少しずつ奪われる視力、視野…“見えることが前提の社会”で悩む5万人の網膜色素変性症患者たち
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■交差点ではスマホで撮った写真で信号の色を確認

 「これって枯れてるのかな。色の違いがそんなに得意じゃないので」。自室の観葉植物を見ながらつぶやく森雄大さん(25)。日本人が失明する3大原因疾患で、日本に推定5万人の患者がいるとされている「網膜色素変性症」の当事者だ。

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 診断を受けたのは1歳の時。小学生時代はサッカークラブにも所属していたが、次第に友達との違いを感じるようになる。「他の人は当たり前にできることなのに、自分は苦労するなっていうのを感じるようになって…」。

 現在の視力は、左目が0.2、右目が0.02だが、極端な視野の狭さを生み出すのも、この病気の特徴だ。「私の場合、真ん中が見え、その周りがドーナツ状に見えなくて、その外側は見えているというような見え方」。授業では最前列に座っても、黒板の文字を読み取ることができなかった。

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 幸いにも病状が大きく進行することはなかったため、遠くのものを見る際に使う「単眼鏡」などを使い、大学に通うこともできた。現在は一般雇用で採用された企業の人事部で働いている。「チャットの会話もパソコンやiPhoneの音声読み上げ機能を使って理解している」。

 とはいえ、社会生活を送る上では困難も伴う。外出に同行させてもらうと、交差点で突然立ち止まり、スマートフォンの音声操作機能を使って風景を撮影する森さん。視線の先には、信号があった。「信号の場所がわからないので、まずは写真を撮って、それを拡大して場所を把握する。それで“青になっている”ということがわかれば、横断歩道を渡る」。

■「失明するかもしれないと思うと、とても辛かった」

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 「ぶっちゃけてしまうと、日常生活全てに困る。この社会は見えることが前提になっているので、どうしても自力ではできないこともある。最終的には他人に助けを求めること必要だ」。

 坂田優咲さん(23)は、4歳の頃に網膜色素変性症と診断された。「生まれた時から重度の夜盲症で、夜は“黒一色の世界”だった。幼い頃は、人は夜になると音だけで生活しているものだと思っていた」。しかし中学生になると視力が急激に低下。「もうじき失明するかもしれない、身の回りのことも介助してもらわなきゃいけなくなると考えると、とても辛かった」。

 見えていたものが見えなくなる、当たり前にできていたことができなくなっていく不安を抱えながら盲学校に進学。「まだ見えているのに、見えなくなった将来のために点字を勉強しないといけないのも辛かった。ただ高校2年になると、とうとう人の顔や文字が見えなくなり、卒業する頃には両眼ともに視力はゼロになってしまった」。

■音楽を通して人生を豊かにする方法を子どもたちに教えてあげたい

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 それでも一人暮らしをしながら東京音楽大学に学び、教師を目指す。大学側は、坂田さんのために視覚障害者用のPC、スキャナー、プリンター、作業スペースを確保。さらに点字に訳す際の費用負担をしてくれたという。「僕自身が驚いているが、“ここに点字ブロックを敷いてほしい”とお願いをすると、翌週には敷かれていた。また、2つのキャンパスの全室のドアに職員の方が手作業で点字を付けてくれた」。今は来月に発表される採用試験の結果を待つ。

 「視力を失っても、音・音楽は残ったので、すごく救われていた。むしろ視覚障害がなかったら音楽をやっていなかったと思うので、音楽を通して人生を豊かにする方法、術を子どもたちに教えてあげたい。ある意味では見えなくなってからは“第二の人生”だ。視力が残っていた頃は、日に日に見えなくなっていく恐怖があったが、見えなくなれば、トランプの大富豪みたいなもの。一度大貧民になってしまえば、あとは努力次第でできることが増えていく一方。むしろポジティブに物事を考えられるようになった」。

 症状の悪化とともに過ごした青春時代。一目惚れなどの経験もなく、声で判断するしかないという。「結婚はいつかいい人と巡り合えたら」。

■治験に困難も…いまだ治療法は確立せず

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 網膜色素変性症は遺伝子の異常によって光や色を認識する細胞の働きが弱まるために起こると考えられているが、確立された治療法はない。30年にわたって研究を続けてきた千葉大学医学部の山本修一教授は「治療薬は臨床研究として承認直前までは来ているが、この病気は2~3年経ってもほとんど症状が実は変わらないというくらいに非常にゆっくりと進行する人が多いので、本当に効いているのかどうか、その証明が難しい」と話す。

 日本網膜色素変性症協会の土井健太郎氏は「正面から入った光が、目の奥にある網膜で電気信号に変換され、神経を伝って脳に行くことで、“見る”ことができる。網膜で光信号を電気信号に変えてくれる主細胞のうち、弱い光を感知し、主に白黒で見せてくれる桿体細胞が遺伝子の異常のために弱くなり、死んでしまう。これにより、まず夜盲の症状が出てくる。理由はわからないが、次に色を見るための錐体細胞も道連れのように死んでしまうことがあるため視力が低下し、最悪の場合、失明に至ってしまう。また、この遺伝子の変異は100以上のパターンがあるため、病気の進行の度合いも個人によって異なってくる。100年以上前に見つかっているが、いまだに治療法は確立していない」と説明する。

■白杖を持って困っていそうな人には声がけを

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 アメリカでは光を取り戻すための装置の研究が進んでおり、特殊小型カメラを搭載したメガネの映像を電気信号に変換、網膜に埋め込んだ電極に届け、視神経を刺激し脳に伝達されることで視力が回復する人工網膜システム「ArgusII」(2013年に米国で認可)なども存在する。ただ、山本教授は「費用対効果が悪く、高額で限られた人しか助けることができないため、研究は停滞しがちだ。視力そのものの回復も大切だが、低コストでも身近な場面で大勢の視覚障害者を助けることが大切」と話す。

 また、iPS細胞から作ったシート状の網膜組織を『網膜色素変性症』の患者に移植するという再生医療の研究も期待される。土井氏は「ほぼ光を失ってしまった方のための再生医療だが、とても有望な研究だと思う。特に日本ではこの分野が進んでいるので、日本初の治療ができるといいなと思っている。ただ、やはり視力を上げるというところまでは技術が至っていない」とした。

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 実は土井氏自身、この病気の当事者だ。「私は3歳の頃に診断され、今では視力が0.025、視野は10度くらいまで狭まってしまったので、ほとんど目の前しか見えない感じだ。私も盲導犬と生活をしているが、外見上はわかりにくいと思う。視野が狭いだけの場合もあるので、電車に乗るまでは白杖を使っていたのに、乗った後はスマホを見るということもある。“この人どこが悪いの?”“何なんだよお前”となってしまう。目が悪い方は基本的に白杖を持って歩かないといけないことなっているので、困っていそうな方をみかけたら、“何かできませんか”と声をかけていただけると非常に嬉しい」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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