教育関係者らおよそ1900人が参加したウェブセミナーをきっかけにTwitter上で拡散したハッシュタグ「#先生死ぬかも」。現役の教員とみられるアカウントからは、「この10年で現職の教員を3人見送っている。死ぬかもじゃないんです」「給食は5分以内に飲み込むようにして食べる。給食指導をしたり。噛んでる暇はない」「政治で働き方を変えられないという無力さがこの声を生んだのだと思う」といった、過酷な労働環境を告発する投稿が次々と発信された。
・【映像】現役教師「好きで働いて死んでいく。過労死認定も受けられない」
■休憩時間が1分しかないという教員も…
しかも、大量の仕事や人手不足に対し、公立小中学校の教員の残業代がゼロだという問題も注目されている。その背景にあるのが、教員の給与について定めた「給特法」(教職員給与特別措置法)だ。セミナーにも参加した岐阜県の現役公立高校教師の斉藤ひでみ氏は、今の働き方は「やりがい搾取」「“THE 定額働かせ放題”の典型だ」と訴える。
「給食の時間も、教員にとっては指導の時間。実際に食事に充てられるのは5分くらいだし、仕事が溜まっているので休み時間でも休憩ができない。中には休憩時間が1分しかないというようなデータもある。“この10年で現職の教員を3人見送っている”というツイートがあったが、過去10年で少なくとも61人が死亡したとされている。声を上げることができないご遺族が多いということを聞いているし、実際にはこの10倍ぐらいの方が亡くなっているのではないかという印象がある」。
業務は児童・生徒が下校してからも続く。ある教員の場合、退勤時刻は19時だが、帰宅後にも授業の準備が待っている。最近では新型コロナウイルスの感染拡大防止のための健康チェックや消毒も加わっているほか、オンライン授業によって準備にもさらに時間がかかっているという。加えて、学校によっては休日の部活動の指導を行っている教員もいるのだ。
■残業代の代わりに「給与の4%を上乗せ」
ここで問題になってくるのが給特法だ。教員は他の公務員に比べ働き方が特殊であることから、残業代や休日手当を付けない代わりに、給与の4%(1971年の制定当時の平均残業時間が月8時間だったことが根拠)を上乗せして支給することを定めている。
給特法について、斉藤氏は「この法律によって、あくまでも時間外や土日の勤務は“教員が好きでやったこと”という扱いになってしまったため、過労死したとしても、“好きで働きすぎて死んでしまった”となり、過労死認定が受けられないのもそのためだ。しかし実際のところは、“部活の顧問より、授業の準備がしたいんだけどな”と思いながらやらざるを得ない教員もたくさんいる。“好きでやっていること”だから、残業時間そのものを計測するようになったのも10年ほど前からだ。確かに50年前は4%でも業務量に見合っていたが、今では平均残業時間は80時間。100時間を超える教員が4割に上るという統計もある」と実情を訴える。
教育実習の経験があるテレビ朝日の三上大樹アナウンサーも「まず不登校の生徒の保護者との電話から朝が始まるという先生がいた。色々なことを先生に頼りすぎてしまう部分があるのかなと感じた」と振り返る。
議論の高まりを受け、昨年12月には改正給特法が成立、今年度からは業務量の管理がなされ、残業時間の上限も月45時間、年360時間となった。さらに来年度からは「変形労働時間制」が導入され、繁忙期の勤務時間を増やす代わりに、夏休みにまとめて休日を取るなど、年単位で勤務時間を調整できるようにする。ただ、これでは抜本的な改革にはならないとの指摘もある。
「良くなった部分もあるが、変動労働時間制の導入によって勤務時間を“1日8時間、週40時間”ではなく、年単位で把握、計測、管理していこうということになる。見た目の残業時間は減るので、働き方改革が進んだように感じられるかもしれないが、実際には学校に10時間以上いるという状況には変わりがない。改正の少し前に、教員の“本来業務”を明確化させるべきだという議論があった。授業準備はそれに当たるとされたが、部活動や掃除については“必ずしも教員がやる必要はない”という扱いになった。しかし実際に掃除の時間は解放されるのか、部活の時間は解放されるのかと言えば、決してそうはなっていない。結果として、見た目のみの、“数字いじり”の改革になってしまった」。
■教員の数を増やさなくてもいいと甘えてきた現実
労働環境の厳しさが報じられていることも原因なのか、教員採用試験の受験者数は減少する一方、転職・退職数は増加傾向にある。
こうした状況を踏まえ、斉藤氏は「教員の仕事に魅力がある。私自身、生徒と過ごす中で、自分の人生をかけて人の人生に向き合っていくんだというやりがいを感じている。実際、数年前までは文化祭の準備で夜中の2時、3時まで学校に残っていたこともあったし、嬉々として働いていたと思う。ただ、このまま60歳まで働けるだろうかと言えば、そうではないと思った。また、これだけの時間外労働があるにも関わらず、それが残業だと認められていない現実がある。教員採用試験の倍率を見ると、いわば誰でも教員になれてしまう自治体も現れている。行政の側に、教員は残業代なしでも頑張ってくれるので、教員の数を増やさなくてもいいと甘えてきた現実があったと思う。より良い教育を行うという、その責任を果たすためにも、給特法を抜本的に見直してほしいという署名活動を行ってきた」と改めて訴えた。
教員の働き方の問題を取材しているリディラバ代表の安部敏樹氏は「この10年ほど、精神疾患によって休職・退職をする教員が年間5000人ほど出ている。背景には小学校で英語、中学校でダンスが追加されるなど、教えることの量が増える一方であること。さらに共働き化や地域コミュニティの崩壊によって、登下校時の見守りなどもやらなければならなくなった。しかも、モンスターペアレントの対応も増えている。そこで文科省が財務省に予算増を訴えても、“児童・生徒の数は減少しているので、今いる教員の数でなんとかなるでしょ”と言われてしまう構図がある」と指摘。「一方、ミクロの問題もある。学校というのは教育委員会と校長の権限が強いので、そこがちゃんとリスクを取って意思決定すれば、状況は変わる。例えば斉藤先生が勤めている学校の場合、“この行事は本当に必要なのか”という議論をして、実際に無くしたものもあるという。誰もやりたいと思っていないのに、なんとなく続いてきたから続けようというものなどについては、学校の中で意思決定をしていくことも必要だ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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