Krush女子戦線のホープ・菅原美優にベルト獲りのチャンスが訪れた。チャンピオンだった高梨Knuckle美穂が階級変更に伴い王座を返上。アトム級の新王者を決める4人トーナメントが開催されることになったのだ。菅原は7月21日、後楽園ホール大会での1回戦で優と対戦する。
菅原はこの春から社会人に。美容師として働き始めたが、そこにコロナ禍がきた。美容院での仕事、ジムでの練習、どちらも感染には敏感にならざるをえない。仕事のオンライン講習などもあり、まずは生活のリズムを崩してしまわないことが大事だったという。
現在は状況がだいぶ落ち着き、仕事にも慣れてきたものの「覚えたことが多くなれば、そのぶん仕事も増えるので忙しいですね。学生時代は“国家試験が”なんて言ってましたけど、いま思えば気楽だったなって。社会人はお金をいただく身だし、自分の仕事が遅いと人を待たせてしまうことになる。働いてる人全員、尊敬するようになりました」。
ジムでの練習ができない時期もあったが、それがプラスになった面もあるという。屋外での階段ダッシュをはじめ、これまでやっていなかった練習に取り組み、その効果を実感したそうだ。
「自粛期間中は、いつもやらない練習ができました。自分を見直すいい時間でした。自分に何が合っているのか、いろいろ試せた。階段ダッシュをして、ジムでの練習を再開したら感覚がいつもと違いましたね。特に感じたのは、スタミナが凄くついたなって。踏み込みが速くなったし、蹴りが速くなったとも言われます。体力面で大きく変わって“自粛中、なんかやってたの？”って聞かれますね」
自粛期間はファイトスタイルを見直す時間にもなったという。
「私はパワー系の選手じゃないのでステップワークを使わなきゃいけない。それが今まではうまくできていなかったんですけど、最近は変わってきました。目指すのは城戸（康裕）さんみたいなスタイルです」
ステップを使い、間合いを取って自分の距離で闘う。冷静に相手の動きを見てカウンターを取る。パンチ一辺倒にならず蹴りも的確に。菅原はトーナメントに向け、そうした闘い方を磨いてきた。理想は「華麗な試合、美しい闘い」だ。自身の成長を感じるからこそ「練習するにつれてベルトを獲りたい気持ちが強くなってきました」と言う。
女子の試合では、いわゆる“ワンパンチKO”はなかなか出ない。前に出て連打するスタイルが主流と言っていいだろう。逆に言えば、そこにとどまらない自分のスタイルを確立することが、一つ上のステージに行くためのポイントになる。
「気持ちを見せたいんですけど、試合では熱くなりすぎないようにしたいです。強い気持ちは持ちつつグチャグチャにならないように。私はパニックになっちゃうところがあるので。これまで、試合の内容をあんまり覚えてないんです。運動神経だけで勝ってきた感じで、練習してきたことが出せてなかった。今度の試合はメンタルコントロールが大事になると思います」
“城戸スタイル”、言い換えれば大人の闘いで勝つには何よりも冷静さが重要だ。菅原にとって、今回の試合は課題の克服が新スタイル披露とイコールになっている。
「やることは決まってるので。あとはそれを出して勝つだけです」
優勝し、ベルトを巻いた上でムエタイ戦士パヤーフォンと闘うというプランもある。国際戦を制してこそ真のチャンピオンという志を持っているのだ。K-1での女子トーナメント開催、女子が3階級になり、MIOも参戦してくる。そうした流れも意識している。
「今、女子が盛り上がってきてますよね。流れが来てるなって。そういう状況だからこそ負けられないです」
力強い言葉は、蓄えてきた実力への手応えと言ってよさそうだ。
文／橋本宗洋
