中嶋勝彦がノアマットをかき回している。もともと実力者として知られていたが、ここにきて立ち位置を大きく変えたのだ。8月の川崎大会、名タッグ・AXIZのパートナーである潮崎豪を裏切って反体制ユニット・金剛加入を宣言。観客に悲鳴をあげさせた。
キックの使い手である中嶋だが、今年は鈴木秀樹戦、桜庭和志とのタッグ対決でグラウンドでの力量も見せている。杉浦貴からGHCナショナル王座を奪った無観客試合も名勝負として高く評価された。そんなトップレスラーの“裏切り”はインパクトが大きすぎた。
金剛入りした直後に始まったシングルリーグ戦「N-1 VICTORY」で、その勢いと“黒い輝き”はさらに増すことになった。開幕戦で拳王との金剛対決を制し、9月23日の後楽園ホール昼夜興行では公式戦のダブルヘッダー。昼大会で谷口周平に足下をすくわれたが、夜は杉浦貴に拳の雨を浴びせて勝利。「昼は調子悪かったけど、安心してくれ。夜には調子戻ったから」と不敵に笑ってみせた。
トップタイの得点でリーグ最終公式戦、10.4後楽園ホール大会を迎えた中嶋。対戦相手の丸藤正道も決勝進出の可能性を残しており、予想通り試合は熱戦に。丸藤の多彩な腕攻め、トラースキックと虎王(ヒザ蹴り)のコンビネーションに苦しんだ中嶋だったが、容赦のない蹴りで何度も形勢逆転に成功する。顔面を蹴り上げると、最後はダイヤモンドボムで3カウント。文句なしの決勝進出を決めた。
(丸藤をコーナーに固定し「シャッターチャンス」を演出する中嶋)
インタビュースペースでは、取材陣から試合の感想を求められ「まず“おめでとうございます”だろ? 」とダメ出し。このあたりも中嶋の“らしさ”だ。
丸藤の闘いぶりについて「これまでノアを背負ってきた熱い気持ち、伝わってきただろ」としながらも、続けて「そんなことはどうでもいい」。そして「Bブロック、フタをあけてみたら俺の完勝といったところじゃないか」と余裕のコメント。
メインイベントで清宮海斗が潮崎を下し、決勝進出を決めると中嶋もリングに。「なんだこのザマは。出戻りチャンピオンはここまでだな」と潮崎をこき下ろすと、新世代の雄・清宮には「お前のヒーローごっこは終わりだ」。
止まるところを知らない鋭い舌鋒は、10.11大阪大会の決勝戦後も放たれるのか。ファンの心を戸惑わせつつ、中嶋は着々とノアの頂点に向かっている。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア