ひたすら殴る選手と、ほぼ手を出さずに殴られ続ける選手。明暗、立場ともにクッキリ分かれた奇妙かつ形容し難いフルラウンドの攻防戦を受け、「頑張って立ってはいます」という“迷”実況が誕生した。
問題の試合は10月16日に放送されたONE Championshipのシンガポール大会「ONE: REIGN OF DYNASTIES II」でのキアヌ・スッバ(マレーシア)とタン・カイ(中国)の一戦。タンは10試合で9KOと決定力のあるKOアーティスト。しかし、1ラウンド序盤から積極的に前に出続けたタンに対して、それを避けるようにひたすら下がり続けるスッバという煮え切らない展開が繰り広げられた。
ABEMAでゲスト解説を務めた平田樹は「フォームもきれいな選手でバランスもいい」とタンを高く評価する一方、スッバについては「もっと打撃に行って欲しい」と消極的な姿勢を指摘。しかし、その傾向は2ラウンドに入り、さらに強くなっていく。
2ラウンド、最初こそスッバがタックルを狙いにいくが、すでに距離感を掴んだタンの右を被弾すると、前に後ろにのらりくらり…。顔面やボディにパンチを貰うが、スッバはなかなか手を出さない。そんなスッバの様子にしびれを切らした視聴者からは「スッバは心が弱いな」「もっと攻めてくれよ!」など苛立ちの声が聞かれ始める。
その後もスッバは前に出たかと思えば、ステップを踏むだけ。さらにタンがパンチを放てば、それに応じる様子もなく避けるようにじりじりと後退。スッバを追い詰めたタンがケージに追い込んで2、3発当てると、スッバはひたすらガードのポーズで逃げの姿勢を貫くばかりだ。
とはいえ、ケージの中でいつまでも逃げ続けることはできない。タンがスッバを捕捉する回数が増えるにつれ、スッバは“殴られっぱなし”に。それでも向かっていかないスッバに「スッバ行けよ」「ちょっとは殴り返せ」「諦めてるやん」と視聴者のイライラはマックスに達した。そんな展開に解説を務めた大沢ケンジも戸惑った様子で「もう(スッバは)倒されないでやり過ごす方に行ってますね」と逃げの姿勢に苦言を呈すと、とどめを刺さないタンに向かって「タン・カイ、行かんかい」と冗談交じりに発破をかけた。
もはやタンが“いつ、どのように倒すか”だけがテーマとなった第3ラウンド。序盤から仕留めにかかったタンのパンチは、ほぼ全てがスッバの顔面を捉え、スッバはサンドバック状態。ケージを背に右往左往しながら防戦一方のスッバ。右が顔面、左がボディを捉えて前に崩れそうになっても、その後、ボディに何発もパンチやヒザを貰っても、一向にスッバはダウンをしない。
そんな状況にネットからは「なんちゅうタフネス」「人間サンドバッグ」「殴られ屋」「何を目指してるんだスッバ」などさまざまな声が。ついに実況の西達彦アナウンサーからも「これだけ手数が出ないのに頑張って立ってます」という激励と冗談交じりの“迷”実況が飛び出す始末。
結局、ほとんどのラウンドでほぼ手を出さずに逃げ続けたスッバは、散々殴られたもののダウンを一度も喫することなく3ラウンドを戦い(?)抜いた。試合後、反省するように終始力なくうつむき、タンの勝ち名乗りを聞く姿が印象的だった。
(C)ONE Championship