10月11日、RISEぴあアリーナMM大会で行なわれた女子トーナメント1回戦は接戦が続き、もつれた展開の中で持ち味を出しきれない選手も多かった。トーナメントのプロデューサーを務める神村エリカは、みんなもっとできるはずなのにと怒りと悔しさを露わにしている。ただ“ダメ出し”の前置きとして「sasori対平岡琴以外は」と語っていた。
この試合の勝者、sasoriは神村プロデューサーが求める魅せる試合、男子に負けない迫力のある試合をしてみせた。
重いパンチを振り回して前進、組めば首相撲で振り回し、マットに叩きつける。そのアグレッシブ極まりない闘いぶりに、大会場の観客からどよめきが起こった。激闘を展開しながら不敵な笑みを浮かべる姿もインパクト充分。気迫を前面に出す突貫ファイトは、師匠の師匠にあたるガルーダ・テツを思わせる。この試合で、sasoriはトーナメントのダークホースから優勝候補の一角にのし上がったと言っていい。
会見でのコメントは所属するテツジムドラゴンの藤田飛竜会長に“耳打ち”して会長が話す通訳スタイル。1回戦突破後の一夜明け会見では「(地元の)姫路に走って帰ります」、「優勝賞金で婚活したい」、「好きなタイプは加藤剛。『大岡越前』の時の』と、なぜかsasori大喜利が展開されたのだった。
入場曲は梶芽衣子の『怨み節』。入場コスチュームの黒い帽子とコートは、この曲が主題歌となった梶主演の映画『女囚さそり』から。sasoriのキャッチフレーズは“女蹴さそり”である。『怨み節』はクエンティン・タランティーノの映画『キル・ビル』のエンディングテーマになっており、映画好きの藤田会長にとってはタランティーノオマージュでもある。もともとアマチュア大会出場時に「紅サソリ~~(本名)」とリングネームをつけ、それに本人も乗った。
「キックボクシングの世界に、こういうのが1人いてもいいんじゃないですか。面白いなと思いますよ……自分なんですけど」
かなり濃い目のキャラクターだが、もともとキックボクシングを始めたのはフィットネスとして。キャリアはまだ6年ほどだ。
「経験も浅いし技術もないので、とにかく前に出て倒すという闘い方。それは最初からずっと変わってないですね。相手の映像は見ないし、作戦とかもなくただ倒しにいくだけ。うまくやろうとしてもできないので」
試合中に笑うのも前から同じ。「最近になってそれがたくさんの人に知られるようになってきたという感じ」だという。ただ自分では笑っているという感覚はない。あくまで自然にそうなっている。
7月のRISE後楽園ホール大会では、ホームリングの王者である寺山日葵に敗れるも大接戦。笑いながら前に出る闘いぶりで注目された。そこから今回はトーナメントにエントリー。突進力、パンチの回転、一発のパワーすべてにおいて向上しているように見えた。巧みにボディを狙い、接近戦の中で落ち着いてミドルキックを蹴る場面も。本人はあまり意識していないそうだが、大舞台で成長を見せた。
トーナメント準決勝&決勝は11月1日のエディオンアリーナ大阪。準決勝では寺山との再戦が決まっている。優勝賞金は300万円。女子キックでは最高レベルのトーナメントだが、sasoriの視界にあるのは対戦相手のことでも優勝の名誉でもない。
「意識するのは自分がどこまでできるか。限界を知りたいし、限界を超えられたらいいなと。考えるのはそれだけです」
会長によると性格は「頑固で負けん気が強い」。無欲で無心のsasoriが、その勢いでトーナメントをすべて飲み込んでしまう可能性は充分にある。
文/橋本宗洋