兵庫県明石市の泉房穂市長は先月、「生まれて間もない2カ月から1年3カ月もの長期にわたり、親子で共に過ごす時間を奪ってしまったわけだから、それは本当に申し訳ないという気持ちだ」と、ある夫婦に謝罪した。
夫婦は一昨年、当時生後2カ月だった子どもへの虐待を疑われた。子どもは児童相談所に保護され、離れ離れの生活を余儀なくされていた。しかし先月、神戸家庭裁判所は「虐待とは認められない」との判断を示し、兵庫県明石市も「虐待の事実はなかった」として両親に謝罪した。
暴力や育児放棄などの相談・通報を受け、原則2カ月、付属する施設で一時保護することができる児童相談所。その存在により救われる親子がいる一方で、親の意思にかかわらず保護することができるため、時としてこのような「誤認保護」が起きてしまっている現実がある。
■1年近くにわたり娘と会えず…「今も納得がいっていない」
一時保護されている娘と1年近くにわたり面会ができていないと訴えるのは、山本あやこさん(仮名)だ。始まりは、山本さんが娘を連れて親族の家に遊びに行った際、長女の顔や服に血が付いているのを見た親族が虐待を疑い、児童相談所に通報。数日後、娘は一時保護となった。
「自分だけがよければいいんじゃないんだよというのを教える意味合いで叱っていた。最初から叩くということはなく、口で言って、それでもなかなか通じないときに最終的に…という感じだった。親族に見られた時は、確かに手を上げているところではあったが、叩いたことで血が出たというわけではない。たまたまその週は、夜寝ている時などに鼻血をよく出していた。それでも、過去に親族の前で強く怒ったこともあったので、“ちょっとこれは”と思われてしまったのかもしれない。私の言葉足らずもあり、誤解を招いてしまった」。
しかし、たとえ保護者は「しつけ」のつもりであっても、叩いたり、蹴ったりすることは身体的虐待とみなされる。児童相談所と面談を重ねた山本さんは、これまでの「しつけ」を反省し、養育のあり方を改めると約束。娘も帰宅を希望したため、一時保護から約2カ月後、自宅で家族が揃うことができた。
ところがその後面談を重ねる中で、娘は再び保護されてしまう。山本さんによれば、児童相談所側は「身体的な虐待はないものの、子どもが帰りたくないと言っている」と説明したという。「私たちが“宿題ちゃんとやりなよ”と言っていたのが、子どもにとっては嫌だったみたいで、それが心理的虐待と取られた。“子どもが嫌がることとか、怖がることとか言うのは虐待”と言われてしまい、ショックだった」。
以後、何度か児童相談所からのヒアリングの機会があったというが、娘との面会は叶わなかったという。「私たちとしては一生懸命に子育てをしているので、子どもの言うことが100%、みたいな形ではなく、どういうことをやっているか、ということをもっと見てもらいたかった。こんなに離れているんだから、一度も“家に帰りたい”と言っていないというのはいくら考えてもおかしいと思う。そういう子どもではない。そして施設に入所させるということには同意できなかったので、裁判所の審判に入ることになった。そこから、児童相談所の方には連絡しなくなった」。
保護される前に長女が書いてくれたという手紙を取り出した山本さん。「“ママ大好き”とか、私の体調を気遣って“ママ大丈夫?元気”という言葉が書いてあった。返信する前に保護されてしまった」。
■「子どもの命がかかっている児童相談所は“ミスがなくて当たり前”の難しい立場」
児童相談所の所長も務めた経験のある児童虐待防止協会の津崎哲郎理事長は「児童相談所は保護する・しないについての強い権限を持っているので、ソーシャルワーカーが家庭だけでなく経緯や生育歴や関係先などの社会調査を行い、心理の担当者が子どもさんを検査して心理状態を捉える。あるいは行動観察といって、保護時の行動をつぶさに観察する。また、小児科医、精神科医が医学的な診断を行う。それらを総合して、家に帰した方がいいのか、そうでないのかを評価するシステムになっている」と説明する。
「一般家庭で調査しても、6割くらいの親は子育ての中で体罰の経験があると答える。人間なので、そういうことは起こる。ただ、普通はそれによって親子関係が崩れ、子どもが家に居たくないというまでにはならない。そこまでの強い意思表示をするということは、単に叩いた・叩かないという部分だけではなくて、親と子の関係性が育っていないのではという気がする。児童相談所としても、子どもが意思をはっきりと示せる場合に“家に帰りたくない”と強く言えば、帰すのは難しい状況になるため、その緩和の方法を考えるということになる。ただ、施設に入ったとしても、子どもさんと親が再び元の生活に戻れるような再統合支援というプログラムを作り援助する」。
そして「誤認保護」の問題については、「子どもの命がかかっている児童相談所は、ミスがなくて当たり前。保護したことで親から“不当な保護だ”と言われることもあれば、保護を解除したことで事件・事故に巻き込まれてしまえば社会から袋叩きにされてしまう。そういう難しい立場にある。しかし、リスクがあれば保護せざるを得ないというのが児童相談所の立場だ。明石市のケースでも、赤ちゃんなのに、ねじれた形で骨折していたので、保護せざるを得なかった。審判が降りるまでは難しかったのだろうが、1年3カ月にわたって会えていないという状況があり、その間の子どもと親の“愛着形成”ができなかったことを考えれば、安全を確保する工夫をしながら会える時間を作る必要性があったと思うし、そのことは明石市長も指摘されていた」とした。
その上で、山本さんのケースについて津崎理事長は「児童相談所としては、子どもさんの意思を尊重した対応を取ると思う」としつつも、「会えない状態が長く続いていることは問題なので、子どもさんの意思を尊重しつつも、今の気持ちを汲み取って山本さんに伝えるとともに、どうすれば歩み寄ることができるのか、その改善方法が具体的に伝わるよう、山本さんとの手紙のやりとりをできるようにするなど、親子の間に立った調整型の対処ができるといいと思う」とコメント。
また、「児童相談所の対処に不服があるのであれば本庁の児童課に申し立てをし、調整をしてもらうことも可能なはずだ。また、現時点では審判中で動きがとりにくいということであれば、裁判所に対して“自分はこういう形で改善したいと思っていて、子どもとも早く修復の関係を作りたいんだ”ということをしっかりと伝えることも大切になると思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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