九州各地に甚大な大雨被害をもたらした「線状降水帯」。短時間で大量の雨をもたらす雲の塊はどのように作り出されるのだろうか。
元気象庁長官でテレビ朝日防災アドバイザーの西出則武氏は「様々なケースがあるが、例えば南から来た暖かい湿った空気が冷たい空気の上に乗り上げることで上昇が始まり、それが拡大して積乱雲が発生する。これが一つだけであれば短時間に激しい雨が降る程度で済むが、上昇気流の場所が固定されると、積乱雲が抜けた後に次の積乱雲が、それが抜けるとまた次が、という具合に続いていく。それによって、幅をもった細長い領域に雨が降り続けることになる。これが線状降水帯のメカニズムだ」と説明する。
「九州南部の豪雨の場合も、梅雨前線に南から湿った空気が入るという、典型的なパターンだったし、気象庁もそこまでは分かっているので、前もって大雨警報を出していた多くの場合、線状降水帯は徐々に移動していくので激しい雨が降っても、1時間くらいで上がるが、3、4時間、長い場合は半日続く。これによって大きな災害が起こる。線状降水帯が止まったままでいるのか、また動き出すのかというところは非常に微妙なバランスで決まるので、予測するのは難しいのが現状だ。3年前の九州北部豪雨の時、ある専門家が“そこにいたら私も被災していただろう”とおっしゃっていたくらい、直前まで非常に天気が良く、夕立くらいの感じで雨宿りをしていたら、いつまで経っても止まずに激しさを増し、気付いたら水浸しになってしまっていた。今回もそのような降り方だったのかもしれない」。
2013年10月の伊豆大島大雨被害、14年8月の広島豪雨水害、15年9月の関東・東北水害(鬼怒川堤防決壊)、17年7月の九州北部水害など、報道で「線状降水帯」という言葉を耳にする機会が増えているが、かつては発生していなかった現象なのだろうか。
「気象庁の監視能力が向上したということも大きいと思うが、激しい雨の頻度が増えていることも事実だ。その原因に線状降水帯もある。その非常に典型的な例が見られるようになったということで、この5、6年、気象庁も専門的な言葉を使って説明するようになったのだと思う。2013年の広島のケースも、細長い、まさに線状の強い雨の領域が止まり、3時間も降り続くことによって一気に大きな災害になった。当時、私は気象庁長官になって1年目だったが、線状降水帯という言葉を使って説明した」。
球磨川が氾濫した人吉市では、3日の午後4時に防災関連のオンライン会議が開かれ、午後10時20分に土砂災害警戒情報が発令されていた。翌4日の午前2時には1時間の雨量が60mm以上を観測、午前3時30分に全域に避難指示が発令された。球磨川が氾濫したのは、その直後の午前6時ごろとみられている。
西出氏は「大雨特別警報を待っていてはダメで、その前段階の土砂災害警戒情報が出たら避難していただくことになっている。ただ、“最善を尽くして下さい”とはいうものの、どうすれば助かるかのは非常に難しい。たとえば避難する途中で亡くなるケースも多いため、最近では2階に逃げる垂直避難が言われるようになったが、平成27年の鬼怒川の水害では、決壊した場所から何十mか離れたところでは、ヘリで救出した直後に木造家屋が粉々に砕けて流された。土砂崩れが起きれば家が破壊されてしまうこともあるし、垂直避難すれば必ず助かるかというとそうではない」とした。
ジャーナリストの堀潤氏は「自治体などが避難準備を呼びかけるアナウンスをするが、実際には逃げるためのインフラがないケースも多い。新潟の山間部で起きた災害を取材した時に、地元の人たちが身を寄せ合っていたのは避難対象地域にある、土砂崩れが起きそうな場所の公民館だった。そこから自治会でバスを用意し、お年寄りが運転して20km先まで批判するという。いわば“老々避難”だ。このように、自助・共助・公助のバランスが悪い状況が続いているのに、“警報出ました”“命守って下さい”“亡くなりました”の繰り返しだ」と訴えていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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