11月3日のDDT大田区総合体育館大会は、団体にとって今年唯一の“有観客ビッグマッチ”だった。コロナ禍に見舞われ、どの団体もプラン変更を余儀なくされる中、DDTは「動きを止めない」ことを重視して無観客大会を含め積極的に試合を行なってきた。
今大会は、そんな2020年のDDTを代表する意味があるビッグマッチ。そのメインで勝利したのは、KO-D無差別級王者の遠藤哲哉だった。
遠藤は6月の無観客ビッグマッチでベテラン田中将斗(ZERO1)からベルトを奪取。竹下幸之介と同年デビュー、DDT新世代を代表する選手の一人だ。ハードなトレーニングと緻密な栄養管理で作り上げた肉体は、遠藤曰く「プロレスのため」に特化したもの。機能美の極致と言ってもいい。その肉体から繰り出すのは、オールラウンドな技の数々。飛び技、投げ技、関節技すべてでフィニッシュできるのが強みだ。
王者として大事なアピールの場となる有観客ビッグマッチ、遠藤は挑戦者に佐々木大輔を指名した。両者はともに人気ユニットDAMNATIONのメンバー。遠藤を誘ったのはほかならぬ佐々木だ。“カリスマ”と呼ばれ言動も試合ぶりも無軌道な佐々木と組むことで、遠藤は大きく成長していった。
だからこそ、チャンピオンとして佐々木を超えることが必要だった。試合に向けた前哨戦の中で、遠藤はクーデターを起こし佐々木をDAMNATIONから追放。それは「本気の佐々木大輔と闘いたい」からだったという。
その狙い通り、怒りに燃える佐々木は破天荒な攻撃を連発する。コーナーから場外の本部席を超えてのエルボードロップ。レフェリーを巧みに排除してのイス攻撃。大技を切り返し合う中で、カナディアンデストロイヤー式のツームストーン・ドライバーという超荒技(正田デストロイ)も。大会一夜明け会見で、遠藤は「あの技で首が3cmくらい縮んだ。それでこそ佐々木大輔」と語っている。
もちろん全力には全力。セコンドの数で上回っていた遠藤だが介入を拒否すると頭突きを叩き込む。執念を感じさせる決死の攻撃だ。そこから変形片翼の天使で頭から突き刺し、最後はシューティングスター・プレスを決めた。
(試合後は遠藤の呼びかけで佐々木がDAMNATION復帰)
マット界でも屈指の美しい空中姿勢を誇る遠藤の必殺技について“大社長”高木三四郎はこう語っている。
「大田区の照明の下で遠藤が空中に円を描いたときに“あぁ、スターだな”と思いましたね。よその団体と比較しても自信をもってオススメできる選手です」
この一戦、遠藤は佐々木に勝っただけではない。現時点のポジションにおいて、これまで常に先を走ってきた竹下を抜いたと見ていいだろう。チャンピオンとして、また団体を代表するトップ選手として確立したのだ。
「来年は6月にできなかったさいたまスーパーアリーナ、11月予定が見送りになった両国国技館でやって、また大田区に戻ってきます。今度は客席制限のないフルハウスの会場で」
試合後にそう語った遠藤は、大田区大会で竹下に勝った秋山準に照準を合わせた。11月22日から始まるシングルリーグ戦・D王グランプリ。その初戦で秋山との対戦を希望し、正式に決定している。全日本プロレス、ノアでトップを張り、現在はDDTにレンタル移籍中の秋山を下せば、チャンピオンとしての価値はさらに上がる。
「(秋山が)竹下に勝ったと言っても、今のDDTで最強なのはチャンピオンの俺」
そう言って胸を張る遠藤。トップ選手としての決意と風格がそこにはあった。
文/橋本宗洋
写真/DDTプロレスリング