“潜った形”の検査も定着する中、「新型出生前診断」の指針改定へ… 「産まない」を選んだ女性に聞く苦悩、必要な妊婦支援とは
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 お腹の赤ちゃんに胎児の染色体異常を調べるため、2013年に導入された新型の「出生前診断」(NIPT)。対象者は35歳以上で、保険の適用外だが、母体の血液採取のみの検査で陽性的中率は9割を超える(ダウン症の場合)。しかしダウン症の陽性と診断された人のおよそ9割が人工妊娠中絶を選択しているという統計(NIPTコンソーシアム調べ)もある。

・【映像】「産まない」を選んだ女性に聞く苦悩と傷跡

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 診断を受けた多くの親たちを見てきたという出産ジャーナリストの河合蘭氏は「病気のある赤ちゃんは育てられないと思って諦める人もいるし、産んだら希望が持てない暮らしになると思ってしまう、家族も壊れると思ってしまう。離婚という2文字が頭に浮かぶ人も多いと思う。それくらい障害と呼ばれる病気を告知されるというのは、産むか、産まないか選択をしなくてはいけなくて、一番きついところなのかなと思う」と話した。

 また、先月には日本産科婦人科学会が新しいガイドラインを発表、大学病院などの医療機関に限って行われてきた検査が、今後は町の産婦人科などでも実施可能になる見通しだ。

■産声を聴いた瞬間に、“これは罰ではなかった”と思えた

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 カトウさん(46)の3歳になる息子も、母体にいる時にダウン症と診断された。「検査結果の紙を渡され、99%の確率で21トリソミー(ダウン症)だという説明を受けた」。

 ダウン症についての知識がほとんど無かったカトウさん。不安や心配が募り、後ろ向きな事ばかりを考えるようになったという。「自分が今までにやった悪いことが積み重なって、こういう罰がきちゃったのかな、と考えたこともある。今からすれば申し訳ない言い方だが、暴れて手が付けられなくなり人に危害を加えるのではないか、本人が辛い思いをして一生過ごすのではないか、といった心配をした」。

 それでも、「どうしても中絶をするという選択が選べなかった」というカトウさん夫婦は、出産を決断した。「“どんな子どもでも受け入れる”という覚悟よりも、中絶を選ぶのは嫌だという気持ちがあった。産声を聴いた瞬間に、“これは罰ではなかった”と思えた。その時から、少しプラスの考え方に変わった」。

 今も子育てに不安はつきまとうが、子どもの成長に幸せを感じてもいるという。実際、障害児の親の気持ちには「不幸な家族と決めつけないでほしい」「自分の子どもが社会から排除されていると感じる」といったものがあり、ダウン症当事者へのアンケートでも、8割が毎日の生活に幸福感を持っていると回答している。(厚生労働省調べ)

 しかし、カトウさんのような選択ができる人は、決して多くはない。横山横子さん(32)は、中絶を選んだ一人だ。

■“もう一度、健康な姿でお腹に戻ってきてほしい”と…

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 30歳の時に第3子を妊娠した横山さんは、20週目に受けたエコー検査で心臓疾患の可能性が発覚。数日後、改めて受けた検査で、大学病院で18トリソミーという染色体異常がある可能性が高いと診断された。

 突きつけられた、1年生存率およそ10%という現実。しかし、人工中絶ができるのは妊娠22週まで。横山さんに残された時間は、あと僅か数日だった。「1年以内に亡くなってしまうということに耐えられるのかなということと、そういう精神状態で上の子2人を前向きに子育てできるのかと考えた」。最終的に、夫と選んだ決断は中絶。手術を受けるため、5日間入院した。

 周囲の人たちに対する説明にも苦悶した。「身内や友達だけでなく、毎日のように顔を合わせるママ友や、下の子の保育園の先生たちが、“楽しみだね”と言ってくれていたので、報告はした。ただ、ご家族に障害を持った方もいるかもしれないし、いろいろな経験、考え方を持った方がいると思い、ほとんどの方に対しては具体的な話はせず、“実はダメになってしまったんだよね”という話に留めた」。

 それから2年。「ライターという仕事柄、自分の経験や、これからどう生きていきたいのか、といったことを文章した。そのことで心の整理ができ、報われたところもある。こんなことを言うと不快に思われる方がいるかもしれないが、最後のお産が辛い経験で終わってしまったのは悔しいという思いがあるし、改めて3人目が欲しいと思うようもになった。ただ、“もう一度、健康な姿でお腹に戻ってきてほしい”とか、悔しさ、罪悪感、申し訳なさが押し寄せることがある。この“心のもや”は、一生残ると思う」。

■“潜った形”で検査が行われている実態も

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 先述したように、新型出生前診断については先月、日本産科婦人科学会が指針を改定すると発表している。従来は日本医学会の認定を受けた大学病院など109カ所の認定施設で35歳以上を対象として実施、その後は専門医のカウンセリングも行うというものだった。一方、厚労省に提案中の方針では、「学会の研修を受けた産婦人科の医師がいる」「日本小児科学会が認めた小児科医と連携する」などの条件を満たせば、小規模な診療所でも検査を可能にするといる。

 河合氏は「学会としては提案をしただけだが、なぜ小規模な施設でも検査を可能にしようとしているのかということに限って言えば、実は小規模どころか、産婦人科でもない施設で多くの検査が行われているという実態がある。“潜った形”と言ってもいいと思うが、新型出生前診断の半数以上が、日本医学会の関わる学会に所属していない先生たちの医療機関や、検査だけをするクリニックで行われているということだ。今回の提案によって“拡大する”と言われているが、認められた婦人科に行くようになるということになるだけかもしれないので、実際に件数がどれだけ増えるかは分からない。また、技術的には採血をし、検査会社と契約をするだけでできてしまう検査だが、羊水検査などは高い技術が必要になるので広がりようがない」と説明した。

■“知らされて、決断する”という環境やサポートする体制を

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 さらに新型出生前診断をめぐる課題について、前出の河合氏は次のように説明する。

 「海外には、考えるだけの時間的な余裕もある段階である妊娠11週~13週の時点で、ほとんどの人が検査を受けるという国もある。そこから次のステップとして、確定的検査に進むのかどうかを考え、決断している。いずれにしろ妊婦さんには厳しい検査ではあるが、その方が多少は優しいものになると思う。また、日本の場合、超音波検査で兆候があったとしても言わない先生もいるし、出生前診断についても個々の医師の考えで決まっているのが現状だ。中には中絶をしてしまうお母さんがいるからと、性別すら教えない医師もいる。さらに日本の妊婦さんには、“知らされて、決断する”という環境やサポートする体制が整っていないし、“辛いことだけれど、中絶もできる”となかなか考えてもらえないところがあると思う。お母さんは辛いので、医師が決めてあげるのがいいことだ、優しさだ、と考えもあったと思うが、高齢出産の人が多くなり、リスクが高まってきた今、それでいいのか、ということが突きつけられている」。

 横山さんも「診断を受け、自分で決断をし、それから病院も自分で探した。その時に、中期中絶をしてくれる病院自体、すごく少ないということを初めて知った。処置についても先生から説明はされたが、その後の体の状態はどうなるのか、再び妊娠することはできるのかなど、事前にネットでたくさん検索して、体験談を読んだ。そうした情報が医療機関からもらえると、より心の準備がしやすかったのかもしれない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

「産まない」を選んだ女性に聞く苦悩と傷跡
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