「俺がやっているのは“格闘技”であって“格闘競技”じゃない」
青木真也はそう言う。試合の勝ち負けだけでなく、言葉も含めすべてが自分の“表現”なのだとも。
9月10日、渋谷O-EASTで開催された『Road to ONE 3rd:TOKYO FIGHT NIGHT』のメインイベントは、まさに青木真也にしかできない“表現”だった。
緊急事態宣言下の4月、グラップリングマッチに出場した青木は「MMAの試合がしたい」と熱望。今回の大会自体がその思いを受けて実現したという面もある。対戦したのは“レスリング・モンスター”江藤公洋。もともと青木有利の下馬評だったが、実際の試合は“完封”と言える内容だった。
1ラウンドから3ラウンドまですべてのラウンドでテイクダウンし、バックを奪って圧倒。一本勝ちにはならなかったが、主導権を譲らず判定勝ちを収めた。そして試合後、マイクを握る。ここからが“青木真也という表現”の真骨頂だった。
「フタあけてみりゃな、フタあけてみりゃな、フタあけてみりゃな! ここまでの貧乏クジ引かされるとは思ってなかったよ! おい! おい! おい! この混乱はどうやら自分自身の人生の反映のようだ。これからも混乱はどんどん起きていくだろう。でも今なら言える、人生は祭りだ、ともに生きよう。
あと日本の格闘技盛り上げるって言うんだったら、日本の格闘技盛り上げるって言うんだったら! 日本の格闘技盛り上げるって言うんだったら! 俺がここで試合をしてるのがおかしいって分かるだろ! おい、俺が試合したいのは、俺が試合したいのは、俺が試合したいのは! 5年ぶりに、5年ぶりに、5年ぶりに、さいたまスーパーアリーナで試合がしてえんだよ! この意味分かるか! 青木真也が存在かけて、人生かけて思いを伝えてんだよ。関係者、偉そうに格闘技盛り上げるっていうんだったら、このカード実現してみろよ!」
マイクを叩きつけ、波紋と刺激と余韻を残して控室に引き上げたばかりの青木を直撃した。まずは「貧乏クジ」という言葉について。
「いい仕事が回ってこないというか、作りたいものとの乖離があるなと。正直もっと攻防をぶつけ合う試合がしたかった」
江藤がしゃにむに反撃してくれば“攻防”のある試合になった。そういう思いが青木にはある。まったく反撃できないほどに青木が試合を支配していたとも言えるのだが「じゃあ(その程度なら)試合すんなって(苦笑)。顔じゃねえよ」。
青木は青木で、強引にフィニッシュにいこうとはしていなかった。万が一にもミスをしない、隙を作らない。そういう闘い方だ。観客がどれだけ期待しても、リスクを背負って強引に仕留めにいくのは“青木真也の格闘技”ではない。
「そう、ないんだよねぇ。究極の勝負論の人なんだよね、やっぱり(笑)。“お前がこないんだったらそれでもいいよ、このままやるよ”って。3ラウンドは流していいんだよってなる」
もちろんここは賛否両論だろう。ただ青木は常にそういうファイターで、今回も青木真也としての闘いを貫いたのは間違いない。
ちなみにペットボトルの水を持ち「おい! おい! おい!」と3回繰り返すマイクアピールのスタイルは、8月に爆破マッチで対戦した大仁田厚ばり。青木は“邪道”をも体内に取り込んだのか。
「結局さ、大仁田、藤田(和之)、(ケンドー)カシンなんだよねぇ」
MMAの試合後でもサラっとそういう言葉が出てくるのが青木だ。そして肝心の「さいたまスーパーアリーナ」発言。RIZIN出陣宣言と取れるが、その真意はどこにあるのか。青木はアッサリ答えた。
「あれは見出し用! 話題作らないとね。一番インターネットがザワザワする言葉でしょ」
その一方で、10月に試合をしてもいいという気持ちもある。
「選手はみんな10月にシンガポールで(ONEの本大会を)やるの待ってるんでしょ。じゃあ俺が“ダメージないんで10月も出ます”って言って使われなかったら嘘ですよね。理屈が合わないでしょ」
それだけ自分はONEを背負っている、自分がいなければONEの日本勢は成り立たないという自負が青木にはある。となるとやはり「さいたまスーパーアリーナ参戦」はあり得ないのか。
「まあ、いい見出しになれば。でも分かんないから、格闘技なんて。10月(ONE)やって、それからさいたまで“青木vs朝倉やる”って(機運に)なったら行きますよ。“ありがとうございます!”ですよ」
デビュー17年、37歳にして9月、10月、12月の連戦も“あり”。それだけコンディションがいいのだと青木は言う。
「安生(洋二)戦の時の長州力くらいコンディションいいんで、今」
伝わる人間には確実に伝わる、伝わらない人間にはまったく意味が分からないワードをチョイスした青木は、取材が終わるとさっそくスマホを取り出して言ったのだった。
「さあ、じゃあこれから趣味のエゴサーチに入ります」
徹底した勝負師であり、同時に煮ても焼いても食えない男。それが青木真也だ。
文/橋本宗洋