コロナ禍に伴い需要が大幅に低迷する中、ANAホールディングスは27日、2021年3月期の連結最終損益がリーマンショック直後に計上され“過去最大”とされた573億円をさらに上回る5100億円規模の赤字になるとの見通しを発表した。
今回の業績見通しについて、航空産業に詳しい桜美林大学の戸崎肇教授は「欧米の有名な航空会社も決算を発表しているが、その額と比べても大きな赤字だ」と話す。
ANAホールディングスの片野坂真哉社長は「来年度はあらゆる手を打ち、必ず黒字化を実現したいと思っている」と述べ、保有機体の削減や2022年度までにグループ全体で3500人程度の人員削減案、さらに来春までに社員の400人以上をグループ外企業へ出向させるなどのコスト削減を急ぐ考えを明らかにしている。
戸崎教授は「どこの航空会社も機体が余っているので、売り先がない。特に世界の主流が小型機、中型機に移る中、この状況で座席を埋めていかなければならない大型機は非常に厳しいと思う。また、4000億円のコストカットにはかなり思い切ったことをやらないといけないが、人は切らないと明確におっしゃっている。やはり企業イメージも悪くなるし、景気が回復し、成長路線に戻った時に訓練された人材がいないと困る」との見方を示す。
また、社員の出向先には、スーパーの「成城石井」や家電量販店の「ノジマ」など、一見、航空業界とは関係がないように思われる企業の名前も。片野坂社長は「飛行機以外の方々と交流することで本人も勉強になるだろうし、会社にも大いなる刺激になるかなと思っている」と話しており、これには戸崎氏も「色んな経験を積むことでシナジー効果が期待できるし、社員を通じて他の業界にANAのファンを作り上げていくことができる、いわな究極のセールスにもつながると思う」と評価した。
■ANAとJALが差を分けた理由
長年にわたりトップ争いを演じてきたJALが2010年に経営破綻、その後、国が国際線発着枠の分配などで“優遇”した経緯もあり、ANAは拡大路線を進んできた。
「経営破綻したJALへの資本注入が競争原理を歪めるということで、新規事業など路線拡大の抑制が図られた。一方、観光大国を目指さなければならないということもあって、ANAの増線につながってきたということがある。この拡大路線が裏目に出たという意見もあるが、東京オリンピックもあるし、インバウンドのお客さんは着実に増えてきていた。そこ対応するための拡大で、コロナの感染拡大が想定できないものであったことからも、ANAを責めることはできない」(戸崎教授)。
そのJALも2021年3月期の最終損益では大幅赤字を見込んでいるが、その額は2000億円規模で、ANAの半分以下にとどまるとみられる。戸崎教授は「JALは経営破綻してから。10年以上にわたって体質改善を進めてきた。その結果が生きていると思う。時期的な問題もあるものの、大型機も思い切って売却することができていたし、非常に収益性が高い一方、イベントリスクの大きい国際線の拡大を抑制してきた。また、社員個々人の経営感覚も高まったと言われている。そういったことが相まって、今回のANAとJALの差に出てきたと考えられる」と説明した。
他方、加藤官房長官は「GoToトラベル事業を通じて国内観光需要を回復させるとともに、水際対策を徹底しつつ、段階的に出入国規制を緩和することによって航空需要の回復も図ろうとしているところだ」と述べている。ANAもコロナ前の需要水準を基準に、来年3月に“国際線5割・国内線7割”まで回復するものと予想。また、2022年度をめどに新たなLCC、格安航空会社を立ち上げ、東南アジアやオーストラリア路線を開拓するなど攻めの姿勢も見せている。
戸崎教授は「GoTo キャンペーンが功を奏してきたので国内線に関しては妥当だと思うが、国際線は厳しいかもしれない。確かに世界で感染が拡大する中、アジアは比較的恵まれた状況にあるということで、観光地として欧米から注目されると思う。しかしながら再びロックダウンも始まっているし、時間差で国際線が深刻になってくる可能性がある。だから新たに第3のスタイル(ブランド)ということなのだろうが、従来のフルサービスキャリアとLCCの中間領域というのはイメージが掴みづらい。これから模索しなければならず、こちらも道のりは厳しいと思う」とした上で、次のような見通しを示した。
「現時点では、赤字を十分にカバーできるだけの融資元も見つかっているし、収益の支えになっている貨物がある。そしてアジアが早く戻ってくれば、当面は大丈夫ではないかと思う」。
■ホワイトカラー、空港にも変革を
慶應大学特別招聘教授・ドワンゴ社長の夏野剛氏は「パイロットやCA、整備といった現場には訓練や経験が必要だし、特にCAの中には、独立してマナー講師や企業を経営されている方もいる。一方、そうではないホワイトカラーが膨大に存在している。他の日本企業もそうだが、現場に厳しく、出向しなさいと言っている本社部門やセールス部門、あるいは関連会社、役員、ここにもメスを入れられるかどうかだと思う。こういう人たちにも、ぜひ外部への出向を経験してほしい」とコメント。
さらに「世界で最も国内線の運賃が高い、マイルあたりの単価が世界で最も高いのは日本だ。そしてLCCがうまくいかない最大の理由は、発着枠がないからだ。JALが経営破綻したときに潰すことができていたとすれば、発着枠がバーンとできてJAL出身たちによるLCCが10社くらい生まれ、東京=大阪間が5000円くらいになっていたかもしれない。だからJALにもANAにも頑張ってほしいと思う一方、高止まりしている国内線と、無駄なところに飛ばしている非効率さを整理することも考えるべきだと思う」とした。
戸崎教授も「空港もそうだ。JALが潰れたことによって、2012年が“LCC元年”になった。ただ、羽田空港という非常に大事な空港で、全体の発着枠が足りない。欧米では首都圏に第3、第4、第5の空港がある。そこ違いも非常に大きいし、横田空域の問題もある。そう考えると、地方空港は今こそチャンスと言える」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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