中国発の動画アプリ「TikTok」の事業買収騒動に、またアメリカで新たな動きがあった。
先月、トランプ大統領容認のもと、TikTokの国内事業買収に向け動き出していたのはマイクロソフトだった。しかし8日、ウォール・ストリート・ジャーナルは、Twitter社がTikTokとの提携に向け事前協議をしたと報道。買収の可能性も視野にあるという。
しかし、2つの企業には大きな差がある。ひとつは、手元資金の差。Macrotrendsによると、マイクロソフトの手元の資金は14兆4084億円で、Twitterの8263億円の17倍以上。その差は歴然だ。
【映像】「#TwitterとTikTok合併許すな」が異例のトレンド入り
また、Twitterには痛い過去がある。Twitter は2012年、6秒のショート動画が投稿できるアプリ「Vine」を買収。まるで現在のTikTokのようなサービスで若者世代に大人気だったが、わずか5年足らずでブームが去り、2017年にサービス終了となった。
苦い過去もありながら、Twitter社は本当にTikTokの買収に動くのか。10日、当のTwitter上では「#TwitterとTikTok合併許すな」がトレンド入りした。また、「どう考えても客層が違い過ぎる」「合併されたらTwitterも規制されたりしない?」といった声が上がった。
中国の人気サービスを巡るアメリカIT大手の争い。その思惑とメリットとは。
■TwitterがTikTokを買収? その狙いは?
Twitter上であがっている買収反対の声について、ITジャーナリストの石川温氏は「日本で自民党がTikTokを規制しようという話があった中で、Twitterに『そんなことしたら日本の若者から自民党が嫌われるのではないか』と書いたが、Twitter民から『TikTokは本当に危ないものだから規制すべき』というような反発があった。Twitterを使っている人からすると、TikTokは相当嫌いなのかなと肌で感じた」と話す。
TikTok(バイトダンス)の創業は2012年で、Twitterの2006年より後発。しかしユーザー数は、TikTokの月間アクティブユーザーが全世界で8億人、Twitterの月間利用アカウントが全世界で3億3000万人。評価は、TikTokの市場評価額が約5.3兆円(約500億ドル)、Twitterの株式時価総額が約3兆円(約290億ドル)と、TikTokが上回っている。
TwitterがTikTokを買収するメリットについて、石川氏は「Twitterは日本では人気だが、アメリカやそれ以外の国では中々普及していないところはある。さらにユーザーを増やすという目的で、TikTokを欲しいということはあるだろう。広告収入はTikTokの方が上なので、それを取りたいというのもあると思う」と話す。
また、Twitterによる買収の実現性については、「Twitterはなかなか買いにくいという状況もあるが、投資家を集めれば買うことは可能だし、“Twitterと組む方がメリットがある”とアピールして買収に繋げていきたいというのはあると思う」とした。
では、Twitterが買収した場合、TikTokのサービスに変わる部分は出てくるのか。「当面は変わらないと思う。実際、FacebookもInstagramを持っているが、全然別のサービスとして機能しているということを考えると、別ブランドで運用していくというのが自然な流れだと感じている」との見方を示した。
■Twitterは“商売下手”? 「Vine」失敗の痛い過去
過去にショート動画共有サービス「Vine」を買収したTwitter。Vineは6秒間のショート動画を共有できるサービスで、2012年6月に会社を設立し、10月にTwitterが買収。2013年1月にiPhone版アプリ登場、6月にアンドロイド版アプリが登場したが、2016年10月にサービス停止を発表。2017年1月に終了した。
なぜ、一瞬のブームで終わってしまったのか。「BlackDiamond」リーダーのあおちゃんぺは「その時に流行っていたユーザーが大人になって使わなくなって投稿しなくなると、どんどん廃れていく。次のスターを出せないまま廃れていったのではないか。その後、動画を配信できるペリスコープが出てきたけど、全然流行っていない。Twitter自体が動画系に弱いのではないかと思う」と話す。
また、ジャーナリストの堀潤氏はTwitterが商売下手だとし、「Vineは、Instagramのインスタライブとか、それこそTikTokの登場によってあっという間に消えていった。ペリスコープの場合は、Twitter上の動画配信のインフラとして一応使われている。商売が下手というところが、Twitterの一番の問題なのだろう。TikTokだと音楽の広告などと合わせていたりして、買い取った先でビジネスとして成長できる兆しがあるのかなと思う」と指摘。
