ロシアで憲法改正の是非を問う国民投票が行われ、賛成多数で承認されることなった。
・【映像】憲法改正でプーチン氏が"終身大統領"を視野に.."マッチョな皇帝"ロシアが進む道とは?
最低賃金の保障、年金支給額の定期的な見直しなどの改正点がある中、とりわけ注目されているのが大統領任期だ。本来であれば4年後に任期満了を迎えるはずだったプーチン大統領が、改正案の成立により83歳となる2036年まで続投することが可能となり、事実上の“終身大統領”になるとも言われている。
時にハーレー集団で登場、時に自ら狙撃の腕前を披露、時に柔道で相手を投げ飛ばすプーチン大統領。旧ソ連時代にはKGBのスパイとして東ドイツなどで暗躍、政治家に転身後、全く無名の存在から10年あまりで大統領に就任した。
テロリストに対しては「便所にいても捕まえてやつらをぶち殺してやる」、核戦争については「誰かがロシアを破滅させようと決断したら、我々には報復する権利がある。世界を巻き込む大惨事になるが、ロシアが存在しない世界などそもそも無用じゃないか」と発言するなど、強烈なリーダーシップを発揮。一時は支持率が80%を超えた。
■家族のことを暴こうとしたメディアが謎の営業停止命令?!
15年にわたってプーチン研究を行う筑波大学の中村逸郎教授は「ロシアは寒く自然も荒々しいので、生き抜くためには強くなければならない。鍛えられた上半身を見せるプーチンは、ロシア人にとってまさに強い人間の象徴として好まれている。支持率が下がると裸になる。裸になると支持率が上がる」との持論を展開。
東京大学先端技術研究センター特任助教の小泉悠氏も「90年代に超大国から三流国家になってしまったロシアの権威を取り戻してくれたこと、そしてロシア語ではGDPのことをVVP(ВВП)というが、プーチンのフルネームもVVP(ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン)だ。国民は“プーチンについていけば生活が良くなる”ということで、“GDP男”とも言われた。実際のところ、GDPは韓国と同じくらいだし、国防費も日本と同じくらいなので、“超大国”と言えるかどうかは疑問だが、それでもその手腕に対する信頼みたいなものがあるのだと思う」と説明した。
また、秘密主義としても知られ、2人の娘についてもはっきりしたことは分かっていないのだという。「最近もプーチンさんの友達のウェブサイトに、それらしい人が写っていた、ということがあった。娘の一人は韓国海軍の提督の息子と付き合っていたらしいが、そのことをメディアの前でうっかり喋った途端、プーチンから電話がかかってきて怒られたとも言われているし、家族のことを暴こうとしたメディアが謎の営業停止命令を食らうこともある」(小泉氏)。
■ロシア人YouTuber「若者はプーチンが嫌いだ」
そんなトップについて若い世代はどう見ているのだろうか。
日本で働きながらYouTuberとしても活躍するマリアさんは「他の国と比べて自由ではないと感じている人が多いし、もっといい生活を送りたいと思っている。その原因はプーチンだということで嫌いになる人は多い」と話す。つまり、90年代の混沌としたロシアを立て直したヒーロー的な存在だと考える支持層が高齢者には多く、逆に若い世代にとってはインターネット規制や汚職など、不満に思うことの方が多いというのだ。
実際、プーチン大統領の支持率は2015年6月には89%だったが、今年5月には過去最低の59%を記録している。「これは比較的政府に批判的な民間の世論調査機関による調査結果だが、支持率は下がったとはいえ、それでも支持が6割もいる。強烈なアンチプーチンがいる一方、どうしてもプーチンじゃないとダメだという人、ふんわり支持しているという人がこれだけいるということだ。逆説的だが、強権的なリーダーであるがゆえに、国民から支持を得ていなければ強権はふるえない。国民からそっぽ向かれた状態で強権を振るってしまえば、ソ連崩壊の二の舞になってしまう」(小泉氏)。
■“2024年退任”を謎の撤回
それでは、なぜプーチン大統領の続投を可能とする改正案が浮上したのだろうか。プーチン大統領自身は1月には2024年に退任の意向を示していたが、6月になると「憲法で認められるならば排除しない」と発言している。
小泉氏は「なかなか不思議な展開だった。ただ、プーチン大統領が1月に出した改憲案を見ると、議会、首相、国家評議会に大統領の権限を移すような、かなり大規模に国家の構造を変えるものだった。つまり2024年には辞めるけれども、何らかの形で権力を維持していくということではないかという見方もできた。しかし、これも3月になって覆り、任期は全てチャラにしましょうという改定が入ったものが国民投票にかけられてしまった。何か政権の中で大きな変動があったのか、私にもわからない」と困惑気味だ。
