「“炎上する“と“議論になる”は違う」SNS時代の求められる広告とは GO三浦崇宏氏に聞く
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 今月、新聞紙面とウェブ上で展開された読売新聞社と美術館連絡協議会の編集記事・企画プロジェクト『美術館女子』。女性アイドルが美術館を巡る様子を写真入で紹介した記事などが掲載されたが、「美術館は写真映えのための場所ではない」という指摘や、“美術館女子”という表現に対しても、「性差別」「一括りにされる事への怒りが爆発」「美術ファンと呼んでいただきたかった」といった多くの反応が出た。

・【映像】称賛される企画・広告の一方炎上も クリエイティブディレクターと考える境界線

 『ABEMA Prime』の取材に対し、企画した読売新聞グループ本社広報部・美術館連絡協議会事務局は「地域に根差した公立美術館の隠れた魅力やアートに振れる楽しさを再発見していくことを目的として始めたものです。新型コロナウイルスの影響で国内の美術館が一時休館を余儀なくされましたが、アート作品だけでなく、建物を含めた美術館の多様な楽しみ方を提示し、多くの方に美術館へ足を運ぶきっかけにしていただきたいと考えました」と説明。「今後のことについては、様々なご意見、ご指摘を重く受け止めて、改めて検討する方針です」としている。

 さらにYouTubeで表示される、体毛が濃い、胸が小さいといったコンプレックスを持つ主人公が化粧品や健康食品を購入したことで人生が好転した、というストーリー仕立ての動画広告については、反対の署名活動も立ち上がっている。

■多様な考え方を日々学ぶことの大切さ

 ジャーナリストの治部れんげ氏は「炎上事例は大きく3つに分類できるのではないかと思う。まず、社会問題に対する問題提起などを目的に新しいことをする“挑戦型”、次に時代の変化についていけない“置いてきぼり型”、、そして不特定多数に見せるには不適切な“無駄にセクシャル型”だ。とくに“女性だからこうすべき”とか、“男性だからこうすべき”と属性に関する過度な決めつけ、押し付けがましい表現をしているものは炎上しやすい」と話す。

 そんな広告業界に足を踏み入れようと考え、積極的にTwitterに投稿して腕を磨いているという若者は「従来よりも炎上が起こりやすくなっているなと感じているので、時代にしっかり追いついていかないと、表現できないのかなと思う」と話す。

 25年以上にわたり活動するコピーライターのこやま淳子氏は「10年くらい前まで、女性が育児をするシーンは“お母さんって大変ですよね”と共感を得られた表現だと思う。それが最近では“なんで女性だけが育児しなきゃいけないの?”“なんで父親が出てこないの?”と炎上してしまう。そして、そのラインはアップデートされ続けている」として、多様な考え方を日々学ぶことの大切を訴える。

■売れ続ける環境を作ることまで考えなければいけない

 クリエイティブディレクターの三浦崇宏氏は「個別の案件について、“僕だったらこうしました”というような言うのは同じ作り手としてフェアではないので言わないが、やはり想像力が足りなかったと思うものはある」と話す。

 「サッカーでオフサイドが追加されたり、柔道で寝技の時間が短くなったりするように、ルールというものは時代に応じて変わっていく。モラルに関しても、以前は多少の人を傷つけても構わない、あるいは何らかの差別性や、誰かへのリスペクトに欠けるものがあっても仕方がない、という認識があったのが、より多くの人にとって平等で、貶めたり、傷つけたりするような表現はいけないというふうに変わってきている。また、昔は“20代女性”、“結婚しようと思っている男性”など、届けたい、買ってほしい、動かしたい方々だけを見て作っていたが、今の時代が難しいのは、その対象ではない方々が見て“不快な思をした、傷ついた”とSNSで発信し、それが拡散することでクライアントのブランド全体が毀損する事態が起きていることだ」。

 その上で三浦氏は「案件にもよるが、やはり依頼を受ける時に“バズって欲しい”“話題になって欲しい”と言われることはある。しかし瞬間的に商品が売れるかもしれないが、それはクライアントさんにとって本当に正しいことなのか。例えば男性向けのシャンプーのCMが下品な感じでバズって売れたとしても、残りのブランドが女性向きだとしたら、そちらがダメージを受けてしまう。作り手としては、やはり売れ続ける環境を作ることまで考えなければいけない」

