立ち技格闘技イベントKrushの魅力の一つは、新陳代謝の早さにある。アマチュア大会、K-1甲子園などから次々に新鋭が台頭、激しい出世争いを展開するのだ。10代、二十歳そこそこのトップ選手も珍しくない。実績のあるベテランも、少しでも気を抜けば追い落とされる厳しい世界だ。
10月17日の後楽園ホール大会でスタートしたバンタム級王座決定トーナメントは、そんなKrushを象徴するような闘いだ。出場メンバーは若い選手が多く、タイトルを争うトーナメントであると同時にK-1・Krushの次世代エースをめぐるバトルでもある。いわば武尊や武居由樹に続く存在として名乗りをあげるためのトーナメントだ。
1回戦を突破したのは萩原秀斗、橋本実生、吉岡ビギン、黒田斗真の4人。橋本が99年、吉岡と萩原は2000年生まれと、まさに新世代である。優勝候補として注目されているのは吉岡。3月の試合で元王者の晃貴に圧勝してみせた。今回の池田幸司戦も、サウスポースタイルから繰り出す左の蹴り、遠い間合いからのストレート、ボディ打ちにバックブローと多彩な攻撃を見せている。が、最後まで攻撃の狙いが定まらなかった印象も。結果、判定勝利を収めたものの2-1のスプリット・デシジョンとなった。
もう1人の注目株・橋本も判定2-0と苦しんでの勝利に。対戦相手の藤田和希はアマチュア時代に負けている選手で、試合前は「1回戦でポカしなければベルトを獲れる」と語っていた。
「ポカ」ができないという思いが慎重さにつながったか、攻撃をヒットさせつつも藤田の反撃を許してしまう。ジムの先輩である武尊に見出され『格闘代理戦争』に出場した格闘能力を全開にすることはできなかった。
「優勝候補らしい試合を見せることができなかった」と吉岡。橋本は「自分が変われた、進化した感じがしました」と試合を振り返っている。実は橋本はデビューから2連敗ののち3連勝。最初の2試合は同じ『格闘代理戦争』組の松本日向に敗れている。デビュー戦は延長にもつれる接戦。そこで敗れているだけに、今回は競り合いの中で確実に勝ち切ったことに手応えを感じたのだろう。
トーナメント1回戦4試合ともKOがなく、盛り上がったとは言いにくい。しかしその中で各々に反省点も収穫もあった。重要なのは、若い選手はわずかな期間で大きく成長するということだ。ちょっとしたきっかけで別人になることもある。今回の試合でポテンシャルの高さは見せただけに、あとはそれをどう出し切るか。12月大会での準決勝・決勝は結果とともに彼らの変化と成長もしっかり見届けたい。
文/橋本宗洋