「子宮移植認めて」検討委で当事者の女性が訴え 医師「技術的には問題ない」も残る課題
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 「子どもを授かりたい」――しかし、現在の日本では、不妊治療のスタート台に立てない人たちもいる。今週、「子宮移植」についての検討委員会が行われた。委員会には初めて、生まれつき子宮がない疾患を持つ当事者の女性が出席し「子宮移植を認めてほしい」と訴えた。

【映像】「子宮移植認めて」当事者の女性が訴え

 子宮がない女性に第三者の子宮を移植し、妊娠・出産を目指す“子宮移植”。日本ではまだ認められていない。検討委員会では、子宮移植の対象となる生まれつき子宮のない「ロキタンスキー症候群」の女性や当事者会の関係者が出席し、ヒアリングが行われた。国内での子宮移植の実現を求める要望とともに、ロキタンスキー症候群をめぐる現状など幅広い意見が交わされた。

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 「子宮移植を日本で認めていただきたいということを念頭に、具体的に患者等のケアの話であったりとか、どのような人をドナーにしたらいいのかをお話させていただきました」と話すのは、検討委に出席したロキタンスキー症候群のまこさん(仮名)。

 ロキタンスキー症候群とは、先天的に子宮と膣の全部、もしくは一部がない状態で生まれてくる疾患で、約4500人に1人の割合で起きると言われている。卵巣は正常に機能し、女性ホルモンの分泌や排卵もある。見た目に病気はわからず、日常生活にも支障はない。ただ、妊娠することができないのだ。それが、子宮移植によって妊娠・出産の可能性が出てくる。

 20代のAさんも患者の1人。当時17歳のAさんに宣告されたのは、生まれつき「子宮がない」という事実だった。

 「中学校の時とかに生理がなくて、子宮がない状態だとわかったのは17歳の時に病院に行ったのがきっかけ。うすうす『自分はそれなのかな』と思っていたので、やっぱりそうなのかなって感じでした。診断名として聞くと頭は真っ白になっちゃうんですけど、自分よりも母親の顔見るのがつらかったかな…」(Aさん)

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 娘の病気を知った母親は涙を流し、ごめんねと謝ったという。Aさんは、子宮移植が可能になれば精神的な救いになると話す。

 「子どもを持つという選択肢がそもそもない状態にいるから。実際に治療を選択するかしないかは個人の価値観になると思うんですけど、でもその選択できるということがあるだけでだいぶ精神的には救いになるのかな」(同)

 当事者でつくるロキタンスキーの会では、検討委員会を前に子宮移植を実現する為の要望書を提出した。そこには切実な声が寄せられている。

 「私たちは子宮がないので自分のおなかで子どもを産むことはできません。他の人のお腹を借りる代理出産は日本で認められていません。卵子凍結すらさせてもらえません。そこに子宮移植という選択肢があれば、ロキタンスキー患者や病気で子宮を失った多くの女性が前向きに生きる希望になると思います」

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 子宮移植は、まず事前に卵子を摘出し、体外受精で受精卵をつくり凍結保存しておく。子宮の提供者であるドナーから子宮を摘出し、レシピエントに子宮を移植。子宮が定着し月経が再開されたのち、受精卵を子宮に移す。妊娠し無事に出産した後は、再び子宮を摘出するというものだ。既にスウェーデンやアメリカ、中国などで80例以上の子宮移植が実施され、25例以上が出産に成功しているという。

 日本国内では、慶應大学の木須伊織医師らのチームが子宮移植の臨床研究の実施を目指している。木須医師のチームは、これまで人間での子宮移植を目指し、2009年から子宮移植の動物実験を開始した。

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 ヒトより体も子宮も小さく、手術はヒトの場合よりも難しいと考えられていたサルの子宮移植。しかし、木須医師のチームは世界で初めて子宮移植後のサルの妊娠に成功した。10年以上にわたる研究により、木須医師は人間の子宮移植について技術的には問題ないと話す。

 「(子宮移植を)期待をしている患者さんがいるので、なんとか彼女たちの期待に応えられたらと思う。相当準備をしてきているので、技術的には問題がないと思う。今、子宮移植をして術後の管理もしてくださいというのであれば、そのあたりは心配していないが、あとは我々が決めるよりかは社会が決めることかもしれない」

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 子宮移植をめぐっては、生命を救うための臓器移植とは異なり、妊娠・出産が目的となるなど倫理面の課題や、子宮を提供するドナーにかかる摘出手術のリスクや負担などが指摘されている。レシピエント側も、3度の開腹が必要だが100%妊娠・出産の保証はなく、心的・肉体的な負担が考えられる。

 木須医師は、日本での子宮移植の課題を慎重に議論すべきとした上で、議論の長期化で年齢的に子宮移植を諦める人もいると話す。

 「やはり妊娠・出産というのはある程度、年齢というものがキーになってくる。子宮移植を受ける方の年齢であったり、逆にドナーとして子宮を提供する方の年齢というものも考えなければならない。中には10年前に子宮移植をしたいと言っていた患者さんが、まだ今でも日本では実施できていないわけで、子宮移植の適用から外れてしまう方もやはり正直なところいると思う」

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 多くの課題がある一方で、妊娠・出産の可能性を広げる子宮移植。12日に行われた検討委員会の閉会後、飯野委員長は「移植を希望する人が一定数いるとの説明を受けた。当事者の生の声を聞けて非常に参考になった」と話した。次回の委員会でも別の当事者のヒアリングを行い、慎重に議論していきたいとしている。

 検討委員会で意見を述べたまこさんは、子宮移植とともにロキタンスキー症候群についてより多くの人に知ってもらえたらと話した。

 「一番は子宮移植が日本で認められてほしいのはあるんですけど、世の中に対する理解がもう少し増えていけばなとは思っています」

 子宮移植について、遺伝子解析ベンチャービジネスを展開するジーンクエスト代表取締役の高橋祥子氏は「子宮移植は選択肢としてあるべきだと思う。ドナーとレシピエントの心的・肉体的負担があるということが課題にあるが、選択肢がないことで妊娠ができないという精神的負担を負っている方もいるので、リスクをきちんと知った上でどちらを優先するのかは、個人が選択できる権利があっていいと思う」と話す。

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 また、“生死に関わらない移植は倫理的に許されるのか”という指摘については、「許されるべきだと思う。人にもよるが、自分の生死に関わることと自分の子どもを授かるかどうかということが人生にとって重要なものを占める場合も多くあるので、選択肢があることが重要だと思う」との見方を示した。

 生殖医療の進歩について、「体外受精も、(技術が)出てきた頃は反対する人が8割ぐらいだったのが、いまは体外受精で生まれた方もいる。日々進歩しているし、社会の考え方もどんどん変わっていくのでは」と話す高橋氏。

 さらに、海外で代理出産した友人もいるという話から、「代理出産も認められるべきだと思っている。技術的にはできるのに、法律上できないというところが悔しいところかと思うし、やはり選択肢があることが一番重要だと思っている」と繰り返し述べた。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

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