新型コロナウイルスの感染防止策を徹底していない飲食店で、感染者が出た場合、店名を公表する考えを西村経済再生担当大臣が示した。これに対し、飲食業界では困惑の声が広がっている。
【映像】感染は「お店の不注意だけじゃない」待ち受ける誹謗中傷・バッシングの嵐
飲食店などでのクラスター発生防止に向けた一連の対策を発表した、西村大臣。感染経路の追跡が困難な場合でも関係者の同意なく店舗名などを公表できるという認識を示した。西村大臣は「ガイドライン順守していないことから感染と考えられる場合はそれも公表して感染防止の徹底を促すことも、周知徹底をしたい」としている。
■「公表されたら確実に閉店」飲食業界から戸惑いの声
外食業向けに日本フードサービス協会が示しているガイドラインでは、人との距離をできるだけ2m以上空けるなどの基準が示されている。フードビジネスコンサルタントとして飲食業に携わる永田雅乙氏は苦境に立たされた関係者の実情をこう語る。
「ガイドラインが守られないのであれば、国として『飲食店のみなさまは閉店、倒産してください』と言っているような内容。例えば、横のお客さんとの距離感や、向かい合わせに座らないで下さいとか、これを全部守っていこうとすると、多くの飲食店は、特に小さな飲食店が軒を連ねている場所はみんな営業できない」
感染者が出て店名が公表されると、店の存続も危ぶまれる事態。そうならないよう店側は細心の注意を払っているが、時にはその対策が客側のイライラを招く場面もある。前述の永田さんは「個人店で飲食業を営む人の気持ちや立場をもっと尊重してほしい」と話す。
「当然、みんな一生懸命(新型コロナウイルスの感染防止に)気を付けている。けれども個人店の中にはお客様がはしご酒で回ってきたとき、何軒か回ってお酒が入っていると検温を嫌がって、ちょっとお客様が怒ってしまうことがある。個人店で営業している人の気持ちや立場をもうちょっと重んじてあげてほしい。店名を出されたら確実に閉店、倒産です」
■新宿シアターモリエールが「小劇場エイド基金」を辞退 コロナ禍で「支援できる空気を」
世間で「ここで感染者が発生した」と認知されたとき、待ち受けているのが批判や噂だ。クラスター感染が発生した舞台を上演した「新宿シアターモリエール」も主催側と共にバッシングを受けた。
新宿シアターモリエールは、参加していたクラウドファンディングプロジェクト「小劇場エイド基金」において、分配金の辞退を決断。
「せっかく小劇場エイドさんに参加させて頂いたのですが結果的に御迷惑をおかけしてしまいました。重ねましてこのたびは申し訳ありませんでした。分配金に対して小劇場エイド運営側から従来どおりに受け取るよう言っていただき、お気持ちは非常にありがたいのですがクラウドファンデイングでの分配金の受け取りは辞退させて頂くこと御了解願います」
(※「小劇場エイド基金」掲載文より)
劇場関係者に濃厚接触者はいなかったものの、新宿シアターモリエールは、いまも営業再開ができていない。また、新型コロナウイルスのワクチンが発表されるまで、全て無観客による公演、稽古場の貸し出しなどに限った営業にすると発表している。
過去には店舗名を公表したことで、店に対する直接の誹謗中傷やバッシングが集中したケースもある。一方、逆に公表しなかったことで、札幌市の“昼カラオケ”のように、同じ業種の無関係の店で「感染者が出た」とデマや風評被害が発生した事例も存在する。
関係者の同意なく店舗名などを公表できる方針に、慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「店を罰することが目的ではないはず」と見解を明かす。
「今のままではどうやっても誹謗中傷やバッシングにつながってしまう。今回の(西村大臣が発表した)対策は、新型コロナウイルスの感染拡大防止が目的。店舗名が公表されたことで『自分もこの店に行っていたから気をつけよう』って行動できる。クラスター感染が発生したお店を罰することが目的ではないはず。ただ、店舗名が公表されることでバッシングが集中して、社会的に罰せられることになる」
その上で若新氏は「感染はお店の不注意だけで起こるものではない」と警鐘を鳴らす。
「日本がロックダウンしているなら話は別だが、国の方針として今はどうにかして感染防止対策をやりながら、なんとか経済を回していこうという状況。当然、お店で注意をしていても不運に新型コロナウイルスが持ち込まれて感染が広がるということも起こり得る。それが結果としてバッシングにつながるのは良くない。もし店名を公表するなら合わせて、個人が安易にバッシングしない、ネットで『ここはクラスターが起きたぞ』って広げるような行動や悪口を発信するべきではないっていう注意喚起や何かしらの方針が必要だと思うが、それは簡単ではない。店名公表はそのあたりとセットで考えるべきだったのではないか」
「我々生活者も営業しているお店の恩恵に授かっている。本当の不注意なら直接行政指導をすればいいし、お店が注意しているのにそれでも感染者が出てしまったら、それは不運だとしか言いようがない。むしろ、バッシングどころかお店を支援する必要があるのではないか。僕たちも消費者として使っているわけで、不運に感染を出してしまったお店が潰れないように応援できるくらいの空気にしないといけないし、それができないのであれば店名の公表はするべきではないと思う」
コロナ禍の中、感染防止対策に頭を悩ます飲食店。誹謗中傷やバッシングに惑わされない支援の手が今求められている。
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