7月28日、茨城県・土浦市において、ネット社会について高校生が意見を述べるイベントが行われた。インターネットを取り巻く問題は様々。同イベントには、明星大学准教授で臨床心理士の藤井靖氏も講師として参加。匿名の書き込みが人を追い詰められる現状を、高校生はどう思っているのか。
イベントには、ネット上での誹謗中傷対策を検討する自民党のプロジェクトチームの事務局長である国光あやの議員も出席。高校生の声を国に届けるべく、高校生たちが事前に話し合った意見を発表した。ある高校生の意見は、こういったものだ。
「みんながみんな特定されているわけではない、匿名だという風に思っていて、それなら大丈夫だということで一部の人はやりたい放題してしまうということが原因だと思います」
「有名人の対応ですが、まず多く出た意見は即ブロック・通報などの無視が基本という意見が出ました。自分が個人的に効率的だと思った意見は、有名人のアカウントは本人ではなく事務所が管理するという意見がありました」
なぜ人は誹謗中傷をしてしまうのか、被害を受けやすい有名人はどうSNSを活用すべきなのか、様々な観点からの意見が発表された。さらに使う側だけでなくメディアの伝え方や、国の役割についても言及があった。
「誹謗中傷についてや、今のコロナウイルスなどの時事的なことについて視聴者に意識をさせることができる、注目させることができるということでメディアの伝え方も適切だという人もいたんですが、その一方でメディアはどうしても正しくないことを伝えてしまったり、最近では視聴率を意識してカットシーンが多くあったり、間違った情報を伝えることもあるということで、ここについては意見が分かれました」
「法と表現の自由のバランスが、国が介入するというときは大切になってくるという意見も出ました。言論の自由の観点から政治とは分けて考えるべきで、ただ個人が被害を被った場合は、支援という形で国が介入するのもやむを得ないという意見が出ました」
その後も、よりよいネット社会にするために必要な要素についての議論が行われ、意見がまとめられると、「SNSをAIが監視」、「ネット教育の強化」など、高校生の視点からのアイディアが次々と提案された。使い方を間違えれば人を追い詰めるツールになるインターネット。ネット社会の一員である高校生も身近な問題としてとらえているようだ。
実生活でも、SNSのグループで傷ついた経験がある人もいるという。「前の話し合いでもあったんですけど、グループがあって1人だけ抜けた状態でもう1個別のグループを作る。誰かをはぶいたりする行動が周りであるんじゃないかなと思います」と語ると、その理由については「自分と意見が合わない人がいると、その人と共感できないとあんまりいいと思わないことがあるじゃないですか。そういうのが多いと、共感できた人たちだけでつながりたいっていうのが多くてそうなっちゃうんじゃないかなと思います」とコメント。「一人一人こういう使い方が正しくて、こういう使い方が間違っているよということを理解した上でみんな使って欲しい」とも語っていた。
イベントを振り返った藤井氏は、「本当に高校生のみなさんから多様で自由な意見が出て、活発な議論がなされた。じっくり話し合ったり、考えたりというプロセスこそが大事」と、手応えを感じたようだ。
「SNSやネット環境というのは、もはや生活の一部になっているものだが、ネット上の誹謗中傷が人の命の問題につながる事例などもあり、いま本当の意味でうまく使いこなせているかといえば、必ずしもそうとは言えない。これから社会の主役になっていくみなさんが、既成概念から解き放たれて、自由に自分たちはこう使いたいと考えてもらうのは大事だと思う。ネット以外でも、人の働き方、ハラスメント、LGBTなどは、旧来の価値観に対するアンチテーゼから、いろいろな新しいもの、考え方、対策が生まれてきた。ネットについても当事者が、自分からどうしたいかを考えることで、新しいものが生まれると思う」と、次世代を担う高校生たちだからこそ考えられるものへの期待を高めていた。
また、心理学の専門家としても、注目すべき意見も多くあったという。「夜、スマホを使わないという意見があった。脳疲労が溜まると極端な判断をしやすくなる。例えば感情のやり取りになりやすい事柄・内容については、発信者も受け手も、夜使わないのは一つの具体的な方法として理に適っていると思った。
加えてSNSを、何を目的に使うのか改めて考えたいというのがあった。大人も含め、惰性で使っているところがあるのではないか。あたかも社会インフラかのように使うのが当たり前として使っている感じもある。TwitterなりInstagramなり、何を目的に使っているかと問われると、意外とパッと答えが出てこない人も一定程度いるのではないか。スマホの利用も含め、目的をある程度明確にして、かつ自分であらかじめ使い方を決めるという自主性が伴うことは、心理学的にも依存や弊害が起こりにくい向き合い方だし、今回のイベントの本質的なポイントだと思う。
そして高校生のみなさんの中で相互扶助的に、お互いの悩みを聞き合う、あるいは同世代から注意喚起等の声掛けをしていくのは、上から何かを押し付けられるより効果がある。日頃から話し合える環境があるといいのでは。高校生のみなさんの感性や意見を受けて国やプラットフォーマーが勘所を吸い上げて、考えていってほしい」と、貴重な意見が実際によりよいネット社会、SNSの運用に活かされるべきと述べていた。
この記事の画像一覧





