8月1日の修斗・後楽園ホール大会で行なわれた初代女子スーパーアトム級王座決定トーナメントの決勝戦は、勝者・黒部三奈の言葉を使うと「泥試合」だった。鮮やかなKO、一本で決着したわけではない。だがそれは、選手の気持ちが伝わってくるような激闘だった。
黒部はDEEP JEWELSでもベルトを巻いた強豪で、現在43歳。35歳でデビューした遅咲きのファイターだ。対するは杉本恵。学生時代にレスリングで実績を残しプロデビュー、出産と育児で試合から離れていたが、修斗で復帰すると4連勝を収めた。
リーチや身体能力、テイクダウンでは杉本が上回るかと思われたが、試合は黒部ペースで進む。序盤からアグレッシブにパンチを繰り出し、圧力をかける。組み付き、ケージに押し込むとヒザ。徐々にではあるが、杉本はダメージを蓄積させていった。
驚くべきは、黒部が5分3ラウンド、ひたすら前進をやめなかったことだ。杉本は下がりながらも鋭いパンチを放っていった。それを食らいながら、黒部は前に出続け、攻撃を出し続けた。単に体力だけでなく、精神面でのスタミナが凄まじい。一瞬も集中力を切らさなかったからこそできた試合だ。試合後の黒部は言った。
「執念ですね。執念しかないです」
結局、レスリングに秀でた杉本に一度もテイクダウンを許さなかった、それだけ黒部の圧力が凄まじかったということだろう。もちろん本人としては「もっと攻めたかった」。ダウンさせるなりテイクダウンからの攻撃でフィニッシュしたかったところだろう。だが「泥試合」だからこそ、黒部の芯の強さが見えたとも言える。判定は3-0。すべてのラウンドを黒部がものにしての戴冠だった。
“黒部劇場”は試合前後も見逃せない。RIZIN参戦アピール以来、テーマは“彼氏募集”。選手紹介VTRでは「甘える人がほしい」、「キアヌ・リーヴスがタイプ」とアピールし、勝利者マイクの締めではこう叫んだ。
「初代女王を抱きたい男の中の男、出てこいや!」
場を自分の色に染め上げるという意味でも、見事な王者ぶりだった。ただ黒部は「これが終着点ではない」と言う。「もっと上を目指したい」。
いつまで、あるいはどこまで格闘技をやっていきたいか。試合後の黒部に聞いた。
「正直、ないです。何かあったら、大ケガしたらこの年齢では続けていけない。明日終わるかもしれないという気持ちでやってます」
キャリアがいつ終わってもおかしくないのが格闘技。だから続けられる限りは続けたい。その真摯な思いが出たチャンピオンシップだった。
「とにかく強くなりたい、その一心なので。強いチャンピオンになりたいです」
格闘技に対する気持ちの純粋さに、年齢は関係ないのだ。
文/橋本宗洋