(トーナメント優勝の寺山。「天心には一生頭が上がりません(笑)」)

 劇的な優勝だった。11月1日のRISE大阪大会で行なわれた女子トーナメント。1回戦を勝ち上がった4人全員がタイトルホルダーというハイレベルな闘いを制したのは、ホームリングのチャンピオンである寺山日葵だ。

【映像】トーナメントを制し、涙を流す寺山

 19歳の若い王者は、戸惑いながら10月11日の1回戦を迎えていたという。

「女子の大きいトーナメントが開催されて、来年以降も続くようにいい試合を見せなきゃいけない。チャンピオンらしい闘いを見せなきゃいけない。そういう言葉を気にしすぎてしまって。チャンピオンらしい闘い方ってなんだろうって。倒すことなのかな、くらいしか思いつかなかったです。でも今の私には誰が相手でも倒せるほどの力はまだないし、無理矢理倒すようなスタイルでもないし…」

 erikaとのトーナメント1回戦、チャンピオンらしい強さを見せなければと焦り、無闇に前進して自分の距離感まで潰してしまった。得意の蹴りが決まらず、相手の武器であるパンチの間合いに入ってしまう。

「周りの言葉に気を取られてしまうのは、自分が確立されてないから」

 今ではそれが分かるが、試合直後はとにかく悔しくて泣いた。練習してきたことがまったく出せなかった。落ち込むだけ落ち込んだ時に、身近な人間からの声が聞こえてきた。

「RISE QUEENらしくなくてもいい、寺山日葵らしい闘いが見たい」

 自信が持てない自分が嫌いだったが、そんな自分を応援してくれる人がいることに気づいた。

「常に自信を持ってやればいいんだ、って。そう考えるようになって、練習に対する態度、集中力も一つ上の段階になったと思います」

 7月にも闘って苦戦したsasoriとのトーナメント準決勝は、しっかり持ち味を出すことができた。erikaもsasoriもパンチで突進してくる選手だから、基本的な対策は変わらない。練習してきたこともほぼ同じだ。だが寺山のメンタルが大きく変わっていた。自信を持って得意技を繰り出す。距離をコントロールしながらダメージを与える前蹴り。突進のカウンターになるヒザ。sasoriを迎撃する寺山には、何をすればいいのかという確信があった。

 バックステップで距離を作ることもできた。これまでは下がることにネガティブなイメージがあったが、下がってもそこから攻撃を当てて効かせればいいのだと考えることができた。きっかけは同門である那須川天心の言葉だ。

「天心が“下がるのは悪いことじゃないし、俺は下がってロープ背負ってもコーナー背負っても全然怖くないよ、余裕あるよ”って。どうやればいいか教えてくれたし、下がることをチャンスにできるようになりましたね」

 決勝戦、紅絹とのRISE王者対決も制して優勝。「紅絹さんも1回戦のダメージと疲れがあるのか、いつもほどには足が動いてなかった」と寺山は言う。大きな実力差はないと感じているのだ。しかし相手の状況を判断できる落ち着きがあったということが、この言葉から分かる。

「このファイトスタイルを極めたい。このやり方でレベルアップしていけば、という感じです。このトーナメントで自分のスタイルが見えてきました」

 自信が持てたこと、成長できたことは、賞金300万円よりも大きいかもしれない。自信を持ってリングに上がったからだろうか、sasoriとは距離を取るだけでなく真正面からの殴り合いも展開している。

「ラスト30秒、sasori選手が笑いながら足を止めてきた。これは私も打ち合わなきゃ勝ちじゃないだろうって、その気持ちだけでしたね。セコンドには打ち合う距離に入るなって言われてたんですけど、ラスト30秒だけ無視しちゃいました。中途半端に負けず嫌いなんです(笑)」

 そのセコンド、今回は那須川天心がついていなかった。彼はこの日のメインイベントに出場していた。

「今まで、セコンドに天心がいなかったのは1試合だけ。これまで自分の試合の次の日もついてくれてました。今回は最初から“俺、セコンドつけないけど大丈夫?”って。大丈夫じゃないけど大丈夫って言うしかないですよね(笑)。でも自分の試合もあるのに作戦を考えてくれて、控室でも声をかけてくれて、セコンドにいなくてもいるのと一緒みたいな状態でした。最強の味方です」

 寺山が活躍すると、常に天心の存在がセットで語られる。“天心の妹分”といったイメージもついた。そこからひとり立ちし、那須川に頼らなくても勝てるようになりたいという思いはある。ただ今は彼に頼っていることを否定しないし、そのイメージが嫌でもない。

「天心と同じジムだからもらえたチャンスもあるし、実際に力をもらっているので。感謝しかないです」

 格闘技を始めたのは6歳の時。だが周囲にはそれを言わなかった。「自分から言ったのは一番仲がいい子くらい」だそうだ。

「女子が格闘技をやるのは珍しいから“凄いね!”みたいに言われるじゃないですか。それが恥ずかしくて。目立つのが好きじゃないんです」

 けれど来年の成人式はベルトを持って写真を撮り、地元の式に出ようかなと考えるようになった。さすがに地元ではプロで活躍していることが知れ渡ってきたし、知られても恥ずかしくない結果を出すことができた。

格闘家だっていうことはほどほどに出していこうかなと。地元ではけっこう知られちゃってるし、ちょっとは自信もついたし......」

 まだ謙遜しがちな寺山だが、RISE QUEENとトーナメント王者、2本のベルトを「凄いね!」と旧友に褒められたら、ちょっとどころではない自信になるはずだ。

文/橋本宗洋

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