小泉氏が指摘する、3月に起きた変化の背景にあるのが、ワレンチナ・テレシコワ議員の「(プーチン氏の続投こそが)我が社会の安定の要だ」「(任期の改正案を)撤廃できないなら現在の大統領だけは再選可能に」との発言だ。
小泉氏は「テレシコワは人類初の女性宇宙飛行士で、名誉職的に国会議員をやってきた人物だ。“社会の安定の要だ”と訴えたのは、やはりソ連崩壊後の大混乱を覚えている人たちとしては、よくわからないリベラル派のリーダーになるよりも、勝手が分かっているプーチンさんに任せておけばいいじゃないかという気持ちがあるからだと思う。ただ、それ以上の理由が見当たらないのも事実だ。プーチン大統領としても、1月の改正案の時点では改正案のメリットについて説明していたものの、任期の件に関しては“あまり重要とは思わないが、そういう議論があることは知っているし、それには同意する”という、非常にそっけない言い方だった。やはり、よく分からないまま3月の改正案が国民投票にかけられてしまっているというのが現状だと思う」と話した。
■メドベージェフ氏は後任になりえなかった?
一方、前出のマリアさんは「プーチン大統領が2024年に引退したとして、誰が後任になるのか。全く想像できない。大統領になりたがっているのは(反プーチンの)ブロガーか、社会主義のプロパガンダをしている人ばかり」とも話している。
小泉氏は「“プーチンシステム”を継続するだけでいいのなら、“ミニプーチン”はいっぱいいる。例えばクリミア介入時の特殊部隊の指揮官だったジューミン氏には州知事をやらせ、ゆくゆくは大統領候補にするのではないか、とも言われている。ただ。プーチン大統領が20年やってみて分かったのは、最初の10年は原油も高かったので経済もどんどん良くなり、ロシアに安定をもたらしたけれども、後半の10年は良くなかった。西側との関係が悪化して制裁をくらい、原油価格も上がらないので経済も停滞している」と指摘する。
後継者と聞いてイメージされるのは、プーチン大統領と“二人三脚”として歩んできたメドベージェフ氏ではないだろうか。
「プーチン大統領としても、後継者を作ろうとしなかったわけではないと思う。実際、2008年にはメドベージェフさん、あるいはKGB時代の同僚で大統領府長官も経験したイワノフさんのどちらかではないかと言われた。イワノフさんは力とスパイとエネルギーでやっていくというような、非常にプーチン的な考え方をする人だ。一方、メドベージェフさんもプーチンさんの忠実な部下であり続けた人物ではあるが、他方で少しリベラル派なところがある。かつてメドベージェフさんのバックについていたリベラル派シンクタンクは、2008年当時、軍隊は10分の1にしてしまえとか、連邦保安庁を解体してしまえとか、今ではちょっと考えられないような改革プランを出してきた。しかも2009年にはオバマ政権が出てきて関係も改善した。それでも2012年にはプーチンが戻ってきた。理由はよくわからないが、少なくともプーチンはバカではない。“ずっと俺がやっていたらロシアに未来はない”ということぐらいは分かっているはずだ。それでも戻ってきたのは、やはり上手く行かないと感じたからではないか」。
■自身も権力システムのとりこに?
では、それ以外に有力候補はいるのだろうか。
小泉氏は「ロシアを次のステップに進められるようなリーダーは見当たらないし、さらにプーチン大統領としては自分を絶対裏切らないという奴でなければならないが、そういう人物も見当たらない。元気がいいのは、マリアさんが言ったブロガーだ。例えば反体制派のナワリヌイ弁護士はものすごい人気を集めているし、野党第一党の共産党がやり手のコルホーズ経営者を出すなどしている。しかしこれも若者から見ると“また共産党?”という感じだ。プーチンは嫌だと言っているインテリ層であればあるほど、やっぱり反プーチンの危うさも見えてしまうという部分もある」とコメント。
また、「プーチン大統領の周りには、その権力によって食っている人たちがいっぱいいる。そういう人たちにとっては2024年にフェードアウトされては困るわけだし、自分自身も、そのシステムのとりこになってしまっている部分がかなりあると思う」とした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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