さらに、「あとはユーザーが皆、見栄えを良くしたかったというところがある。Vineだと編集はできるが、ちょうどその頃、顔がウサギになるとかSNOWなどが出始めたばかりで、皆そっちに移っていった。あまり自己愛を満たすサービスではなかった」と話すと、あおちゃんぺも「TikTokは本当に自己顕示欲の塊のようなもの。そこを満たせないと今は流行らないのかなという気がする」と賛同した。
買収対象はどこまで広がるのか。当初「事業の買収対象」と表明した国はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど。一方で、イギリス『フィナンシャル・タイムズ』は6日、「マイクロソフトがTikTokの全世界の事業買収を目指す」と報じている。
堀氏は「ちょうどTikTok運営会社の社長が従業員向けにレターを出していて、“基本的にユーザー第一だ。次に、文化を守る。社員の皆さん一緒に頑張ろう”という趣旨の話だった。結局次のインフラのことを考えているのかなとは思う。なぜSNS系のインフラが欲しいかというと、この後の流通系のインフラとして確保しておきたいから。そうでないとビジネスとしてスケールアウトしていかない。アメリカで買収してブランドだけ守るということであれば、売り抜けて違うものを始めようというフェーズに来ているのかなと思う」と推察する。
長期的に見て、TikTokを買収する価値はどこにあるのか。石川氏は「この先5Gが当たり前になってくると、動画コンテンツを当たり前のように見ていくと思う。そういったところで、TikTokというプラットフォームは魅力的。広告もそうだが、ECの物を売るというところでもTwitterよりTikTokの方がユーザーに届きやすく、インパクトが大きいところはある」と説明。
では、TikTokが買収された場合、日本のユーザーに意識の変化は起こるのだろうか。「日本のユーザーは中国に情報を取られていると思いがちなところもある。むしろ、マイクロソフトに買われた方が歓迎して、ユーザーも増える可能性があるのではないか」とした。
■セキュリティ問題から経済対立に “買収後”の影響は
TikTok側が米政府を提訴するという話も上がっている。TikTok(バイトダンス社)は「公平な対応をしなければ米国の裁判所に提訴」と表明しており、米公共ラジオ局NPRは8日、「早ければ11日にもトランプ政権を提訴」と報じている。
また、トランプ大統領は「売却益を国庫に納めろ」と発言している。北海道大学公共政策大学院教授の鈴木一人氏は「トランプ大統領は、ビジネスマンとしての感覚が抜けていない。買収交渉に当事者意識を持ってしまい、『政府が世話したのだから応分の報酬を得るべきだ』と考えている」としている。
当初のセキュリティの問題から経済対立に発展している面もあることについて、石川氏は「(中国アプリが)情報を抜いている、抜いていないというのは証明できないし、いつまでたっても答えは出ない。そうなってくると、早く買収するなりしてしまい、すっきりと関係を整理する方がTikTokにとってもメリットが大きい。こういった流れが、もっと加速していくと思う」との見方を示す。
中国にとって、TikTokの買収騒動はデジタル通貨を流通させる動きに影響を与えるのか。「トランプ大統領が今回、TikTokに加えてWeChatを対象にしていたというところが大きいと思う。実際に中国ではWeChatをベースにして給料を払ったり、物を買ったりしている。あらゆる経済活動がWeChat上で動いていることを考えると、そこを抑えにきたというのがトランプ大統領の考えなのではないか」とした。
また、「選挙対策というのは大きいと思う。トランプ大統領がこの先どうなるかで、もしかすると話がコロッとなくなる可能性はゼロではないのかなと思う」と話す石川氏。今後アプリの使い方はどのようになっていくのか。
「非常に悩ましくなってきていると思う。私自身も中国の友達とはWeChatでやり取りしているが、これができなくなると、本当に中国の人とコミュニケーションが取れなくなってしまう可能性がある。代わりが出てくるかと言うとなかなかそうはいかず、コミュニケーションツールはかなり混乱が起きてくる可能性がある。(情報について)どのアプリも抜いてるといえば抜いていると思う。中国アプリの場合は、それを中国政府に渡すかどうかというところが焦点になっているが、渡されてそんなに困ることもないのかなと、だんだんと危機意識がなくなってきていると個人的に感じている。また、アプリ間で情報を橋渡しすることはあまりできないようになっているので、登録した情報がそのアプリで利用されることはあるが、それ以外では気にする必要はないのかなと思う」
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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