16日に政府が閣議決定した、今年版の「科学技術白書」。そこには、20年後に実現が予測される科学技術、つまり2040年の未来の社会も描かれている。
例えば、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスなどの感染症に立ち向かうため、手のひらサイズの「超軽量センサー」が誕生。いつでもどこでも、迅速に感染症を検知することができる。また、現実と仮想現実の融合が進んだ未来の社会では意識や体験の共有が進み、遠くにいる恋人と食事のおいしさを共有したり体が不自由な人でもスキーを楽しめたり、歴史上の偉人やゲームのキャラクターと同じ空間でスポーツをすることもできる。
さらに、3Dプリントの可能性も広がっているかもしれない。食品を3Dプリントで作る店があったり、人間の臓器を3Dプリントで作る工場も!? 生体と融合する義体があったり共有できる身体が出現したりと、倫理感とせめぎ合う未来も予想している。
本当にこんな未来がやってくるのか――。にわかには信じがたい世界だが、文部科学省は1970年代から定期的に未来予測をまとめており、これまでに壁掛けテレビ(77年予測)や携帯電話(82年)などを的中させている。一方で、がん転移阻止(77年)や海洋鉱物資源の開拓(92年)など、実現にはまだ遠いものもあるが、その的中率はおよそ7割とも言われている。
今回公表された夢のような2040年の未来予測。実現の可能性について、日本科学技術ジャーナリスト会議会長の室山哲也氏は次のように話す。
「全体としては4、5割いけばいいなと思う。気になるのは教育のデジタル化やエネルギーの自給自足などで、技術だけそこに置いてもデジタル化はできない。教育者の考え方や社会全体の仕組みを同時に動かさないと。科学技術は、いいものをポンと置いたら社会変わるかというとそんなことはない。本気度次第だと思う」
科学技術が進化した未来の社会について、慶応大学特任准教授などを務めるプロデューサーの若新雄純氏は“人間の進化”に着目。「この100年の技術の進歩は凄まじいが、人間そのものはどれだけ進歩したのかと疑問に思う。“倫理観とせめぎ合う未来”とあったが、技術の進歩に人間がついていけないのではないか。例えば、技術が進化する前は、お互いの過ちや醜い部分を水に流すこともできたと思うが、最近は、いろいろ記録が残るようになり、徹底的に問い詰める風潮になっている。これだけいろいろなことができるようになると、人間の弱さが技術に振り回される気がする」との見方を示す。
その上で、人間の“不完全さ”を許せる余地が必要だとし、「例えば、無人でドローンが飛ぶような社会で何が起こるかというと、全ての人の仕事を監視できるようになって、悪気ないちょっとした休憩も『サボりだ』とチェックされたりすると思う。今はそういう部分を許せない人が増えていると思うので、機械が僕らの生き様が明らかにしたとしても、お互いにある程度許してあげないと大変な社会になるんじゃないかと思う」と危惧した。
(ABEMA/『けやきヒルズ』より)