■共感を得た「顔採用、はじめます。」

 そんな中、総合化粧品メーカー「伊勢半グループ」が昨年新聞に出稿した「顔採用、はじめます。」というキャッチコピーの新卒採用の広告は、多くの共感を呼んだという。実はこの“顔採用”は、一般的な「就活用メイク」に縛られず、好きなメイクで面接に来て欲しい、メイクを通じて自分を自由に表現してほしいという思いを訴えたものだった。

 一歩間違えれば炎上しかねない表現だけに、込めた思いを広告内に丁寧に記した結果、大きなPR効果を得ることができたのだ。「顔採用と聞くと、容姿で判断すると思われるかもしれないが、実はそうではない。もちろん、誤解を生むんじゃないかというような懸念もあったので、どんな印象を持つか、どんなネガティブな要素があるかということを、みんなで検討した」(広報宣伝課の松本智子氏)。

 「顔採用」の枠で入社した1年目の社員は「広告を目にしたときは本当に衝撃的で、“何コレ?”とスクロールしている指を止めてしまうくらいだったが、この広告がなければ伊勢半を知ることもなかったと思う」と振り返った。

■「意見を発信したり、世の中に物を申していくことはあってもいい」

 作家の乙武洋匡氏は「そもそも炎上の定義が曖昧すぎる。例えば著名人のツイッターやブログが炎上している、批判殺到などとネットニュースが書いていても、実際は賛同や共感の声が多数を占めている場合もある。つまり、問題提起型の広告が賛否両論の議論を巻き起こしていることが“炎上した”として取り上げられるのは作り手としては不本意だろうし、そこは丁寧に見ていく必要がある」と指摘する。

 三浦氏は「まさにその通りで、議論のきっかけになったのであれば、社会の進歩に繋がる場合もある。世界で最も重要な広告祭といわれるカンヌライオンズでは、PR部門の審査基準に「メイク・カンバセーション(Make Conversation)」というものがある。つまり広告表現にとって、議論を生むことも一つの役割だと考えられているということだ。もちろん人を傷付けてはいけないが、クリエイター、あるいは企業が社会に対して強い意見を発信したり、世の中に物を申していくことはあってもいい。“この言葉にはこういうリスクがある。だが、今の社会においてこの言葉はこういう意味を持つものだ”という覚悟を持って投げ込むということもあると思う。だから“炎上”という言葉で全てがいっしょくたにされ、悪いものとされてしまうのは問題だ」と話した。

 そんな三浦氏自身が「炎上する可能性がある」と思いながら作った広告が、アメリカの人気ラッパー・ケンドリック・ラマーの来日に関する広告(2018年)だ。「当時、国会で黒塗り文書が問題になったタイミングだったので、実際のペーパーをネットで拾ってきて改造・再現、国会議事堂前駅と霞ケ関駅だけに貼った。様々な意見が来ることも想定していたし、万が一の場合に備えて、ネガティブな意見が一定数を超えたらすぐに剥がしてお詫びする予定だった」と説明。

 また、昨年5月に手掛けた、クラウドファンディング「CAMPFIRE」の広告は、「年齢を理由に夢を諦めてはいけない。」「地方生まれを理由に夢を諦めてはいけない。」など、全86パターンのメッセージを掲出、話題を呼んだ。「少年院の前の壁に『過去を理由に夢を諦めてはいけない。』というコピーのものを貼るとか、場所ごとに読んだ人がぐっと胸に来るコピーを作って貼りまくるといったことをやりたかった。500個くらいのパターンを作り、社長の家入一真さんとも議論を重ねながら、NGなもの、傷ついてしまう人が出そうなものなど削っていった」と振り返った(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

▶映像:称賛される企画・広告の一方炎上も クリエイティブディレクターと考える境界線

称賛される企画・広告の一方炎上も クリエイティブディレクターと考える境界線
称賛される企画・広告の一方炎上も クリエイティブディレクターと考える境界線