9月10日の『Road to ONE 3rd TOKYO FIGHT NIGHT』に向けた記者会見が8日に行なわれ、メインイベントで江藤公洋と対戦する青木真也が圧倒的な存在感を見せた。
ほとんどの選手がスーツ姿だったが、青木はTシャツにショーツ、スニーカーという出で立ち。各選手が意気込みを語る中、マイクが渡ると「はい、よろしく! 終わり!」。場になじもうとか自分を飾ろうという雰囲気がまるでない。
世間一般に届けたいものは何かという質問にも、青木らしく答えた。
「そもそも格闘技は世間に届いてるのかっていう。格闘技をメジャーにしたいなんていう人間は信用してないんで。何を伝えたいかっていったら、それは単純に“生きろ”というメッセージですよ。“お前はどうこの世の中と組み合って、ケンカするのか”。それがないと(格闘技は)運動が得意な人が取っ組み合ってるだけ。主義主張、思想信念を伝えたい」
自分の試合を誰に届けたいのかについても、青木は語った。
「ヒーローになりたいとか思ってないから。世の中の人は失敗することのほうが多い。コミュニティからあぶれたりね。僕は世の中からあぶれた人間の希望でありたい。順風満帆な人は見なくていいですよ」
日本を代表する総合格闘家、この会見では“総番長”とも表現された青木だが、そのキャリアの中で痛恨の敗戦を喫したことが何度もある。栄光も屈辱もすべて味わって、恥を晒して、その上で生き残り続けたのが今の青木真也だ。会見後の囲み取材でも、青木ならではの言葉が続いた。
「僕は“格闘技”をずっとやっていて。“格闘競技”をやってるわけじゃないから。みんな“格闘競技”じゃん。どっちが強い、どっちが勝った負けたをやりたいんでしょ。その温度差を感じるし。いろんな意味で“おつかれさま”っていう時期は近いのかなって。このコミュニティから俺が去るのか、それとも弾き出されるのか。いつやめてもいいと思ってるから、毎回勝負ですよね。
(試合は)全局面で勝負しますよ。相手にも辛いことをする、全局面で。勘違いされてるけど、僕は競り合ってきた人間じゃないですか。競り合って残ってきたからこそ今の立ち位置がある。辛いこと、競り合うことを15年間逃げずに続けてきたわけですよ。だからこそ自分がやってきたことへの自信もあるし。だから“お前らそんな簡単に青木って名前出せんのかよ”と思うわけですよ。
だってみんな逃げてんだもん。家族が大事だから、家族を食わせるために格闘技離れます? 体がもたないから、負けが込んだから格闘技離れます? そんなヤツばっかりだもん。そんなのが俺の名前出すのは違うでしょって。
俺は紆余曲折、格闘技のいい時も悪い時も、栄枯盛衰を一周してる(笑)。もう何週目って話じゃないですか。その俺にお前が対等にしゃべれんのかよって、そういう気持ちが強いなぁ。こういうのを老害っていうんだけど(笑)。
並みのヤツらは他の仕事やりますとか、ジムやりますとか、政治家やりますとか、都合よく変えるわけ。そういう意味で最後まで自分の可能性に向き合ったのは宇野(薫)とか北岡(悟)とか、川尻(達也)とか俺とかになっちゃう。川尻も北岡もさっさとやめろって毎日思ってるけど、凄く嫌いだけど、あいつらのやってることは凄いことだと思うし。対等というか、ちゃんと話ができる。競技レベルで言えば、もっと凄いところを見てる人はいますよ、那須川天心だったり堀口(恭司)さんだったり朝倉(兄弟)さんとかもそうかもしれない。ただ、さんざん自分の可能性すり減らして、使い切って、もう上がり目ないっすよねってとこまでやってるのはそんくらいしかいないでしょ」
青木にとっては毎試合が全人格、全人生をかけての闘いだ。だからおのずと話が「今回の試合」から離れて大きくなっていく。今回の相手に対してどう闘うかといえば「全局面で辛いことをする」のであり、闘いを通して見せるのは生き様にほかならない。
その人生、キャリアには、ここ数年でプロレスも加わった。8月27日にはとしまえんでの路上プロレスで「ロケット爆破」を食らい、9月10日にMMAマッチ、さらに9月27日には後楽園ホールでDDT EXTREME級王座の防衛戦が待っている。王者がルールを自由に決められるという特殊なタイトルマッチだ。
「8月9月という話以上に、僕は小川直也とやらせてもらったりとか田中将斗とやらせてもらったり、あとは竹下(幸之介)ですよね。秋山(準)さんとか藤田(和之)さんも(ケンドー)カシンもそう。桜庭(和志)さんも。ありとあらゆる業界の先人たちと向き合って、やっぱり尊敬ですよね。この人はここまで自分の可能性を使い切ってやってるんだって。プロレスをやることが、僕の“格闘技”の厚みを確実に作ってますよね。強さって凄い曖昧だと思うんですよ、人によって違うから。ただ僕の定義する強さは“幅”。それは増してると思います」
MMAも“目隠し乳隠しデスマッチ”も青木真也の闘いだ。9月10日も、青木真也ならではの“幅”を感じたい。
文/橋本宗洋