「専門学校に入学してすぐの授業でディベートしたんだけど、お題が『動物園は必要か不要か』で不要派の圧勝だった」
先日、話題になったこのツイート。投稿したのは元動物園飼育員のZooBabyさん。本人に話を聞いてみると、「不要派から出た意見としては、『檻の中とか狭い場所に閉じ込められているように見える』『触れ合いとかでお子さんに触られたりすることが多いが、そういうのが動物たちにとってストレスになるのではないか』とか、動物がかわいそうという意見が一番多かった」という。
そもそも動物園とは何のために存在するのか。動物を実際に見て触れ合える、遠足やデートなどテーマパークのように感じている人も多いと思うが、実はきちんとした役割がある。日本動物園水族館協会によると、その役割は主に4つ。野生動物を守り、次世代に伝える「種の保存(保全)」。生態を詳しく知る「調査・研究」。実際に動物を見て学ぶ「教育」。命の大切さを感じる「レクリエーション」。
その存在意義を訴えるも、ネットでは「人目にさらされて…動物がかわいそう」「研究したいなら現地ですれば良いのでは?」「人間のエゴじゃないの?」など否定的な意見もある。
そんな声を受けてか、動物園の在り方も変わりつつある。福岡県にある大牟田市動物園。ここでは約50種類の動物が飼育されている。企画・広報担当の冨澤奏子さんは「当園のコンセプトは、“動物福祉を伝える動物園”。動物福祉がどういうものなのかというと、動物が精神的に肉体的に、十分に健康であって幸福であって、環境とも調和しているということを表している」と話す。
ここでは、動物の目線で幸せな暮らしをとことん追求し、来場者に伝えている。「レッサーパンダという動物がいる。木の上で生活をする動物で、頭から登って頭から降りてくることができる。それくらいバランス能力に長けた動物だが、暮らしの中でそういった行動を引き出したいと思ったので、壁に木材を付けてボルダリングをしてもらったりとか、木の枝を頻繁に変えて、限られた空間だが慣れる前に環境が変わっていくというような環境づくりを心がけている」。さらに、餌をあちこちに隠してライオンに探させて食べさせるなど、野生に近い行動を引き出し、本来の生態に合わせるなど工夫を凝らしている。
一方で、園内で「ぞうはいません。ぞうは群れ社会で生きています。当園には群れを飼える広さがありません」という看板が。冨澤さんは「動物福祉を当園がどのように考えているかを体現しているのが、その看板だと私も思っている。動物にとって最適な環境を用意できないのであれば、その動物の飼育を諦めるということも今後は必要になってくると思う。動物を飼育するという上で動物福祉というのが当たり前の世の中になってほしいと思う」と述べた。
ただ見るだけでなく、動物の幸せも考えなければいけない時代。果たして私たち人間には動物園はいるのかいらないのか。6日の『ABEMA Prime』では、その在り方を動物福祉の観点で考えた。
動物園のスタッフや学芸員を経験し、現在はどうぶつ科学コミュニケーターの大渕希郷氏は、動物園は「必要だけど改善点も多い」として次のように話す。
「動物園として、まずは種の保存というのが大きな目標の一つでもある。種の保存をするためには、その動物のことを知らなければいけない。調べて研究しなければいけない。もちろん野生でも研究していて、ようやく最近は科学技術の進歩によって進んできている。DNAの解析技術であるとか、ドローンの登場でどんどんできるようになっているが、やはり野外で研究するのは非常に大変だ。(野外と飼育下)双方でしかわからないこともあり協力し合ってやるべきだが、飼育下で分かることも大きいので必要だと私は思う。そもそも動物園は博物館の一種というところから始まっているので、そこもきちんと押さえていきたい」
一方、動物を救うための活動を行っているNPO法人「アニマルライツセンター」代表理事の岡田千尋氏は、「動物園は動物福祉を損なう」と主張する。
「最初に言いたいのは、動物の個体自身への敬意を考えて欲しいということ。その動物にとって一生は一度しかないわけだが、私たちが種の保存のため、教育のため、娯楽のためと言いながら全て奪ってしまう。アニマルウェルフェア(動物福祉)というものは、動物行動学や生態学、生理学など科学的な根拠をもって論じられていて、人間の主観が間違っているといった話ではなく、動物たちがどれだけその動物らしくいられるのか、動物本来の欲求を満たしていけるのかということを考えていくようなものだ。そう考えると、動物たちの本能や動物らしさ、ライフサイクルがきちんと送れない動物園、閉鎖された檻の中というのは、非常に動物の福祉を損なうものだというふうに考えられる」
動物愛護をテーマにした動物園ならよいのか。岡田氏は「“動物園”としてわざわざ動物を見せる必要はないのではないか。例えば種の保存といった時、レスキューセンターやリハビリセンターという形態にしていくことで、より種の保存が図られていくだろうということもある。“見せて人間が楽しむ”ということが今の動物園は主になっているので、その形態は間違っているのではないかなと思う」と、動物園の娯楽要素に異議を唱える。
