心配している。男性シッターの一時停止では本質的な解決にはならないと思う」とコメントした。

 また、キッズラインのようなマッチングサービスは、サービス提供者と利用者が相互で評価し合うことによって質の担保を図ることができるとされているが、前田さんは「その点についても疑問視をしていて、登録しているシッターさんのほとんどが最も良い“5”の評価を得ている。やはり誰が低評価にしたか分かってしまう状況では、低い評価はつけにくいという問題もある。また、とても難しい問題ではあるが、まず面接については見直さないといけないと思う。例えばイギリスでは、政府が発行するDBSという犯罪履歴証明書がなければベビーシッターや保育士として働くことができない」と話した。

■「“男性は危ない”という前提で、最も楽な解決法を選んでしまった」科学的な知見を用いた工夫を

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 犯罪における男女比率を見てみると、強制わいせつに限らず男性の方が、リスクは高いのが実情だ。しかし原田教授はキッズラインの措置に対し「結果とプロセスどちらにも問題があると思う」と指摘する。

 「今回のような対応は性差別につながり、この仕事に誇りやプライドを持ってこられた方の人生を左右するような重大な結果を招いてしまうことにもなる。また、専門家の意見を聞いて判断をしたということだが、私も犯罪心理や性犯罪の専門家の端くれとして、こういった形で専門性を雑に扱い、悪用されてしまったことで、私自身の職業のプライドも傷つけられたと思っている。まず、男性と女性の生物学的な差がある。男性は男性ホルモンの血中濃度が高いため、攻撃性や性的な欲求が高まるということがあり、一般的な犯罪であれば10倍くらい、性的な犯罪であれば圧倒的多数が男性ということになる。一方、犯罪の発生率を考えないといけない。小児性愛の問題は年間数百件が起きていて、強制わいせつや性犯罪では6000人の男性が捕まっているが、日本に男性は6000万人いるので、その0.01%ということになる。もちろん軽視することはできないが、男性は危ないといたずらに煽ることなく、冷静に考える必要があるのではないか」。

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 また、キッズラインが「小児性愛であることや、それに基づく性犯罪発生の可能性は一般的な保育の適正に関する審査の過程で見抜くことは極めて困難であることを痛感しました」としていることに対しては、「登録する人の中にそうした下心を持っている人はいるかもしれないし、できるだけそのことを隠そうとするのは当然なので、事前に見抜くのは現実的に考えて非常に難しい。絶対に起きてはいけないことだが、どれだけ知恵を集めてもこの種の犯罪をゼロにはできないのも確かだ。しかし、科学的な知見を用いたスクリーニング、あるいは最初は女性の先輩シッターと一緒に仕事をさせる、派遣先の家庭カメラを置くなどの方法で、ゼロに近づけていく工夫をすることはできる。それなのに、男性は危ないという非常に乱暴な前提に立って、最も楽な解決法を選んでしまったことは問題だ」と話した。

■「システムを追加・整備してから再開した方が良かったのではないか」

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 ジャーナリストの堀潤氏は「キッズライン側は、容疑者として名前の上がった人物が保育士資格を持ち、実績もある人物だったから見抜けなかったとしている。実際、都に採用されている人物たちの登録を受け付けているので、行政側でしっかりとチェックしてデータベースに照らし合わせてもらわない限り、自分たちは見抜けないと。ここは行政と一体となって改善をやらないといけないと言っている。また、シッターを雇用しているわけではないということがポイントだ。もちろん預ける側の親御さんたちはお客さんだが、登録して働いてくれるシッターさんたちもお客さんだということだ。だからシッターさんについて犯罪に関わるような情報が入ったとしても、従業員ではないので、事実確認も含めて思い切った対応をするのに逡巡してしまうようだ。そこでまずは大きな括りの対応をするしかなかった、ということだ」と話す。

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 また、クリエーターの陳暁夏代氏は「男女で分けたり、性犯罪だけで語ったりしていることに違和感がある。共働きがベーシックの中国ではベビーシッターやハウスキーパーに頼むのが一般的だが、アメリカも含めて話題になるのは虐待の問題で、それは男女に関係ない。日本で共働き家庭が増え、ベビーシッターという仕事がかなり重要なポジションになってくる中、男性だけを排除してしまうのはどうだろうか。また、マッチングサービスであれば、契約しているシッターはもちろん、依頼する側の家庭の評価も相互に出来るようになっていたほうが良い。キッズラインはベビーシッター業界では料金体系が安い方なので、マスになるサービスだ。まずはサービスとして、システムを追加・整備してから再開した方が良かったのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

▶映像:なぜ男性シッターだけ停止? キッズライン騒動から考える保育と性暴力 マッチングサイトの利便性とリスク

なぜ男性シッターだけ停止? キッズライン騒動から考える保育と性暴力 マッチングサイトの利便性とリスク
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