自ら命を絶ったとみられる著名人をめぐる報道について、政府がWHOのガイドラインの遵守を繰り返し呼びかけている。その結果、メディアが相談窓口の電話番号などを掲載するようになっているが、「1人あたり30分~40分以上電話しているため電話がつながらないという声が尽きない」(関係者)といった声も上がっている。
・【映像】自殺を防ぐ最後の砦?"いのちの電話"鳴り止まない実態と全ての電話を取れない現実も
特に紹介される機会が多く、全国に拠点を持つ「いのちの電話」の場合、相談員はボランティア、運営費も寄付や助成金に頼らざるを得ないため、慢性的な人手不足に悩んでいるが、規模を拡大する余裕はない。
「35年前の設立当初から本当に多くの電話がかかってきて、かかりにくい状態が続いている。2年前の調査では着信率5%、20回かけて1回繋がるという、申し訳ないような数字が出てしまっている」。
そう話すのは、「名古屋いのちの電話」の加藤明宏事務局長だ。昨年1年間の相談件数は13,577件に上ったが、対応する相談員はおよそ100人という体制だ。コロナ禍の前までは24時間・年中無休だったが、現在は朝8時~夜10時まで、1日あたり7~8人で対応にあたっている。
そんな「名古屋いのちの電話」の運営費は、8割が寄付金で賄われている。
「コロナで業績に影響の出た企業からの寄付額が少し減ったこともあるし、逆に“こういう時だから、寄付するわ”という申し出もいただいている。多少の浮き沈みはあるものの、毎年、企業・個人の方から千数百万という支援をいただけているというのは大変ありがたいことだし、私が言うのもなんだが、一つのステイタスになっていると思う」。
加藤さんたちが最も頭を悩ませているのが、やはり人材の確保だ。「相談員を増やす努力はしているが、あと50人くらい確保できれば深夜帯も含めてうまく回っていく。さらに、それが200人になれば、もう少し余裕を持った運営ができるのかなと思う」。
しかし前述のとおり相談員はボランティアで、しかも自費による研修を終えなければ、相談を受けることはできないのだという。
「相談員になりたいという方は、もちろん社会の役に立ちたいという思いをお持ちだ。ただ、私どもとしては質も担保したい。一般の方からすると“長いな”とか“自己負担なのか”と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、そこを一つのハードルにしている。まずはファシリテーションスキルとともに傾聴スキルを伸ばしてもらう。やはり、かけてくる方は切羽詰まった状況にあると思うので、いい加減な対応をすることはできない。また、アドバイスや指示をするのではなく、ご自身で次の一歩を踏み出せるような、しっかりとした聴き方をするという姿勢で続けている。だから実習として指導者が隣にいる状態で一緒に電話を取ることはあっても、研修を終了して認定されるまでは、基本的に1人で電話を取ることはない」。
厳しい運営状況の中、あくまでもボランティアにこだわる理由は何なのだろうか。加藤さんは、それが「いのちの電話のあり方ではないか」と説明する。「カウンセラーなどが専門的な知識を持って業務を行う場合、やはり相談者のところに介入をすることになる。ただ、それはいのちの電話の本来のあり方ではないと考えている。だからこそ、報酬も今は全くゼロだし、交通費も相談員ご自身がお支払いになっている。相談員の皆さんには仲間意識があるし、人生が豊かになっていると私は感じている。それが35年も続いてきたことのベースにあるのではと思う」と話した。
その上で、当面の課題として電話回線の増設ができればと説明する。また、「悩みの深い方の電話が長くなるのは当たり前だが、中には“ただ人に話を聴いてほしい”という方もいる。もちろんそれを拒否することはできないが、すぐにまたかけてこられる方については少しご遠慮いただくような仕組みも必要だと考えている」。
■オンライン相談との“役割分担”
一方、特に若者を念頭に今年3月に開設されたのが、完全チャット対応の相談窓口『あなたのいばしょ』だ。
現役の慶大生で、NPO「あなたのいばしょ」の代表を務める大空幸星さんが始めたのは、200人を超えるリモート相談員が自宅から返信できる環境を作り、相談者がいつ相談メールを出しても回答できるオンライン相談だ。運営団体「あなたのいばしょ」の代表を務める大空幸星さんが始めた取り組みだ。大空さん自身、過去に悩みを抱え、周囲の人に助けられた経験を持つ。
ただ、『あなたのいばしょ』も相談員はボランティアだが、精神科医や臨床心理士も含まれているという。また、運営費はメンバーの負担と寄付で賄っている。「僕も奨学金をいただいているしがない大学生なので、アルバイトをしたりして、一時期は自己負担していた。今は事務局の他のメンバーも出してくれているし、寄付金も徐々に集まってきてはいるので、なんとか運営できている」。
24時間の対応を可能にしているのが、海外在住の相談員の存在だ。オンラインによる研修と、アドバイザーによるサポートを行っているといい、「最も相談の多いのが夜の日本時間の10時から朝の5時にかけてだが、自殺が多い時間帯もこの時間帯だという。そこで時差を利用し、欧米に住む日本人ボランティアに回してもらっている」と話す。
現在、1日200件を超える相談が届いているといい、目下の課題は応答率(1時間以内の返信)の低下だという。「相談が増加傾向にあり、残念ながら毎月下がってきてしまっている。現在は平均応答率が60%くらいだが、残りの40%に関しても、最長でも1週間以内には返すということでやっている。お待たせするかもしれないが、必ず返信するようにしたい」。
メール、チャットの利点は、事前に相談内容を把握しやすいことだという。「電話のように、“取らないと分からない”ということはない。そこで例えば自殺、虐待、DVいった単語の含まれるものは緊急性が高いと判断し、優先度を上げて対応することが可能になる。また、基本的には担当者が付くが、他の担当者が引き継いでも、過去のログで相談内容や対応が確認できるし、相談者にとっても自分の気持ちを書き出すことで、後でその内容を見返すこともできるのも大きな利点だと思う」。
それでも大空さんは「チャット相談が拡大していったとしても、電話相談は無くならない。若者の中にも電話をしたいという方もいらっしゃるので、役割分担をすることが大事だと思う」と指摘した。
大空さんの取り組みについて、加藤さんは「大変若者らしく、すばらしいなと思うし、いのちの電話ではできないこともあると思った。様々な窓口があっていい」とコメント。「相談窓口の電話番号や“いのちの電話”という言葉を広報していただけることは大変ありがたいし、1人で思い悩むことなく相談してほしいと思っている。しかし繋がりにくくなっている現実がある以上、様々な解決方法があるということが伝わればいいと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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