金の一大産地でもある西アフリカのマリ共和国。みんな楽しそうに歌って踊っているが、お祭りではない。軍が「クーデター」を起こしたと聞き、喜んでいるのだ。
反乱を起こした兵士たちは18日、大統領公邸を襲撃した。彼らが拘束したのは、ケイタ大統領をはじめとした政府高官たち。キャンプに連行されてから数時間後の18日早朝、ケイタ大統領は国営テレビで「自分の権力を維持するために、血を一滴も流したいとは思わない」と演説。流血の事態を避けるため、辞任と国会の解散を発表した。マリではイスラム過激派の活動が活発で、今回の辞任により今後さらに政情が不安定になるおそれがある。
多くの人々がお祭り騒ぎの大喜びで受け入れた、今回のクーデター。CNNによると、3月から4月に行われた選挙の不正をきっかけにケイタ大統領への批判が高まったという。ケイタ大統領らは選挙結果を操作し、議席の大部分をケイタ大統領の政党が確保したというのだ。また、イスラム過激派の勢力を抑えこむことができていなかったことについても、不満の声が大きくなっていた。
2012年以降、こうした武装勢力の影響でマリでは極度に治安が悪化し、市民の犠牲も年々増えている。国連によると、マリの中部では今年1月から約半年の間におよそ580人が紛争によって命を落としたという。今回のクーデターについて、国連やアフリカ連合などは「非合法な政権転覆である」として強く非難している。
マリの現状について、去年8月にケイタ大統領が来日した際に面会したという社会起業家の牧浦土雅氏は「(アフリカの)地図を見ていただくと一目瞭然だが、国境が一直線になっている。19世紀中ごろからイギリス、ドイツ、フランスといったヨーロッパの国々がアフリカ周辺諸国を植民地支配していたが、19世紀末に出ていって国境を分けていこうという時に、経線などの数字で切ってしまった。それまで同じ川や建物を共有していた人たちが、いきなり『あなたはあっちの国で、あなたはこっちで』となってしまい、それが大きな紛争の種になっている。マリは最貧困国の1つとして知られていて、GDPも世界で見たら100位代と経済的に弱い国だ。ケイタ大統領は2013年に国政選挙で当選して、軍への未払い給与の問題を解決したり、(植民地支配していた)フランスの力も借りて紛争解決に取り組んできた。しかし、コロナ禍もあって国民の鬱憤が爆発してクーデターが起きた」と説明。
国連やアフリカ連合などはクーデターを「非合法な政権転覆」と批判しているが、牧浦氏によると、「マリ国民の大半にとって、軍事的に政権を転覆したというのは、日本の我々でいう民主主義的な行為。決して選挙で選ばれてトップになるべきとは思わず、軍事的な政権の転覆でもいいと思っているのが現状」だという。
では、マリは軍事政権になっていくのか。牧浦氏は「その可能性は高いと思う。今回のクーデターの首謀者である陸軍のゴイタ大佐が『暫定軍事政権のトップは私だ』と表明していたが、これについても国連などは強く批判している。ゴイタ大佐自身は『今後民政移管を行う』と言っているが、未だにケイタ大統領が拘束されている状態で、今後マリが国としてどう進むのか注目すべき」との見方を示した。
その上で、マリの今後については「いま世界的に金が高騰しているが、マリは生産量では順位が高く、輸出も7割は金に依存している。金はダイヤモンドなどと同様に紛争の種となっていて、マリが持続的に経済発展するためには金以外の農業やITなどの多様化が必要だと思う。われわれ国際協力の世界では、“治安の安定が先にきて国が発展するのか、国が発展した後に治安が安定するのか”というジレンマがよく言われる。これはもちろん両軸でいくのがベストオプションだが、両方行われていないのがマリの現状。他の国の力を借りずに、持続的に成長していく術を見つけていくのが大事ではないか」との考えを示した。
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