11月1日のRISE大阪大会、そのメインイベントに那須川天心が登場する。対戦するのは“ミスターRISE”裕樹。3階級制覇を達成するなど、那須川以前の世代でRISEを引っ張ってきた強豪だ。
「RISEを引っ張ってくれた人だし僕も尊敬してます。しっかりと決着をつける試合にしたい」
試合に向けたインタビューで、那須川はそう語っている。この試合は裕樹の現役ラストマッチ。勝っても負けても裕樹が“主役”で那須川は“相手役”に見える可能性もあるから、那須川にとっては難しい試合だろう。だが那須川は「必然的に締まると思います」と言う。
「そこは自信があるんですよ。どれだけ裕樹さんがいい試合をしても、それも僕の物語の一部。最後は僕の物語になる。テーマは“冷静と上昇”。この試合でまた上昇していきたい。そのためには冷静でいる必要もあると思ってます」
裕樹は最後の試合だからといって「那須川天心という最高の相手に介錯してもらおう、最後は奇麗に散ろう」とは考えていないはずだと那須川。格闘技はあくまでシビアに勝負を競ってこそ。「どこまでやれるか」では納得できないし、裕樹も同じ思いだと那須川は信じている。
「裕樹さんは“那須川相手にどこまでできるか”みたいな試合はしてこないと思います。前回の試合(皇治戦)はそれを感じちゃったんですけどね。裕樹さんはどんな手を使っても、ドロドロの試合をしても勝ちにくると思いますね」
だからこそ那須川もやりがいがある。敬意をもって最大限の力で勝ちにいく。そして自分が最大限の力を出せば、必然的に自分が主役になっている。そういうことだろう。
「しっかり魅せる自信があります」
ここ数年、那須川は常に追われる側、挑まれる側だ。「この選手とやりたい」とか「コイツに勝ったら凄いな」といった感覚は「(フロイド・)メイウェザー戦が終わってからはないですね、そういえば」。
それでも「モチベーションは上がる一方」だと那須川。格闘技が好きで、強くなるための創意工夫を欠かしたことがないから、どこまででも上に行きたいと思えるのだ。
「もう相手どうこうじゃないですからね。この選手が相手だから燃えるとか、そういう次元でやってないですから」
それでも、勝った喜びは以前よりも大きいそうだ。毎回「よし、今回もクリアしたぞ」という強い手応えを感じている。
「昔は1つの試合に勝っても“次はこの選手に勝たなきゃ”という状況だったんですけど、今は違う。相手が何人も強い相手に勝って僕との対戦権を得て、研究して対策してモチベーションも最高潮で僕の前に立ってくる。そういう相手に勝ってるわけですよ、今の僕は。“アイツなら天心に勝てるんじゃないか”という相手をはね返し続けてる」
1試合の勝敗の重みはどんどん大きくなり、だから勝った充実感も大きい。那須川天心の物語は、いわば“ボスキャラ”目線の少年漫画のようなものか。そこには、孤高の存在にしか見えない景色がある。
10.11横浜大会と11.1大阪大会で、RISEの伊藤隆代表は“天心vsRISE”というスローガンを打ち出した。RISEから那須川に勝つ選手が出てほしい、那須川を超える存在に出てきてほしい。そんなテーマが込められている。“ポスト天心”“NEXT天心”というワードもメディアで使われるようになった。
「僕自身は意識してないですけどね。NEXT天心とか天心2世って言われるような選手がいても、結局それは本家を超えられないと思うんですよ。そう言われてる時点で、僕を脅かす存在ではないなって」
横浜大会では-63kgトーナメントを制した原口健飛が脚光を浴びた。今の原口には、次世代スター候補特有の勢いと輝きがある。それは那須川も認めるところ。だからこそ「原口選手個人として確立してほしい」と言う。また自身の経験を踏まえて、こんな分析も。
「人気選手になってくると試合数が増えるんですよ。そこをしっかりクリアしてほしいですね。スケジュール的に厳しくても当たり前に“やれますよ”となれば、もう一段階上に行けると思う。僕はやってきたから分かるんですよ、年9試合とか(笑)。しかもヒジなし、ヒジあり、MIXルールとか毎回ルールが違う。ヤバいですよね。それを全部受けて、魅せて勝ってきた。選手にはそういう勝負をしなきゃいけない時があるんです。最初、RIZINで総合格闘技の試合をってなった時も“ここでやらなかったら俺の今後はないな”って。僕という存在をアピールする時だと思ったので勝負しました。原口選手もここ1年くらいで、そういう勝負をする時期がくると思います」
今の那須川天心は、もはや単なる“人気選手”の域を完全に超えている。RIZINも那須川天心がいたからこそキックボクシングマッチが定着した。できることは全部やって、ここから先キックボクシングというフィールドで那須川が目指すものは何か。彼はこう答えた。
「現時点で“キックボクシング=那須川天心”にはなれていると思うんですよ。だから次はキックボクシングを超えたいですね。那須川天心という一つの競技みたいな。“コイツだけ違う競技をやってるな”と」
文/橋本宗洋