この秋から冬にかけて、プロレスリング・ノアがビッグマッチ攻勢をかける。リーグ戦「N-1 VICTORY」決勝戦は10月11日にエディオンアリーナ大阪第1競技場で開催。11月22日には初進出となる横浜武道館大会、さらに12月6日の代々木第2体育館大会も新たに発表された。代々木第2での開催はじつに16年ぶりとなる。
現役のトップ選手であり、運営会社サイバーファイトの副社長を務める丸藤正道は、N-1リーグ戦で最終戦まで決勝進出を争う充実した闘いを披露。決勝進出はならなかったが、逆にそのことが今のノアのレベルを表しているとも言える。10.4後楽園ホール大会直後のインタビューで、丸藤はこう語った。
「N-1は厳選されたメンバーというのもあって、過去にないほど横一線の闘いだったと思います。ちょっと前までは杉浦、丸藤がいて、その下に何人かいい選手がいるという形だったんですけど、今は誰が誰に勝ってもおかしくない。それはいいリーグ戦になりますよね、やってる方はきついですけど(笑)」
10.4後楽園のリーグ公式戦最終試合を前に、決勝進出の可能性を残していたのはAブロックが6人中3人、Bブロックは4人。それだけ層が厚いのだ。
「リーグ戦に出ていたメンバー、それぞれの勝ち負けは別としてみんな俺より強いですよ。俺はどうにかこうにか、うまいこと勝利につなげているだけでね。みんなそれぞれの強さがあるし、ここからまだまだ変われる選手がたくさんいる」
現在のノアの陣容について、丸藤は自信を隠さない。だが「ここから2、3年でまた変わっていくし、新しい選手も出てくると思います」とも。
「これから若い人間が入ってきて、若手、中堅、ベテランのバランスがもっと出てくればと思いますね。昔の全日本もそうだったじゃないですか。特に若い選手の成長は重要です。今いる稲村(愛輝)たちもどんどん伸びると思うし、そこに大型の新人が入ってくるとさらにいいなと。これから新人オーディションもありますし、今チャンスだと思いますよ。プロレスラーとして成功したい気持ちがある人には、ノアが一番おすすめ。未来しかないですから。ここ数年、そういうことが言えなかったんですけど、今は言えます。その中から、清宮(海斗)みたいな選手が出てくるかもしれない」
ノアは今年に入ってサイバーエージェントグループ入り。9月からは同じグループのDDTと事業統合を果たした。そんな重要な節目の年(旗揚げ20周年でもある)にコロナ禍に見舞われてしまったわけだが、丸藤はあくまでプラス志向だ。
「コロナ禍もありましたけど、逆にプロレスが新たに注目を浴びたんじゃないかという感じがしますね。コロナの中でプロレスはどうしていくのか、と。ABEMAさんと一緒に新しい試みもできて、すべてがマイナスだったわけじゃないし、プラスも意外に多いんじゃないかなと。
たとえば無観客試合ですよね。やるやらないはそれぞれの団体の考えですけど、我々はルールを守った中でやってきた。結果的に感染者を出さずにね。無観客でもABEMAでの中継で何万人という人が見てくれるし気にしてくれる。それは非常に大きなことだなと思います。
その上で、ここからが新たな課題だと思っています。生中継で満足する人もいると思うんですが、中継を見た人が会場に来たくなるような形を作っていかなきゃいけない。画面越しで満足されたら意味がないんで。どうしたら会場に来たくなるのか。そのための活動をしっかりやっていけば、東京ドームを埋めるのも夢じゃないと思います」
“自粛明け”後も後楽園大会のペースを落としていないノア。大阪、横浜、代々木に続き、来年もビッグマッチは増えていきそうだという。その攻めの姿勢も、今のノアの魅力だ。
「身の丈を知るのも大事だし、会場の規模を小さくしてコツコツとお客さんを入れていこうというのも大事。でもそれをやりすぎてしまうと、大きいところにたどり着けなくなってしまうかもしれない。選手のモチベーションも含めてね。志を高く持っていないと団体が小さくなってしまうんじゃないかと思うんですよ。我々が目指すところはあくまでてっぺん、一番なので。ノアのイメージをどんどん大きくしていきたい」
もちろん、選手個人としても丸藤は「てっぺん」を目指す。
「もう一丁、てっぺんを目指さないと。まだ後ろには下がれないですね。しっかり俺の時代というか、そういうものを作ってあげることも若い子たちには必要なのかなと。それもノアのため、ですね。個人の野望だけだったら、変な話ノアを出ていろんなとこ行って、自分のスキルをアップさせることを選んでいたと思います。でも僕はそこにまったく興味がないんですよ。ノアにしか興味がないし、他と比べる必要もない。ここの技術が一番だと思ってますからね。ノアのリングでしっかり結果を残したい」
ABEMAと組んでの、丸藤に関する新たなYouTube企画も進んでいるそうだ。
「今までやったことがない企画ですけど、ある意味、俺のキャラクターだからできる仕事でもあるのかなと。いろんな方向から興味を持ってもらえたらいいし、他の選手もいろいろやればいいと思いますよ。もっともっと見てもらわないと」
自分は副社長だが、あくまでいちプロレスラー、それが大前提だと丸藤は言う。ただ“プロレスラー・丸藤正道”が常に団体のことを考えて行動しているのも間違いない。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア