(本名は永田恵梨子。あだ名の「えりちゃん」→「ちゃんりこ」からリングネームが「チャン・リー」に)
階級が増え、シュートボクシングのトップ選手だったMIOが参戦するなど、K-1、Krushの女子戦線が活気づいている。
7月21日のKrush後楽園ホール大会では、アトム級の新王者を決めるトーナメントが開幕する。そこにエントリーしている選手の一人がチャン・リーだ。昨年は連敗を喫したが、今年に入り復活の勝利。トーナメント出場権を掴んだ。K-1ジム五反田に移籍して練習環境も変わり、心機一転のスタートでもある。
「格闘技に対する気持ちがあらためて引き締まりました。有名なプロ選手もいて環境もいいです。“これがキックボクシングなんだ”っていうことをゼロから教わりました。まだキックボクシングの“キ”くらいですけど、自信を持って変わったと断言できます」
練習を取材して感じたのは、シャドーボクシングにしてもミット打ちにしても技の種類が少ないことだ。基本はワンツーと右の蹴り。「いろんなことに手を出すよりも、まずは必要最小限の技を体に染み込ませるところから。そうじゃないと試合でも出ないので」とチャン・リー。常に構え方や姿勢、相手に対するポジショニングを意識してもいた。
「前は気持ち気持ちという感じで、とにかく前に出てパンチ、キックを出す闘い方でした。今は大きく変わりましたね。気持ちで前に出るだけでは勝てない。ポジショニング、プレッシャーのかけ方、相手を見て動くこと。すべてをトレーナーが変えてくれました」
前傾姿勢ではなく背筋を伸ばす構えにしたことで「視野が広くなりました」。そうすることで落ち着いて試合ができるようにもなる。勝負のポイントは、その変化をリングで出せるかどうかだ。
以前は幼稚園の先生だったチャン・リー。天職だと感じていたが「今しかできないことだから」と格闘技一本の生活を選んだ。今は所属ジムにインストラクターとして勤務している。幼稚園をやめる時は、子供たちと「チャンピオンになるから」という約束をしたそうだ。
「今回はその約束を果たして、夢をかなえるチャンス。子供たちは今も応援してくれてます。素直なので、負けたら“なんで負けたの”って怒られるし“次は頑張ってね”とも言ってくれますね。幼稚園の子たちを見ていると、みんな元気でいい子なんですけど、目標があっても“僕にはできない、私にはできない”とマイナス思考になる子もいたんですよ。だから私がベルトを巻くことで、夢って頑張り続けたらかなうんだなっていうのを伝えたい」
トーナメントで最大のライバルは、1回戦で闘うMOE。まだ高校生だがアマチュアでの経験豊富な実力者だ。MOE戦をクリアすれば、決勝では優vs菅原美優の勝者と対戦する。どちらもチャン・リーが昨年敗れた相手だ。
「1回戦に勝って、決勝でリベンジして優勝。自分の中kでシナリオはできてます」
意気込むチャン・リーだが、そんな自分の現状を「不思議ですよね」と笑う。
「先生になって寿退職して、家庭を持って子供産んでという人生だと思ってたんですけどね。人生って何があるか分からない(笑)」
自分でも不思議に思うくらいの異色のキャリアだからこそ、ベルトを巻いた時に伝えられるメッセージもあるはずだ。
文/橋本宗洋