先月4日夜、東京都新宿区からタクシーに乗り込んだ物静かな男が、人気の少ない江東区青海付近で停車を要求すると突然、タクシー強盗に豹変した。
「電気消せよ」「ライト消せよ 早く」「いいからエンジン切れオラ」
後部座席から身を乗り出すようにして運転手に凄んだ男は、右手に持っていた刃物を運転手の首元に突きつけると、「ポケットに入っているもの全部出せ」などと要求。運転手が「ないんですよ 釣り銭も」と応じると「動くなよ」と声を荒げ、ガムテープで運転手を縛り上げて降車させ、運転手の所持金約6000円と売上金含めおよそ2万円を奪い、タクシーを運転して逃亡。その後、小椋一正容疑者は逮捕されたが、一連の逮捕劇の裏には、密室での恐怖に襲われながらも咄嗟の機転を利かせた運転手の好判断があった。
「これはもう殺されるかなと思った」
当時の様子を語った被害者であり運転手のAさんは「車が通っていたら隙を見て、鍵を抜いて逃げようと思ってた」と明かす一方で「逃げていたらおそらく刺されていただろう。あれは地獄でしたね」と恐怖の瞬間を振り返る。またその後、事件のショックから「ガラの悪い人はスルーするときもある。やっぱり思い出しますね。昨日のことのように…」と本音を漏らす。
同業者は今回の事件をどのように見るのか。ある男性運転手が「素直に従うしかないと思う。すぐ会社に電話して、上司が客と直接電話でやり取りをして対処してくれたりもしますが…」と話せば、ある女性運転手は「飛び出して逃げると考えていますけど…なかなか難しい」と重い口を開いた。
まさに命がけの仕事でもあるタクシー運転手だが、逮捕された小椋一正容疑者は取り調べに対して「借金で金が必要だった」と身勝手な供述をしているという。
刃物を突き付けられた状態で「ライトを消せ」「エンジンを切れ」などと指示された運転手のAさんは実際にエンジンを切ったが、その後も車載カメラは作動しており、犯行の一部始終を捉え続けた。Aさんはそのことについて「エンジンを切るには切ったが、アクセサリー(ACC)の状態にした。エンジンを完全に切ってしまうと、ビデオも消えてしまうので」と説明をする。つまり、Aさんは密室の恐怖という極限の状態の中で咄嗟の機転を利かせていた。幸いにも、この事件でAさんにケガはなかったという。
手や口をガムテープで縛られ、身ぐるみをはがされた状態で道路に取り残されたAさんはその後、トラック会社の人物に助けを求め、警察に無事、保護された。
「大丈夫だよ。絶対に犯人を捕まえるから」と力強い言葉を警察官からもらい、安堵したのも束の間、「鑑識が来るまでテープはそのままで」とまさかの一言。2時間ほど手や口を縛られた状態のままで証拠写真を撮られるのを待ったという。
逮捕後の裏話を披露したAさんに対して、埼玉県警の元刑事である佐々木成三氏は「残念ながら刑事のレベルによって(拘束時間は)異なる。調書をもとに強盗事件を構築しなければならないので、被害者支援と公判維持、事件の構築のバランスを考えながら調書に必要な内容を盛り込まなければならない」と話すと「自分だったらテープはその場で切ってしまう。切るときの状況をビデオや写真で撮っておけばいい。ただ、ガムテープに刑事のDNAや指紋がついてしまうと証拠を壊してしまうことになるので、かなりシビア。判断は難しいところもある」と刑事の慎重な行動に理解を示した。(ABEMA『ABEMA的ニュースショー』)
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