タイトル戦線にせよユニットの動向にせよ、今のプロレスリング・ノアは流れが激しい。わずか数大会で勢力図が変わることもある。8月には、中嶋勝彦が潮崎豪を裏切り名タッグAXIZが分裂、拳王率いる「金剛」に加入してファンに悲鳴をあげさせた。
10月28日の後楽園ホール大会でも“事件”が起きた。潮崎豪&清宮海斗&谷口周平vs拳王&中嶋勝彦&稲村愛輝の6人タッグマッチ。ポイントは11.22横浜武道館大会でGHCヘビー級王座を争う王者・潮崎と挑戦者・中嶋の前哨戦だった。
潮崎はチョップ、中嶋は蹴りを数えきれないほど繰り出し、真っ向からの打撃戦。場外でも激しくやり合う。しかしリング上で勝負を決めたのは清宮だった。
ナショナル王座を持つ拳王にタイガースープレックスを完璧に決め、3カウント。試合後は「お前だけには負けたくないんだ。プロレスリング・ノアの絶景は、俺以外には見せられない」と拳王のベルトに挑戦表明した。
清宮と拳王は、ノアマットでも最大級のライバル関係にある。昨年11月の両国国技館大会ではGHCヘビー級王座をかけ、メインイベントで大激戦を展開した。その後、清宮はベルトを失い、拳王はナショナル王者に。今度は立場を変えてのタイトルマッチとなる。フォール勝ちを収めた清宮は「俺に見下ろされる気分はどうだ?」。清宮としてはかなりキツい表現で、拳王に対してだからこそ出たのだろう。
(激しい攻防が続いた潮崎と中嶋の前哨戦)
そんな清宮を、金剛の若手ホープである稲村がギラついた目で見据える。しかしその目が意味するのは敵意ではなかった。稲村は清宮と握手をかわすと、拳王に深く一礼して退場。インタビュースペースには清宮と現れ、ここでもガッチリと握手している。
「金剛で学んだことには感謝してます。でも結果が出せてない。俺はもっと上のステージに行かなきゃいけないんです!」
勝利、そしてステップアップへの渇望が稲村を動かした。恵まれた体格とパワフルなファイトスタイルに加え、藤田和之にケンカを売るなど度胸も抜群。次世代のメインイベンターとして期待される稲村だけに“自立”を歓迎するファンは多いだろう。ましてキャリアの近い清宮との共闘は、ノアの未来を感じさせる。
「これくらいの気持ちがあるから、ノアの未来は明るいんですよ」
清宮はそうコメントしている。金剛にいる稲村に対し「これでいいのか」という疑問もあったそうだ。
「思うがままにやってよ。俺は俺で先を走る。お互いトップを目指そう」(清宮)
若く魅力的なコンビは、ノアにおける今後の勢力争いのカギになりそうだ。
文/橋本宗洋
写真/プロレスリング・ノア