「再チャレンジはない。負けたら政治家として“結論”出す」大阪府・吉村知事が1時間にわたり訴え 迫る大阪都構想の住民投票
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 「大阪都構想」の是非を問う二度目の住民投票が来月1日に実施される。5日の『ABEMA Prime』に、大阪市の松井一郎市長とともに構想を推し進めてきた大阪府の吉村洋文知事が生出演。約1時間にわたり、その意義を訴えた。「大阪都」が実現することで何が変わるのか。弊害は無いのか。そして勝算はー。

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■「東京では1943年に二重行政を解消した」

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 先月26日に開かれた住民説明会で「大阪全体の司令塔というものがなかった。市と府が別々にやっているような状況では、大阪市域も含めた全体が成長するわけがない」と訴えていた吉村知事。現状では市と府が同じような権限を持っているため、施設やインフラの整備などが重複。効率の悪さや開発の遅れが問題視されてきた。

 吉村知事は「日本の大都市制度には政令指定都市制度と都区制度という二種類しかないが、政令指定都市では二重行政が酷くなりすぎる。福岡市や仙台市なども政令指定都市ではないかと言われるが、大阪の場合、東京同様、中心エリアから周辺に向かって都市の集積性が広がっているという特徴がある。しかも大阪市の面積は東京23区や京都市の3分の1くらい、横浜市や神戸市の半分くらいしかなく、大阪府も都道府県で2番目に小さい。そこに巨大な行政体が2つあることで“不幸せ(府・市合わせ)”と言われるくらい二重行政が起きやすかった。しかも全体の方向性を決めるトップがいないため、それぞれが別の方向を向きやすい」と指摘。

 「今は僕と松井市長、その前は橋下市長と松井知事という“人間関係”で連携することができているが、このままでは極めて脆弱だ。そこを制度として整えましょうという話だ。そして住民の皆に身近な区長を選んでもらい、住民サービスを充実させていく」。

■識者“効果が薄い上に多額のコストも”

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 この二重行政を解消する手段として、現行の大阪市を廃止し、4つの特別行政区に再編。権限の分担と行政の効率化を目指すというのが大阪都構想の中核だ。吉村知事と共に実現を目指す松井市長は「全国政令市と都道府県の関係というのはどこも仲が悪い」「(府と市が)同じ権限を持つから意見が合わずに対立してしまう。制度として大きな仕事は大阪府が担って、皆さんの身近な仕事は特別区が担う。権限が違えば対立はしない」と説明している。

 他方、大阪都構想に複数の課題もあると指摘する識者からは、二重行政の解消効果は薄く、むしろ多額のコストがかかるとの意見も出ている。

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 吉村知事は「効果はゼロだと言う反対派の方もおられるが、我々はそうは思わない。“バブルの失敗”とも言えるが、例えば市が256mのWTCビルを建てると、府は256.1mのりんくうゲートタワービルを建てた。高さを競い合うなど普通はあり得ないのに、そこに合計2000億円も使ってしまった。また、コストについても反対派の方からは250億円くらいかかると指摘されている。しかし、市と府の年間予算は合計9兆円規模だ。そのくらいの大都市の改革なので、ある意味では投資として成り立つだろうし、デメリットとまでは言えないのではないか。どうしても金額の話になると“神学論争”になってしまうが、比較すべきは二重行政が残った場合とそうでない場合の成長の可能性だと思う。二重行政による無駄遣いがあったことは間違いないわけだし、成長戦略を決める意思決定ができなかった仕組みを改め、成長の可能性のある方に第一歩を踏み出すべきではないのかというのが僕の考え方だ」と回答。

 その上で、吉村知事は「大阪だけの話のように聞こえるかもしれないが、東京の皆さんも同じ経験をしてきている」と話す。「都区制度を採用している東京も、かつて東京府と東京市の二重行政を何とかしなければならないということで1943年に東京都に改めた。特別区の区長は選挙で選ばれるし、千代田区のように人口は少ないが法人税収が多い区と、そうでないエリアもある。そこで東京都が大都市としての一体性を保つために区間の財政の調整をするなどの役割を担っている。そのようにしなければ、大都市としての成長も難しい」。

■「医薬品やライフサイエンスに注力」

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 大阪市に近い箕面市出身のジャーナリスト・堀潤氏は「箕面市長は都構想に賛成の立場を取ってきたが、やはり周辺への影響は大きいと思う。東京23区の話が出たが、区の間での経済格差が広がっていった面もあると思う」と指摘。「今回のコロナによって、インバウンド需要などは再考しなければならなくなったのではないか。産業構造の変化をどう考えるのか」と尋ねた。

 吉村知事は「前回の住民投票では5区にするという制度計画だったが、今回4区にしたのは、それぞれに都心となるエリアを設定していこうという目的があるからだ。淀川区には将来リニアや北陸新幹線が入ってくる新大阪や、2025年の万博や統合型リゾートIRを誘致しようとしているベイエリアの夢洲がある。同様に、北区は梅田、中央区は難波、天王寺はあべのハルカスがある阿倍野と、それぞれに拠点を置き、バランスを取ろうとしている。もちろん税収格差や発展の違いも出てくると思うので、そこは財政調整制度も設計してある。確かに東京23区には様々な差が生じているが、住民サービスには差があまりないと思う。そこは東京都が財政調整をしているからではないか」と説明。

 「大阪は製造業も強いが、医薬品やライフサイエンスにも強みがある。万博のテーマも“いのち輝く未来社会のデザイン”だし、力を入れていきたいと思っている。確かに今はインバウンドがないが、コロナが未来永劫続くわけではないし、“収束後に行きたい国”で人気が高いのは日本だし、都市でいえば大阪は人気が高い。感染症対策をしながら、開けた都市づくりもやっていかなければならない」。

