月900本もの記事を放ち、40もの連載を抱える超売れっ子のネットニュース編集者・中川淳一郎氏(47)。大手広告代理店「博報堂」を4年で辞め、黎明期のネットニュース業界入り。今や社員2人の会社で年商1億円を稼ぎ出すまでになった中川氏が、この夏“セミリタイア”を宣言する。
27日、『ABEMA Prime』に出演した中川氏が、ネットニュース業界に訴えたこととは…。
■「ホッとできるニュースを出すことも考えた方がいい」
小学館の週刊誌『NEWSポストセブン』の編集会議。紙媒体の記事をネット向けに再編集しバズらせるのが自身に課せられたミッションだ。長年の知見を活かし、誌面に掲載された原稿を読みやすく手を加えたり、キャッチーなタイトルを付けたりし、ちなみに、1冊から50本ものネット記事を生み出す。
「『週刊ポスト』のメイン読者は50代後半から70代。ネットに記事として出す場合、10代後半に合わせる“チューニング”が必要だ。年金の話にしても、“皆さんも将来こうなりますよ”というニュアンスにタイトルを変える」。
オリジナルの記事を執筆するライターとしての顔も持つ。仕事場は雑然とした自宅。節約暮らしを貫いており、この日はスーパーで買ってきた牛タンを焼き、缶ビールを机に並べてPCに向かう。「1枚150円くらいだから1.5枚で約220円。それを22枚に切ったから、一切れ10円くらい。物書きがセレブっぽいことを書き始めたら終わり。俺はケチ臭い話しか書かない。そういうことを書いた方が共感される」。
中川氏の取材を受けたEXITのりんたろー。は、「僕らは年に何百という取材を受けるので、どれだけ真剣に、プライドを持って取り組んでいているかが分かってしまう。中川さんには、本当にプロの仕事を見たた。僕たちの顔を見ながら、汗びっちょりになりながら、バーッとPCを打つ。そして僕らが喋り終えた時点で、記事がほとんど完成している。これが月に40本も書ける理由だなと思った。こういう人と仕事ができて良かったなと思う」と明かす。
続いて向かった居酒屋では、旧知の編集者・漆原直行氏とネットメディアが果たす役割について語り合う。「コロナで何人死んだとか、どこの県で感染者が何人出たというニュースばかり。もうちょっとましな話を見せてくれと思う。わしらネットニュースの編集者は、そういう時にホッとできるニュースを出すことも考えた方がいい」。ネットだけでなく、マスメディアも不安な気持ちを煽るようなニュースばかりを伝える中、中川氏はそんな空気も逆手に取る。
例えば『NEWSポストセブン』に掲載された『ももクロ“お弁当は持って帰ります”現場。謙虚さが強み』。ももいろクローバーZの百田夏菜子がテレビ局から弁当を持ち帰ったことを報じた、至ってシンプルな記事。しかしこれが300万PVを超える大ヒットを記録した。「ほのぼのし過ぎ。“これだよ、俺たちが見たかったのは!”とみんなが思う。だからYahoo!ニュースさんも、トピックスに掲載して下さった。ネットニュースの編集者は、“世間の風”をどう読むかが大事だ」。
■「“ネット版BPO”のようなものが必要な時期に来ているのはないか」
まだまだ絶好調に見える中川氏だが、なぜセミリタイアを決断したのだろうか。一つ目の大きな理由は、自らを“ネット第一世代の老害”と呼び、世代交代するべきだと考えているからだという。EXITの兼近大樹は「自分のことを老害だと言える人は老害でないと言いたい」と話すが、「あと2年くらいしたら、間違いなく多くの人が“こいつ古臭いな”“偉そうに成功法則とか言っているが、あんたの時代ではない”と思うようになるだろう。それならウザがられる前にいなくなってしまった方が良い」。
そして二つ目の理由が、ネットニュースを取り巻く現状への憂いだ。多くの人がネットでニュースを見るようになった一方で、スキャンダルばかりを追い、過激な見出しなど読まれるためのテクニックばかりを洗練させて荒稼ぎするメディアが生まれてしまったのだ。中川氏は、その最たるものがコピペなどを多用するなどして作った、いわゆる「コタツ記事」(取材をせずに作り上げる記事)だと指摘する。
「枚数に限界がある新聞や雑誌は記事の量産ができないし、ファンしか買わない。ところがネットは無料だ。記事を量産しなければならないし、それができてしまう。誰かがテレビやラジオ、Twitterで言ったことをそのまま記事にしてしまえば、それで稼げてしまう。例えばTBS『サンデーモーニング』で張本勲氏が“喝”を入れ様子を放送中に記事してYahoo!ニュースにいち早く配信すれば、“勝ち”だ。しかも極端な論調、タイトルで書けば書くほど、シンパもアンチも両方来てくれて美味しい。それこそ学生バイトに1記事1000円で作らせた記事が100万円に化けるかもしれない、そんなおいしい仕事になっている。“ネット版BPO”のようなものが必要な時期に来ているのはないか」。
■「若い編集者やライターには面白い奴がいっぱいいる」
来月からは編集者の仕事を引き受けるのはやめて、ライターの仕事に専念するという。生活費は十分に稼ぐことができ、労働時間はこれまでの3割以下になる見通しだ。「自然と触れ合ってなかったので、まずやりたいことは、スッポンを捕まえて、クワガタ捕って、釣りをして、黄ニラを育てて。最後には生活保護もあるから何とかなるという考えでいいのではないかと思っている。自分もそのつもりだ」。
ネットニュース編集者としての15年を振り返り、「ネットニュースの地位向上のために頑張ってきた。でもネットがパワーを持ってしまって、人の人生を終わらせてしまうほど徹底的に追い込むようになってしまった。そこにいるのはきついなと思うようになった。俺も色々な人を不幸にしてきたことは認める。俺も悪い。俺にはできなかったが、若い世代には健全化させて、人を幸せにして欲しい」と話す中川市。
今後を託されることになる若い世代については「若い編集者やライターには面白い奴がいっぱいいる。写真の腕が確かだったり、行動力があったり、企画の立て方がきちんとしていたり。“ライター忘年会”というところに行ったところ、200人くらいの若いライターたちがいて、“負けた。彼らが発展させるだろう”と思った」と、しみじみと語った。
この日が最後の『ABEMA Prime』出演となった中川氏。そこにサプライズで現れたのは、あのももいろクローバーZの百田夏菜子。「傷つけちゃったんじゃないかと…」と恐縮する中川氏に、百田は「あのお弁当、実は2個目だったんです。その後、どこに行っても“お弁当を持ってる”って色んな人いじられて。ちょっと持ち帰りづらくなりましたけど、お弁当を入れる袋をもらったりもしました」と感謝。「セミリタイアお疲れさまでした」と、ソーシャルディスタンスを守って花束を渡していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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