不確実な現代社会、企業経営・イノベーションに哲学の知見・手法が必要に?
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 今、欧米のトップ企業ではCEOならぬCPO「最高哲学責任者」という役職を設け、ビジネスに哲学の知見や手法を活用、イノベーションを生み出しているという。

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 「VUCA」(Volatility=変動性=、Uncertainty=不確実性=、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)とも言われる現代社会で、哲学がどのように活きるのだろうか。

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 哲学の博士号を持ち、その手法を使って企業の課題に取り組んでいる吉田幸司クロス・フィロソフィーズ代表は、学問としての「哲学」について「人生訓や格言のようなものだと考えている人も多いと思う。しかしアカデミアの哲学というのは、それこそ古代ギリシャの時代から“なぜそうなんだろう?これって本当は違う意味なんじゃないか?”みたいなことを2500年以上にわたって追究してきた知の営みだ。そもそも、“哲学とは何か”ということ自体、哲学の根本問題だ」と話す。

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 「ソクラテスは、お金とか地位とか名誉なんかよりも、魂をより良く磨くことに気を遣うべきだと言ったことで有名だ。その意味では矛盾しているように見えるかもしれない。ただ、そもそも企業はなぜ存在するのかといえば、社会問題を解決したいとか、より良い社会を実現したいということが先にあると思う。それがいつしか効率や売り上げみたいなものが目的になってしまっているということだ。今、人工知能や脳科学などが導入されても、本当にそれが有効なのか分からないとか、5年後、10年後に向けた事業計画を立てても、実際にどうなっているか分からないとか、そういう不安のある時代だと思う。そういう中で、自分たちがなぜ存在しているのか、環境問題にどう向き合うか、従業員の幸せや健康をどう考えるかという時に、哲学的な思考が必要とされてきていると思う。

 そこで吉田氏は、「哲学シンキングメソッド」を用いて、企業でセミナーなどを開催している。

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 「例えば、最初に答えではなく、問いを挙げてみる。ただ、問いを出せばいいわけではないと思っている。問いがたくさん出ても、頭がぐちゃぐちゃになるだけだ。そして、ビジネスでも日常生活でも、例えば問いの形をしているが、実は問いではないものはたくさんある。例えば、“何でもっと会議で積極的に発言しないのか”と言うのは、疑問ではなく命令だ。場合によっては、そのようにして発言しにくい空気を作っているのは自分かもしれない。次に、問いを“価値をめぐる問い”や“条件をめぐる問い”、“定義をめぐる問い”などにグルーピングし、システマティックに議論の体系を作っていく。そうすると、ある視点からだとこうしか見えなかったのが、別の視点から見ると全然違って見える、別の意味が見えてくるということがある。そして、最後にもう一度、俯瞰する」。

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 桜美林大学の田中一考准教授によると「アップル」の創業者であるスティーブ・ジョブズも既存の価値観に問いを重ね、当たり前のデザインやサービスに対し疑念を持ったという。そもそも自分が欲しい物は何なのかを問い続けた結果、辿り着いたのはシンプルでスマートな暮らし。それを実現できる商品が欲しい。その結果iPhoneが生まれたとされている。

 日本企業においても、ホンダの創業者・本田宗一郎の理念・伝統として、「ワイガヤ」がある。上下の関係なく、自由に「疑問」「意見」「問い」をワイワイガヤガヤ語り合う、つまり哲学思考で「問う」営みから、スーパーカブ、ホンダ・シティ、エアバッグ、F1を席巻したエンジンなど、時代を先取る自由な発想、イノベーションが誕生したという。

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 テック業界を取材してきたジャーナリストの佐々木俊尚氏は「20世紀の産業界は、売ること、成長すること、成功することが目的という感じだった。それが21世紀に入るとハードウェアが売れなくなり、いわば概念、形のないものを売るようになった。たとえば最近のスタートアップ企業の創業者たちの写真を見ると、アルバムジャケットみたいになっている。あるいは20代、30代の中には、ミュージシャンやアーティストになるのか、起業するのかという選択肢の中で起業家になった人もいる。まさに自分たちの世界観や理念そのものを商材にし、激しいロックを歌うかのようにそれを世界にぶつけ、それが売れるという時代に変わってきていると思う」と話す。

 「普通の企業は、何を顧客が欲しがっているかということをリサーチする。しかし、顧客は理解している物しか欲しがらないし、そういう顧客がイメージしていない物を生み出すことは不可能だ。一方、例えばアップルのスティーブ・ジョブズが一切マーケティングをしなかったというのは有名な話だ。誰もスマホなんか想像していない中でスマホを生み出したことは、やはり哲学的な営みだったと思う。ソニーのウォークマンもそうだ。最初に発売された時、僕は10代の終わりだった。ソニー製は高くて買えず、別のメーカーの類似品を買ったのだが、歩きながら音楽を聴くって、こんなに世界が変わることなんだと衝撃を受けた。これも単なる技術革新・発明というより、社会を変えていくことを実現をしたものだと思う。哲学的なビジネスプロセスを経ることが、そのように射程を広げられることにおいて重要なんじゃないか」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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