安倍総理が辞任の理由の一つに挙げた潰瘍性大腸炎の悪化。症状は大腸の粘膜に炎症が起き、下痢や血便、持続的な腹痛が主であり、国による難病指定はされているものの、原因が完全には解明されていないなど、社会的には知られていない側面もある。
疾患理解のポイントについて、慢性的な消化器疾患の臨床研究を15年以上続けている明星大学准教授で臨床心理士の藤井靖氏に聞いた。
藤井氏は「病態が近い潰瘍性大腸炎とクローン病を合わせた炎症性腸疾患(IBD)は、相次いで有名人が発症を告白するなど、国内で20万人を超える患者がいるといわれている。しかし野党議員が『大事な時に体を壊す癖』と表現するなど誤解や偏見もあり、ストレスが悪化に関係することから、『メンタルが弱いのでは?』『気のせいでしょ』などと言われ、当事者が苦しむ事例も多い」とし、病態を理解する以下の3つのポイントを挙げた。
「一つは、生活の質(QOL)が下がること。高頻度な症状に『便意切迫』がある。腹痛に加え、便を漏らしそうになってしまう不安を抱えており、公式の場や会議体、長距離の移動など、すぐにはトイレに行けない場面の精神的・身体的負担は大きい。いつもトイレの場所を把握しておかないと不安という方も多く、日常生活に大きな影響がある。多くの人がお腹を壊した経験があると思うが、それが例えば毎日続いたときの辛さは、想像に難くない。
二つ目は、『周囲の無理解』が症状を悪化させること。症状に伴う辛さが共感的に理解されていなかったり、トイレに近い場所に自席を設けるなど生活や職場の中で配慮されるべきことがなされていないと、それが2次的なストレス負荷になり、症状が悪化することにつながる。何も特別扱いということではなく、適切な理解と、無理なく出来る配慮が必要ということ。周りの人の理解が進んだことで、症状が軽減する例も少なくない。
三つ目は、治療のゴールは症状が完全に無くなることとは限らないこと。潰瘍性大腸炎は病気として完全に解明されているわけではなく、そのため投薬を中心とした治療も対症療法が中心。慢性疾患でもあり、症状をゼロにするということではなく、症状をうまくコントロールして付き合っていくことを目指す場合が多い。なので、寛解といって、いわゆる完治という状態とは違うゴールがあることが理解されるべき」
加えて「外面的には病気であることが分からない疾患。一方で患者さんの中には、どうしてもトイレに行けない時間が長くなる場合は、紙おむつをして対策している場合もある。そのような中で,慢性疾患を抱えている場合、首相も含め、重要なポストを担うべきではないという意見もある。しかしどのような疾患、障害を抱えていようとも、ある人がそのポストで活躍できる資質があるなら、周囲がサポートしながら仕事をしてもらうというのが、社会のあるべき姿ではないか」とした。
最後に藤井氏は、「症状が長期化したり悪化すると、大腸がんのリスクが上がることを心配している患者さんが多い。人は、これまでにない大きな病気や症状の悪化を経験すると『これからの自分』についていろいろと考えることがある。総理といえど例外ではなく、安倍さんも今後の自分の人生や生活について、立ち止まって思いを巡らせたのかもしれない」としつつも、「今回辞任はするが、療養して症状が寛解すれば、ひょっとしたら年齢的には首相への再々登板もあるのでは」と独自の見解を述べた。
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