(王者がトーナメント制覇。名実ともにトップであることを示した遠藤)
有言実行の優勝だった。DDT恒例のシングルトーナメント「KING of DDT」を制したのは、現KO-D無差別級王者の遠藤哲哉。初戦で彰人に足元をすくわれたものの、敗者復活戦で勝ち残ると準々決勝ではベテラン・田中稔を撃破し、8.23後楽園ホールでのファイナル(準決勝・決勝)に駒を進めた。
準決勝で対戦したのは、このトーナメントで竹下幸之介を下し勢いに乗る樋口和貞。遠藤は序盤から樋口のパワーに苦しんだものの、スタンディングの状態から仕掛ける変形のゆりかもめでレフェリーストップを呼び込んだ。
決勝は同じユニットのT-Hawkとの“同門対決”に。何度となく逆水平チョップを被弾、なかなかペースを掴めなかった遠藤だが、終盤に一気に畳みかけるとシューティングスター・プレスでフィニッシュ。
タイプの違う相手に1日2連勝、しかも関節技、飛び技と違うタイプの勝ち方を収めた遠藤。敗者復活という流れも含め、チャンピオンの底力を示す優勝だったと言っていいだろう。
例年はこのトーナメントで優勝した選手がビッグマッチでKO-D無差別級王座に挑戦している。だが今回はチャンピオンが優勝。そのため遠藤が次期挑戦者を指名する形になった。遠藤が指名したのはケニー・オメガ。かつてDDTで活躍した、遠藤にとっては先輩にあたる選手だ。
(決勝戦のフィニッシュはシューティングスター・プレス。今回も見事なフォームで決めた)
ケニーは新日本プロレスで大出世を果たし、現在はアメリカのAEWで副社長も務めている。昨年11月、DDTの両国国技館大会に久々の登場を果たしたが、一夜明け会見で遠藤と竹下幸之介を痛烈に批判。その時のことを忘れていないと遠藤は言う。
チャンピオンになった今、ケニーに“落とし前”をきっちりつけさせる。そのための挑戦者指名だ。遠藤はトーナメント開幕前からケニーの名を出していた。そのプレッシャーを力に変えての優勝だ。そのため試合後には「ケニーのおかげ」という言葉も。またチャンピオンとして「自分へのプレッシャーのかけ方が分かってきた」とも語っている。試合で観客を魅了するだけでなく言葉や態度でもファンにアピールし、波風を立てることで周囲を動かす。“チャンピオンとしての遠藤哲哉”の姿が、こうしてしっかりと確立されてきたわけだ。
「とにかく勝つ、ケニー・オメガに。向こうは実績でも知名度でも俺よりあるけど、その相手に勝つことが今一番、価値があることだから」
次の遠藤の防衛戦は11月3日の両国大会。コロナ禍のため、その時にケニーが来日できるかどうかは分からない。「可能性が低いのは分かってる」と遠藤も言う。それでも“今のDDT”を代表する人間として、ケニーに向き合う必要があったのだ。その決意がもたらした優勝だった。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング