高齢者「ドーナツ死」に無罪判決 日常に潜む“小さなリスク”との共存を考える
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 長野県の特別養護老人ホームでドーナツを食べた入所者が死亡した事故で、業務上過失致死の罪で起訴された准看護師の女性について12日、検察側が上告を断念することを明らかにした。

【映像】“ドーナツ死”無罪確定へ「6年半という長い時間を…」准看護師のコメント(2分30秒ごろ~)

 2013年、長野県安曇野市の特別養護老人ホームで、ドーナツを食べた85歳の入所者の女性が心肺停止となりおよそ1カ月後に死亡した。業務上過失致死の罪に問われたのが、ドーナツを出した准看護師だった。

 昨年3月の1審で検察は窒息を防ぐために事故前にゼリー状のおやつを出すと変更されていたのに、准看護師が確認する義務を怠ったなどとして、罰金20万円を求刑。一方、弁護側は、変更を記した申し送り表を被告が確認する業務態勢ではなかったなどとして無罪を主張したが、長野地方裁判所松本支部は検察の求刑通り、罰金20万円を言い渡した。

 1審の有罪判決後、「本当の意味で介護の委縮が始まる」と懸念を示した木嶋日出夫弁護士。事故は全国の医療・福祉関係者に注目され、署名活動や応援の声が広がっていた。

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 そんな中迎えた先月の控訴審判決、東京高裁は、1審の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡した。判決では「ドーナツで窒息する危険性などを予測できる可能性は相当に低かった」などと指摘し、「窒息事故などを防止する注意義務があったとはいえない」とした。

 この判決について東京高検は「内容を検討したが、適法な上告理由を見出せなかった」として、上告しないことを明らかにした。これで准看護師の無罪が確定することになる。

 ニュース番組「ABEMAヒルズ」のコメンテーターで、慶応大学特任准教授などを務めるプロデューサーの若新雄純氏は「喉に詰まらせやすいお餅など、亡くなるリスクが高いものはマニュアルを作って『食べないでおこうね』ってすることができる。ドーナツなど多くのお年寄りでも食べられるものは、介護現場が個別に(食べられるかどうか)を判断することになる」とコメント。

 もし判決が有罪だった場合、若新氏は「わずかでも危険性があるものは介護施設が一切食べさせないようにするという方向に向かったと思う。絶対的ルールが作られることで、施設側が背負リスクは小さくなるが、介護や保育の現場で、食べたいものが食べられなくなったり、行きたいところに行けなくなったりした可能性がある」と指摘する。

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「“万が一”の危険って僕たちの人間生活の中で山ほどある。“万が一”をゼロにすることばかり考えたら、保育園の昼間のお散歩だったり、子供が公園で遊んだりすることもできなくなる。危険に至る確率を減らすための努力は大切だが、ゼロにはならないリスクはたくさんある。どう頑張ってもゼロにならないものを全て遠ざける社会が本当に豊かなのか考えないといけない。どうしても回避できなかったことを全て罰していたら、とても窮屈な社会になってしまうのではないか」

 ゼロにならない小さなリスクを全て制限する社会は幸せなのだろうか。「もちろん、人の命がなくなっていいわけではない。ただ、僕らが生きる、暮らすということは、常に色々な小さなリスクと共存しているということを議論し、その上で社会生活やサービスをどのように設計すべきか検討する必要があるのではないか」と訴えた若新氏。介護現場の負担、ゼロにならないリスク、より良い暮らしを送るために日々考え続ける必要がありそうだ。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

※ABEMAヒルズでは「#アベヒル」で取材してほしいことなど随時募集中

【映像】“ドーナツ死”無罪確定へ リスクと共存
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