■「“身を切る改革”はあっても、“弱者切り捨て”はない」

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 また、大阪での事業に投資していく予定だというリディラバ代表の安部敏樹氏は「仮に都構想が形になった場合、委任された維新は信頼に答えられるよう責任を果たしてほしいし、僕としてもリスクを取って攻めていって欲しい。ただ、関西にいる祖母は“維新に票を入れたら、シニア向けのバス乗車券が無くなる、そんなんあかんわ”と言っていた。つまり都構想の一方では“弱者切り捨て”みたいなことが起きるのではないかと懸念している人たちがいるということだ」と指摘する。

 「例えば大阪維新の会が公衆衛生分野の予算を削ったと言われる中、特別区でおじいちゃん・おばあちゃんの地域医療はどうなるのか。コロナでも注目された保健所についても予算確保や非正規の人材を正規にしていくなど、攻めだけでなく、守りの部分の具体策も欲しいところだ」。

 これについて吉村知事は「“身を切る改革”は出てくるが、我々に“弱者切り捨て”という発想はない。この5年の間、様々な支援を必要としている方への住民サービスはかなり増やしてきたし、財源についても弁護士会や医師会など特定の業界・団体への補助金を少し引き上げさせてもらい、本当に支援を必要としている人、政治から遠い人にお金を回すようにしてきた」と説明。

 保健所についても「減らしていこう、集約させていこうという国レベルでの大きな流れがあったので、維新の会が保健所を減らしたというわけではないし、現状、大阪市に保健所は1カ所しかないが、特別区になればそれぞれの区が持つことになるので、4カ所になる。この財源についてはそれぞれの特別区が確保して動かしていくということになるが、コロナ対策では大阪市が大阪府とは別に病院や衛生研究所という検査機関も持っていたことで、市と府がバラバラになってしまった。松井さんと大号令をかけて府に全情報が集まるように“三角のピラミッド”を作った。都構想の実現後も、この“三角のピラミッド”は意識していきたい」とした。

■「デマや不安も広がる。最後の最後まで説明を尽くしていきたい」

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 2015年の住民投票では、わずか1%の差で否決された都構想。最新の世論調査(共同通信社)では、賛成が49.2%に対し反対が39.6%となっている一方、府・市の説明が「十分でない」と答えた人は71.8%に上っている。

 「“僅か1%で負けた”といわれるが、政治の世界にいる我々としては、差が1%であっても負ける時には負ける理由があるのだと思うし、勝つ時には勝つ理由があるのだと思う。それは肌で感じている。賛成と反対の差が5%くらいになってきているが、それはこの5年間、前回の案をバージョンアップさせてきたし、説明不足だった部分についても一定程度の理解が広がったと思う。府と市の二重行政のままがいいという方も、かなり少ないのではないか。ただ、新しいことに挑戦するというのは、現状を変更するということにも繋がる。前回同様、“住民サービスが下がる”といったデマも流れるし、投票日が近づくほど不安を煽られて反対が増えてくる。やはり非常に厳しい住民投票になるだろう。ビラの数を増やしたり、リモートでの説明会を実施したり、あらゆる媒体を通じ、最後の最後まで説明を尽くしていきたい」。

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 また、府議会や市議会での衝突についても、「参議院の定数削減の問題でもそうだったが、自民党が大事なのは自分たち席(籍)や身分だ。結局は“地方の豪族”というか、身分の問題になると強烈な権力、強みを発揮してくる。都構想が実現すれば、市議会議員は区議会議員に身分が変わる。政治家にとって、身分が変わるというのは絶対に避けたいこと。しかし維新の会はそういうところからは一歩引いているので、自民党とはガチンコでぶつかり合う。これを乗り越えなければ制度改革や地方分権は実現できないし、逆に言えば、これが大阪で実現できれば他の都市での突破口にもなると思う」とも話した。

■もしも負けたら…「再チャレンジはしない。無理だ」

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 カンニング竹山は「5年前の住民投票では、負けた橋下市長は辞任を選んだ。今回も否決されたとしたら、松井さんや吉村さんはどうするのか」と投げかけた。

 すると吉村知事は「再チャレンジはしない。無理だ」とキッパリ。

 「国でいえば憲法改正のようなことを大阪ではやっているということ。憲法改正を掲げてきた自民党も、なかなか国民投票まではたどり着かない。腹を括り、政治的に死ぬ覚悟でやらなければ無理だ。僕もこの5年間、“アホ”“ボケ”“カス”と言われながらも松井さんや維新の仲間たちと一緒にやってきた。刺すか刺されるかの選挙もやって、ここまで辿り着くのに精神力、胆力、いろいろな面で大変な思いをしてきた。そして決定権者である皆さんに投票いただくところまで来た。これで“バツ”と言われ、壁を乗り越えられないのなら、もう僕はやるつもりはない。大阪維新の会としても、再度の住民投票は難しいと思う。松井さんは政治を引退するとおっしゃっているが。僕は住民投票に身分は絡めるべきだと思わないので“引退”という言い方はしていない。それでも飯を食うために政治家をやりたいわけではないので、一つの結論は出るのかなと思う」。

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 また、「約束したことは実行しなければならないし、ストレスも大きいが、市長の時に取り組んだ待機児童問題など、非常に大きなやりがいも感じてきた。僕はもともとできた人間ではないが、やはり大阪で生まれ育ったので、公選職でいる限りは大阪に尽くそうと思っている。そうでなくなったら、自由奔放に生きていきたい(笑)」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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