11日夜、香港の民主活動家・周庭(アグネス・チョウ)氏や地元紙「蘋果日報(リンゴ日報)」などを創業した実業家の黎智英(ジミー・ライ)氏が保釈された。周氏ら10人は10日、「国家安全維持法違反」の疑いで香港警察に逮捕されていた。
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広報発表では男女6人は香港国家安全維持法第29条に違反、外国または香港外の勢力と共謀して国家の安全を危険に晒した容疑、残りの4人は詐欺を共謀した容疑とされているが、その具体的な内容は明らかになっていない。
5日にデモ隊を扇動した罪と違法集会に参加した罪で有罪判決を受けた際には「私のことだけでなく、他の香港の若者たちのことにも注目していただきたい」と日本人に呼びかけるなど、流暢な日本語で香港の実情を訴えてきた周氏。Twitterでは「#FreeAgnes」のハッシュタグに反応した日本のユーザーも多数現れていた。
東アジア情勢を取材する講談社の近藤大介特別編集委員は「香港は1997年に中国に返還されて以降、一国二制度の体制だったが、これは逆に言えば、土地は中国のものだということだ。政権内部では、隣接した深センや広州と同じなのに、なぜデモなどを許しておくのかという声が高まっていた。先週には共産党の非公式の最重要会議“北戴河会議”が開かれたが、ここでも引き締めをやっていくという話になっていた。そういう国内事情もあって、このタイミングになったのだと思う」と話す。
「都市部に住む国民にとっては、香港は“遅れた汚い場所だ”というイメージがある。建物は古臭いし、いまだに紙の新聞を読み、タクシーは手を挙げて拾わなければいけない。そして現金で取引している、と。また、“あの暴徒を何とか早くすべきだ”という民意が強いのも確かで、そういう点では習近平政権と一致している。また、民主活動家の中で、なぜ周庭さんだけを捕まえたのかといえば、当局としては、彼女が一番“吐かせやすい”“寝返りやすい”と踏んだのではないか。つまり司法取引も含め色々な揺さぶりをかけ、民主化運動をしている人たちの情報を入手し、一網打尽にしようとしているのだと思う」。
また、周氏と同じ民主化運動の活動家で、アメリカの公聴会でも発言したことのある黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は自身のFacebookに「長い間、香港は北京の支配下における報道の自由の“最後の砦”であり続けてきた。しかし今日の逮捕はメディア検閲の新しい暗い時代の前兆だ」と投稿していた。
近藤氏も「日本では周庭氏が著名なので大きな話題になっているが、やはり欧米社会ではリンゴ日報に立ち入り検査が行われ、黎智英氏が逮捕されたことが大きいと思う。報道の自由をシャットアウトしたというのは、自由主義社会にとって許すことのできないことだからだ」と指摘する。
「香港には“6大紙”と言われる6つの大きな新聞があるが、中でもリンゴ日報は反中国、反中国共産党の論調が強い。香港が返還されて以降、買収されたり、中国人記者が増えたりするなどして、中国に対してあまり悪口を言わない、メディアの“中国化”が進んでいた。習近平政権になってからは書店員の摘発など、メディアに対する圧力がさらに強まっていた。そういう中にあって、リンゴ日報だけは決して屈せず、一貫してデモ、民主派グループを支持してきた。アメリカのペンス副大統領も“あまりに攻撃的で自由を愛する人への侮辱だ”と怒りのメッセージを出している。また、ドイツではメルケル首相が習近平さんとの首脳会談冒頭、5分間だけ人権問題について触れ、あとはビジネスの話を始めることを“メルケルの5分間”と呼んでいたが、これも今回のことで潮目が変わると思う」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「この100年くらいを振り返ってみると、欧米を中心としたリベラルな秩序に対抗した勢力として、日本とドイツとイタリアの枢軸国や冷戦下のソ連が挙げられると思うが、いずれも結局は瓦解してしまった。ところが中国に関して言えば、特に経済面では衰退しないと思う。そうなると、トランプ大統領が“中国とアメリカの経済を分けるんだ”というようなことを言っていたが、実際に“新冷戦”のような形で、欧米中心の政治体制と中国の対立が長い期間が続くということが本当に起きるのではないか」と指摘。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「最近では香港の向かい側にある深センの方が圧倒的に経済成長しているし、資本主義の先進地域でお金のある香港というイメージから、むしろ遅れているイメージに転換してきていると思う。ただ、新疆ウイグル自治区の話もフォーカスされているタイミングで、衰退していく香港に対してこのようなことをして、得るものは大きいのだろうか」と疑問を呈した。
近藤氏は「中国が見据えているのは、香港ではなく台湾だ。直近ではアメリカのアザール厚生長官が台湾を訪問したし、北京政府としては香港にかかずらっている時間はない。一刻も早く香港を制圧し、台湾を統一に持っていきたい。とても危険だ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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