(6人タッグのベルトを入れたリュックが壊れたと赤井。「チャンピオンにならないと分からない重みでした」)

 6月から7月にかけて、DDTの赤井沙希は連続で大一番を経験した。

 まずは6月27日、坂口征夫、樋口和貞とのユニット「Eruption」でKO-D6人タッグ王座を奪取。しかも相手は遠藤哲哉&T-Hawk&エル・リンダマンという実力者トリオだった。

 さらに翌週、7月3日には「おきばりやす七番勝負」の最終戦で里村明衣子とシングルマッチ。この試合はメインイベントで行なわれた。敗北を喫した赤井だが、里村はその成長ぶり、「芯の強さ」を讃えていた。

「最初は七番勝負を終わらせてからタイトルマッチをしたほうがいいと思ってたんですけど、結果としてベルトを持って、自信をつけて里村さんに挑めたのはよかったです」

 赤井はそう振り返る。この里村vs赤井戦、里村は久しぶりの試合だっただけに気合いが入りまくっていた。自粛期間に体を作り直し、9kgの減量。リング上では、赤井によれば「目つきがバッキバキ」だった。単に赤井の相手を務めるのではなく、里村自身の尋常ならざる緊張感もあって、試合は見応えのあるものになった。

 自粛明けということもあり、里村戦ではDDTの一員として世の中にぶつかっていく」という意識もあったという赤井。七番勝負で女子のトップ選手と続けて対戦した経験も大きかった。DDTでの彼女は、基本的に男子と対戦することが多いからだ。

「デビューしたての頃は相手チームに女子が入ってることが多かったんですけど、気が付いたら周りが男子ばっかりのマッチメイクに(笑)。そのことで自分にしかないキャリアを作らせてもらったと思います」

 それだけに、女子団体の選手との対戦には緊張するそうだ。

「私は女子高育ちなので、一口に女子といってもいろんな個性があるし、そこで独自の文化が育つことも分かるんですよ。女子プロレスにも女子プロレス特有の魅力と文化がある。違う国の人と試合をするみたいな刺激と緊張感がありますね。その中でも、里村さんはとりわけ独特。“里村明衣子というジャンル”になっている」

 七番勝負の結果は3勝4敗。しかし重要なのは、ここで得た経験をどう活かすかだろう。

「女子選手との試合は緊張するし、痛い思い、怖い思いもします。その経験があるから、その後できつい試合があっても“あの時に比べれば”と思る。里村さんにはメチャクチャ蹴られましたけど、以前、対戦した経験があるから耐えられたし反撃できた。次やったら、もっとできると思うんですよ」

 ベルトという勲章を得て、七番勝負では得難い経験も。7月23日の後楽園ホール大会では、6人タッグ王座の初防衛戦に臨むことになる。赤井はもともと芸能界からのプロレス挑戦。最初はゲスト的ポジションだったがDDT所属になり、さらにKO-D(KING OF DDT)の名がつくベルトを巻いたことで新たな段階に入った感もある。

「DDTの顔の一人になっていかなきゃいけないでしょうね。ベルトを巻いて入場したら、私を知らない人でも“この人はDDTのチャンピオンなんだな”って思いますから。ヘタな試合をしたらDDT自体が軽く見られてしまう。“強くなりたいならDDTじゃないだろ”って言われることもあるんですけど、私はDDTならではの強さと面白さを大事にしたい」

 初防衛戦の相手はHARASHIMA&アントーニオ本多&里歩。男女混成トリオ対決となった。新鮮味のあるカードは「Eruptionで、いつもと違うDDTの風景を作っていきたい」という赤井の狙いとも合致している。男女3人のユニットがチャンピオンになったことで、タイトルマッチのマッチメイクにも幅が出るわけだ。

「里歩さんは一つ一つの動きが常に“正解”なんですよ。どんな相手とやっても間違いのない位置で間違いのない動きができる人。しかも本当の意味で華がある。妖精さんかお人形さんみたい。HARASHIMAさん、アントンさんもですけど現実離れ、浮世離れした雰囲気がありますよね」

 逆に自分たち王者チームは「現実の中でドロドロと闘ってきた」と言う。

「私がファンだったら、挑戦者チームを応援してるかもしれない。それくらい魅力的だし、面白いカードだなって思います。でも、その試合をやるのは自分なので(笑)。真逆の相手だからこそ負けたくない」

 赤井も華があると言われる選手だが、偏見もある中で泥臭くやってきたという自負がある。異色の挑戦者を迎えた防衛戦、勝利へのカギは、そんなレスラーとしての本質にありそうだ。

文/橋本宗洋