GKなのにドリブルをしまくる衝撃的な光景、さらに果敢なサイド突破で相手陣内に進入し、“あわや”アシストかと思わせる好プレーの連続がネット上で「あり得ない!」「ハラハラしちゃう…」など反響を呼んでいる。
世界最高峰のサッカーシーンでは「足元のうまいGK」がトレンドだ。マヌエル・ノイアー、テア・シュテーゲン、エデルソン・モラレス。世界No.1の強さを誇るバイエルン・ミュンヘンや、バルセロナ、マンチェスター・シティのGKたちはみな、まるでフィールドプレーヤーのようなキック技術を誇っている。
一方、そんな超一流選手でも、ドリブル突破で相手陣内に進入することはあり得ない。なぜなら、それは単純にGKのプレーする範疇を超えているからだ。GKの仕事の第一義は、ゴールを守ることなのだ。
だが、フットサルの世界にはドリブルをしまくるGKが存在する。立川・府中アスレティックFCに所属する黒本ギレルメがまさにそう。彼はサッカーではあり得ないプレーを連発して観客を魅了している。
■ゴールをガラ空きにするのは今に始まったことではない
20日、フウガドールすみだとの対戦で、黒本は相手のカウンターを前に飛び出してカットすると、そのまま右サイドを相手陣内へと持ち上がり、見事なアウトサイドキックでフリーの味方へとラストパス。シュートは相手GKに阻まれたが、決まっていれば黒本のアシストがつく決定機だった。
「え、あり得ないんだけど!」「ハラハラしちゃう…」
GKがドリブルでサイド突破するシーンを見て、ABEMAのコメント欄にはそんな言葉が踊った。それもそのはず、フットサルを初めて見るような観客にとって、もはやそれは衝撃映像でしかないだろう。
一方で、フットサルファンの間で黒本のドリブル突破が市民権を得ているのも事実だ。
「クロが得意なやつ」「ドリブル自主練しているの見たことあるよ」
そう、彼が自陣のゴールをガラ空きにするのは、今に始まったことではないのだ。
イタリア国籍を持つ彼が来日したのは2013年。湘南ベルマーレに加入した当時、シュートキャッチしてそのまま華麗なドリブル突破をした際には、相手選手もファンも、見る者はみな度肝を抜かれた。
もともと、小学生年代までサッカーのフィールドプレーヤーだった黒本は、GKに転向してからもセービングと共に足元の技術に磨きをかけ、イタリア代表にまで上り詰めた。日本ではまだ「GKのドリブル突破」を受け入れる土壌が育っていなかったが、2015年に加入した立川・府中は、彼に攻撃と守備の両方のタスクを与え、黒本はその期待に応えた。今では「黒本のドリブル突破」がチームカラーの一つでもある。
今年5月、念願かなって日本人への帰化申請が認められ、登録名は以前の「クロモト」から「黒本ギレルメ」に変更された。得意の日本語で「今までよりもっと楽しんでいきたい」と喜びを語る彼へのファンは多く、「憧れの選手はクロモト」と、彼を目指す育成年代の選手が何人もいるのだ。
GKがドリブル突破する衝撃映像は、彼の専売特許。立川・府中の守護神・黒本は、ファンや視聴者、チームメート、子どもたち、すべての人に愛される、インパクト絶大の最高の選手なのだ。
文/本田好伸(SAL編集部)
写真/高橋学