一方で大渕氏は、岡田氏の“閉じ込める”といった表現に反論。「そもそも動物園で飼育して初めて、こういう飼い方だとストレスを感じるだろう、こういう飼い方だったらいいだろうと(生態などが)わかってきたわけなので、飼育を否定するような言い方はどうかなと思う。今動物園で一番言われているのが、行動のレパートリーだ。種ごとによって状況は違うが、野生の動物にはどういった行動のレパートリーがあって、それが動物園でいかほど再現されているのか。もちろん、常同行動などが出ているのは良くないと僕も思う。飼育“技術”なので、そうやってどんどん高めていくことも動物園の大きな使命だと思っている」との考えを示した。
しかし、岡田氏のそもそもの主張は「できれば全ての動物園を人間の支配下からはなくして欲しい」というところにある。大渕氏は「僕はずっと言っているが博物館だ。そして支配という言葉は、動物園に勤めていた立場としてすごく辛い。支配ではなく“利用”。同じではない。管理下に置いて、マネージメントしている。動物を扱う者として、その責任は絶対に負わなければいけない。猫を飼う時も外で飼うなんて絶対にありえないので、それを支配と呼ぶのであれば見解の相違かなと思う。そして、なぜ利用しているのか。博物館なので、いろんな人に見せて教育に活かし、次世代の研究者やその道に行く人を育てるという側面もある。何より、私たちも動物で、地球の一員だ。他の生き物と関わらずに、自然を利用せずには生きていけない。では、どのくらいの利用なら地球にダメージを与えないで一緒に持続可能に生きていけるのか。それは研究によってしか明らかにできず、その上で飼育は必要だということだ」と主張した。
では、動物園などで行われる触れ合いやショーなどは動物にとってストレスなのか。岡田氏は「特に触れ合いはやめていっていただきたいし、ショーも当然行うべきではないと思う。給餌タイムもあるが、今動物はあまりにもやることがないので、給餌が行動エンリッチメントに一部なっていたりもして、本来はやるべきではない。人獣共通感染症や感染症のリスクからしても行うべきではないと思う」と指摘する。
大渕氏は「人獣共通感染症に関しては、お互い消毒をするとかきちんと配慮をしている。扱うのは家畜と呼ばれる動物たちで、もちろんストレスにならない範囲で時間も管理してやっている」とした上で、ショーなどに関しては「各園が頑張って教育的な側面を強く出してきている。イルカのショーにしても、“イルカがこういう行動ができる”というのは学習によって得たところももちろんあるが、その能力は野生で何かに使われているはずだ。それをショーに転用して見せることによって、“イルカはこういう能力を持っている”“こういう動物だ”ということを知ってもらう方に転換しつつある」と訴えた。
また、娯楽要素も必要だとし、「動物園の使命は生物多様性で、『これは地球規模課題だから』というのは動物を好きな人も嫌いな人も言う。でも、好きか嫌いかは関係なくて、生き物が減っていったら地球の環境は維持できない。それを動物園に来て知ってもらうためには、入口は娯楽でもいいと思う。そこで何か学んで帰る、あるいは動物園はこれでいいのだろうかという問いでもいい。何か持って帰ってもらう仕組みが必要だと僕は思っている」とした。
日本の主な公立動物園の入園料は500~800円前後で、設備の改修等が厳しい状況が続いている。一方、海外の動物園の入園料は、アメリカ・サンディエゴ動物園が約6200円(60ドル)、フランス・ボーバル動物園が約4200円(34ユーロ)などで、きちんとお金を取って動物のための環境を作ることも必要なのではないか。
大渕氏は「日本の動物園はほとんどが地方自治体の下にいることもあって、やはり歴史的な慣例というか前例主義みたいなところがある。しかし、やはりそれはおかしいということで、少しずつ上げようという動きはある。動物園では、飼育員ではなくて動物専門員というような言い方にもしてきているし、政府もどんどん変えていこうとしている」と説明した。
日本動物園水族館協会は今年、動物のストレスを減らすため、1頭あたりに必要な面積や、床の素材に適切な室温まで、適正な飼育環境を取り決めたガイドラインを発表した。
動物園のスタイルをアップデートしていくにあたり、どんなことに取り組んでいるのか。大渕氏によると、「動物と一言で言っているが、虫なども含めて少なくとも100万種以上がこの地球上にいる。それぞれの飼い方は全然違うが、必要な広さであるとか、群れで暮らしているのであれば何頭以上であるとか、はっきり言って今までの失敗も含めた飼育の努力でこうしたマニュアルができつつある」という。
岡田氏はこの点は前向きに捉え、「こういったマニュアルを作っていただけるというのは、非常に歓迎しているところ。これまで全くない中で私たちも意見を届けてきて、話が通じなかったのがどんどん変わってきている。特にここ数年で大きく変わってきているのを感じているので、こういった動きはどんどん広がっていって欲しいと思う」と述べた。
(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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