“元暴走族vs東大卒官僚”という異色の顔合わせによる壮絶な打撃戦は、悶絶KO決着で幕を閉じた。
10月17日に開催されたKrush後楽園ホール大会のベストバウトは、セミファイナルのスーパー・ライト級マッチ、鈴木勇人vs松本篤人だった。鈴木は前同級チャンピオン。佐々木大蔵にベルトを奪われたが、再起戦にKO勝ちして這い上がってきた。対する松本は連勝中。勝った選手はタイトル戦線も見えてくる大事な一戦だ。
この鈴木vs松本は、対照的な選手の闘いでもあった。鈴木は元暴走族。少年院に入っていたこともある。プロ格闘家になろうと志した矢先に逮捕され、刑務所暮らしを送ったことも。心を入れ替え、人生を変えたきっかけが格闘技だった。
一方の松本は東大卒の現役官僚。試合用トランクスには「働き方改革」の文字が入っている。つまり“元暴走族vs東大卒官僚”。格闘技のリングでしか出会わなかった2人と言っていいだろう。そしてリングでは、過去も仕事も関係なくその時点での実力が露わになる。
両者とも序盤からアグレッシブにパンチを繰り出していく。松本のパンチに動きが止まる場面もあった鈴木だが、そこからしっかりと打ち返し互角の展開だ。鈴木は蹴りを得意とする選手なのだが、パンチの間合いに持ち込んだのは松本の作戦だったか。
一進一退の攻防、これぞKrushと言うべき激しい打撃戦の中で、松本のボディ打ちが効果を発揮し始める。鈴木は明らかに苦しそうで、このままダウンもあるかという展開だった。それでもパンチを繰り出し、完全には主導権を譲らない鈴木。
そして、松本の意識が攻撃に偏ったところに決着が待っていた。最終3ラウンド、今度は鈴木がボディにストレートをズバリ。松本は悶絶しながらダウン、そのままKO負けとなった。
激闘を制した鈴木は「楽に勝てると思ってたんですけど、松本選手は強かった。心が折れそうになりました」。インタビュースペースでは「試合前と180度、印象が変わりました」。元暴走族と東大卒の官僚が殴り合い、お互いを認める。そんな場面があるのも格闘技の魅力だ。